去年はジョシュア・ファリスの動向で喜び、落胆した年でもありました。

 

2015年、脳震盪がきっかけで、引退を宣言したジョシュア。引退を決めたときのインタビュー翻訳が以下に掲載されています。

原文

http://www.icenetwork.com/news/2016/07/01/187300788

翻訳

http://taranofsdiary.jugem.jp/?eid=302

 

 

2012-13年の世界ジュニア選手権で優勝したジョシュア・ファリスは、直前の2014-15年シーズンで浮上のきっかけをつかんだようにみえました。それまで2年連続で4位だった全米選手権の順位を3位にあげ、四大陸選手権は2位(2013-14シーズンは6位)、そして初の世界選手権に出場していました。その矢先に脳震盪をおこしたのです。それもわずか3週間の間に3度も。

 

永久的な脳障害の危険性があると医者から宣告をうけたジョシュアは、競技生活をあきらめ、引退を決めました。コーチングでスケートにかかわり続けること、音楽セラピーや脳震盪支援団体とのかかわりを希望しながらも。

2001年、6歳でスケートをはじめ、はやくから注目されてきたジョシュアのキャリアはケガ/病気との格闘だったといえます。ケガ/病気の履歴をあげてみましょう。

2003年ごろ
失読症であることが判明。脳震盪が原因である可能性あり。


2009-2010シーズン
全米選手権の公式練習で外転筋を決裂。それでもSPに出場
FSの前日、牛乳アレルギーで救急救命室に運ばれ、FSは出場したものの転倒し、腓骨の骨折とアキレス腱の損傷。

2013-14シーズン(シニアデビューの年)
ロステレコム杯の練習中に右足首を捻挫し棄権

2015-2016シーズン
右足首のケガの影響で中国杯を欠場

2015-16
7月中旬、4T練習中に転倒。むち打ちと脳震盪。練習再開後、再び脳震盪。車の乗車の際にも脳震盪を起こす。グランプリシリーズは2戦とも辞退

そのジョシュアが復帰を宣言したのが去年2月のこと。1年ぶりにTwitterでつぶやいたのです。
I'm incredibly happy to announce my comeback today!!! I can't wait to show everybody what I'm truly capable of 

今日、復帰が発表できてものすごくうれしい!!!みんなに自分が本当にできることを見せるのが待ち遠しい

https://twitter.com/joshDfarris/status/829513294411132928?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Ftaranofsdiary.jugem.jp%2F%3Feid%3D325

そして、インタビューで次のように答えたのです。
"I want to skate for me," Farris told icenetwork in an exclusive phone interview earlier this week. "I'm skating for the love of the sport, not for the results. I want to skate to skate."
「自分のために滑りたいのです」とファリスは今週、独占電話インタビューでicenetworkに語った。「この競技を愛しているからスケートをしています。結果のためではありません。スケートのためにスケートをしたいのです」

原文
http://www.icenetwork.com/news/2017/02/08/215476312/for-the-love-of-the-sport-farris-announces-comeback
日本語訳
http://taranofsdiary.jugem.jp/?eid=325

どれほどうれしい発表だったことか。国内大会かな、と思っていたら、なんとNHK杯にアサインです。もう狂喜乱舞の世界でして、有頂天になってNHK杯の記事を書いたのをおぼえてます。あのときはジョシュアのあのGive Me Loveを生でみることができると信じきっていました。本人の言葉じゃないのですが、順位なんてもうどうでもよろしい、見られるだけいい。いや、もしかして、引退前よりもいいかも!なんてほくそえみながら。

が、その後、またもや残酷な事態がおこってしまいました。ドクターストップがかかったという理由で国内イベントをキャンセルした時に、状態を心配すべきだったのかもしれません。でもそのときはまだ日本で姿がみられると思ってました。でもその後、NHK杯を棄権。まったくニュースはなし。全米までにはなんとかなるのではないかと期待したのですが、やはり名前はなし... なにかが狂っている、とやっと気がつきました。

そして、わかったのは、ジョシュアが眼球運動を制御する脳神経の1つ第6脳神経に損傷があると診断をうけ、治療費をつのる資金活動がはじまっていたことです... 

