一昨年の紅白歌合戦、美輪明宏さんが大変な話題となりました。人の胸を強く打つような、そんな素晴らしいステージでした。
美輪さんは大変熱心な法華経(妙法蓮華経)の信者さんで、法華経に関する本も書かれていますし、講演活動などもされています。そんな美輪さんが入会されていた団体の1つに「南無の会」があります。
この会は、色々な所で法話をして、多くの方と仏教とのご縁を取り持ちましょう、という趣旨の団体です。会のリーダー的存在だったお坊さんの一人に、松原泰道上人という方がいらっしゃいました。
とても立派で、多くの方の尊敬を集めるお坊さんでしたが、若い頃は迷われる事も多かったそうです。晩年になってから「いま後悔する事と辛かった事」としてご両親とのご関係を挙げていらっしゃいました。
自分が若い頃、お父さん(やはりお坊さんでした)から大事なこと、大切な事を教えられても聞く耳を持てず、お父さんが亡くなってはじめて、どれだけ大切な事を教えてくれていたか分かるようになった、との事でした。
松原上人は幼い頃に実のお母様を亡くされ、ずっと義理のお母さんに育てられていました。しかしこの方、大変に怒りっぽい方だったそうで、松原上人は常に厳しく怒られており、上人が結婚してから義母は奥様に対しても辛く当たるようになってしまったそうです。
しかしお寺での生活ですから別居する事もできず、立場上なかなか悩みを外へ話すこともできません。ご夫婦は「我々二人は人を泣かせるような事なんてしていないのに、どうして毎日毎日こんな辛い思いをしなくてはならないんだろうか」と泣き明かす事もあったそうです。
しかし晩年になって当時の事を振り返ると、「我々夫婦は、あの時ああいう辛い経験、辛い時期があったからこそ、他人の悩みに真剣に耳を傾ける事ができるようになりましたし、また、人の痛みに共感できるようになりました。そう考えてみますと、あの辛い時期というのも我々にとって一つの大きな仏縁だったんです」とおっしゃっていました。
辛い経験があったからこそ今の自分があるんだ、というお気持ちの方は多くいらっしゃるかと思います。「お釈迦様は苦しみの多いこの世に生まれたからこそ、完全な悟りを得ることができた」というメッセージもお経からは受け取る事ができます。
ここでキーワードになるのが「無常」という仏教語です。これは「全てのものは移り変わっていく。一つとしてそのままで留まり続けるものはない。
この事をきちんと知って、物事に対する執着を減らすのが人生の苦しみを減らす大切な道である」という仏教の大切な教えです。
苦しみ、不安、悲しみといった経験は、できれば避けて通りたいのが人情です。しかし避けられず直面してしまったら、「ずっとこの感情、状態が続くわけではない。必ず過ぎ去っていく」ときちんと知っておく事と、「今の自分だからこそ学べること、気づけることが必ずある」という考えを持つ事は、人生においてとても大きな力になるのではないか、と思うのです。