奇しくも1月7日、23歳の誕生日の翌日にTwitterで発表がされていました。米国時間ではたぶん、誕生日の日だったのでしょう。

https://twitter.com/joshDfarris?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Ftaranofsdiary.jugem.jp%2F%3Fcid%3D48

ただ単にJosh's Eye and Brain Therapy Fund(ジョシュの目と脳の治療基金)と書かれ、活動のページがリンクされていただけのシンプルなもの。きっと、これだけのことを書くのに勇気をふりしぼったのではないかと...そしてリンクされたページが下のものです。

原文
https://www.gofundme.com/joshs-eye-and-brain-therapy-fund

メッセージの翻訳
http://taranofsdiary.jugem.jp/?cid=48

1日に2時間も動けない状態とは...不幸中の幸いは、目標額の5,000ドルをうわまわる11,720ドルがすでに集められていることでしょうか。私も寄付を、と思ったのですが、クレジットカードを記入する必要があり、セキュリティ上、不安に思ったので、主催者にPayPalで払えないかと問い合わせ中です。→ううう、、、PayPalの寄付はうけつけてないという返事が...

このような事態では、まずは苦労せずに生活できるだけの健康をとりもどすことが最優先事項でしょう。しかしなぜ、ここまでの苦難がジョシュアを襲うのか...滑るのが好きだから滑りたいとシンプルに願っている才能のある選手がなぜここまで苦しまないといけないのか...

初めて見たのはいつだったのやら。ジュニアはそのころはみていなかったので、たぶん、2012-13の全米か、シニアにあがった2013-14のスケートカナダなのでしょう。これは注目すべき選手、と確信をもったのは四大陸でした。キャリアのベストの演技は2014-15の全米選手権と四大陸でしょうか。どちらもできるにこしたことないのですけど、ジャンプ重視タイプか、プログラム全体でみせるタイプかどちらかを選べ、といわれたら、まよわずにあとのタイプを選ぶ自分の好みにどんぴしゃにあっていたのです。

ほんと、ジャンプ以外はすべてができる選手です。滑り、スピン、音楽のとらえかた...すべてに注意がいかずにはいられないタイプ。

といっても4Tとんでましたし、ケガさえなければ、そのうち4Sあたりを跳ぶようになるんじゃないかと期待もうかびました。

ややジャンプが弱く、ものすごく踊れる、スピンは絶品、スケーティングがよくて、技のつなぎが巧み、という点ではジェイソン・ブラウンもそうです。町田君のいう、フィギュアは音楽の身体的表現、という言葉を体現している存在。どちらも大好きです。が、二人には根本的なちがいがあると思ってます。

ジェイソンって、本質はエンタテイナーだと思うんです。みてくれる人の笑顔がみたいっていうのがたぶん、最大の動機。見ていて常に楽しいです。これはプログラムが去年のピアノレッスンとかWriting's on the Wallみたいな曲であってもそうです。プログラムみているときに胸がざわついても、ひきずらないというか。終わったらとにかく気持ちはすっきり、楽しさが残ります。ああ、いいものみた♪と思いながら、キスクラではしゃぐのをにこにこしてみたり、今年のハミルトンみたいなプロなら口三味線やりながら踊ったり。

一方、ジョシュアは銀盤の詩人。アーティストでしょう。アーティストって何をさすのか人によってちがうはずだし、自分自身もぜんぜんちがう定義をすることもありますが、その人がつくりだした世界にどっぷりつかりたくなったり、自分の感情がよびおこされたりするタイプをいってると思ってくださいね。本を閉じた後でその世界や言葉を反芻したくなる作家とか、パフォーマンスが終わった後でも頭の中でくるくる音楽や踊りをくりかえして、いろんな感情がかきたてられるミュージシャン/音楽家やダンサーっているのですが、そういう人たちをアーティスト、とくくってしまうときあるんです。

自分にとっては、ジョシュアの演技もそういう質のものです。シンドラーのリストはそもそもメッセージ性があるのですが、二度と見る勇気はないくせに忘れられないあの映画がまた浮かぶだけじゃないような気がします。そこまでならリプニツカヤのシンドラーもそうでした。とっくに忘れていたはずの走って行く小さな女の子の姿とモノクロの中の赤いコートがよみがえりました。そしてなにがおこったのかを瞬時に察したときの気持ちも。 が、ジョシュアのは、それより一歩進んで、もっとなにか心の底に踏み込まれているようなかんじです。気持ちがゆさぶられるからそう思うのかもしれません。このFSにしても、Give Me Loveみたいな特にメッセージ性はそれほどなさげなものでも(歌声は深くてなんともせつないですが!)、なにか反復したくなる。それも口三味線やるとか鼻歌うたうとかじゃなくて、目を閉じて、頭の中で音楽をならしながら、ジョシュアの演技をまぶたに静かにうつしたい。こみあげてくる感情を感じながらそうしたいのです。

大声でどなっているような演技ではありません。静かで清澄とでもいえばいいのかしら。Twitterへの書き込みもそんなかんじかな。 脳震盪の前ですら、数々のケガや病気に苦しめられてきた選手。押し流されそうな弱さをずっとかんじながら、たえずそれを払いのけようとしてきたのだろうか、と思うときもあります。もしかしてそういうところにひかれてるのかもしれません。弱さって魅力でもあるんだなということをあらためて感じる選手。.

 

コメントでジョシュアの話をしたときに、「朝霧や満月、夏であれば夜の虫の声」というたとえを書いていただきました。気にいったので、書いておきます。他にくわえるなら、月に照らされた海の波ってのもいれたい。昼間の煌々とした光より、夜の月か、朝の光にたとえたいです。

ともあれ、少なくとも、目の問題がなくなって、通常の生活を不自由なくおくれる状態になりますよう。できれば奇跡がおきますよう。

ジョシュアの演技をまとめて見られるの次のサイト。RinkResultsはシングルなら選手別に演技をまとめてくれているので便利です。もしジョシュアってどんな演技だっけ、って思われる方があれば、よかったらごらんください。お勧めは2のFour Continents Championships 2015のFSのシンドラーのリスト(デイモン・アレンとジョシュア本人の共同振り付け)、3のU.S. Championships 2015のSP Give Me Love(ジェフリー・バトル振り付け)です。

 

http://www.rinkresults.com/skater?skater_id=552

 

U.S. Championships 2015のFSもよかったのですが、リンクがはってないですね。ここに貼っておきましょう。解説のタラがジェイソンよりベターといい、ジョニーがナチュラル・アーティストと呼んで称賛を惜しまなかったのがこの演技です。3Lz+2Tがノーバリューになってしまっていなければ、さらに順位をあげたかもしれません。たしかこの年まで無効のエレメントが含まれたコンビネーションはノーカウント扱いでした。

 

 

 

 

 

★昨日のアップは、下書きのつもりがまちがえて公開してしまってました。たいへん失礼しました。

 

この話、後日談がありました。思ったよりも元気そうなジョシュアがなんとメディアに登場しています。少し症状がおちついているのでしょうか。そうだといいのですが。

 

http://www.krdo.com/news/local-figure-skater-brings-awareness-to-traumatic-brain-injury/683743822#sthash.nNunB9nt.fnmz

 

やはりたらさんのところで、そのニュースの翻訳が紹介されています。

http://taranofsdiary.jugem.jp/?cid=48

 

脳震盪のようなおそろしい結果をまねく状態になっても、練習したいという要求がかって無理をしてさらに悪い事態を招いてしまったのですね...脳震盪以外のケガにもまったく同じことがおこりえるのでしょう。基金の余剰金は地域への貢献につかわれるとのこと。脳震盪についての認識が高まることになりますように。