弘法大師伝 科目試験「空海の日本史上における意義」 | 「明海和尚のソマチット大楽護摩」

「明海和尚のソマチット大楽護摩」

ソマチット大楽護摩は、古代ソマチットを敷き詰めた護摩壇
で毎朝4時から2時間かけ護摩を焚きカルマ浄化、種々護摩祈願を行なっている。

 弘法大師空海のご生涯について、日本の歴史上における意義について論じなさい。

 

 一、仏教伝来時から奈良仏教に至る顕教を把握したうえ、唐で最新であった中期密教を請来したこと。

 大同元年(八〇四)空海が朝廷に献上した『新請来経等の目録』に「入唐学法の沙門空海、大同元年に請来せる経・律・論・疏・章・伝記、并に仏・菩薩・金剛天等の像・三昧耶曼陀羅・法曼陀羅・伝法阿闍梨等の影、及び道具、並びに阿闍梨付嘱物等の目録都合六種、就中、新訳等の経 都て一百四十二部二百四十七巻、梵字真言讃等 都て四十二部四十四巻、論疏章等 都て三十二部一百七十巻、已上三種惣て二百一十六部四百六十一巻、仏・菩薩・金剛天等の像・三昧耶曼陀羅・法曼陀羅・伝法阿闍梨等の影共に一十舗、道具九種、阿闍梨付嘱物一十三種」とある。(注1)

 高木神元氏の研究によると、空海の請来経は、日本ですでに書写された経との重複がわずか三点しかないことが明らかにされている。この事は空海が、仏教伝来時から奈良仏教に至る経典類を把握したうえ、唐で最新であった中期密教を請来したことがわかる。

 また、空海は弘仁十四年(八二三)『真言宗所学経律論目録』「三学録」を選述した。これは、真言宗僧侶が学ぶべき経(二百巻)、梵字真言讃等(四十巻)、律(一百七十三巻)論(十一巻)を提示する。

 『三学録』にあって『請来目録』にない経典を確認する。

 (金剛頂宗の経)①『一字頂輪王念珠法経』②『金剛頂瑜伽如意輪瑜伽経』③『金剛頂瑜伽虚空蔵菩薩求聞持法経』④『金剛頂大三昧耶理趣釈経』

 (胎蔵宗の経)⑤『大毘盧遮那経』

 (雑部真言の経)⑥『大孔雀明王儀軌経』⑦『陀羅尼集経』⑧『七倶胝仏母儀軌』⑨『金剛光焰止風雨経』⑩『文殊仏刹経』

 『請来目録』にない理由を明確には捉えられないが、①~④⑥が類似名の経典が『請来目録』に存在する。⑤⑦奈良時代に書写済み⑧⑨⑩現物があるので入唐前に請来すみ。

 つまり、⑤⑦⑧⑨⑩以外は『請来目録』から全て選ばれていることになる。真言宗の教理は空海が入唐し種々の経典類を請来したことにより成立した。

 二、空海は、多数の著作を撰述し後世の指針とした。年齢別での著作は以下の通りとなる。

 二四歳『聾瞽指帰』『三教指帰』三三歳『新請来経等目録』四〇歳『文殊讃法身礼方円図』『義中』『金光明最勝王経秘密伽陀』四一歳『梵字悉曇字母并釈義』『古今篆隷文体』四二歳①『弁顕密二教論』四五歳『急就草篇』②『般若心経秘鍵』四六歳『秘密漫荼羅教付法伝』③『即身成仏義』④『声字実相義』⑤『吽字義』『文鏡秘府論』『文筆眼心抄』四八歳『真言付法伝』四九歳『平城天皇灌頂文』『三昧耶戒序』五十歳『真言宗所学経律論目録』五五歳『篆隷萬象名義』五七歳『秘密曼荼羅十住心論』⑥『秘蔵宝鑰』六二歳『御遺言』(注2)

 この中でも特に真言宗徒必読の書である「十巻章」で取り上げられている空海の著作は①~⑥である。特に四六歳での空海の三部作(③④⑤)は真言密教の神髄を著した選述書である。

 弘法大師空海の歴史上の意義は以上の内容より、

 第一に恵果和尚より真言密教両部大法を相承し日本で開花させたこと。特に、経典をはじめ必要なものを全て持ち帰り伝法の為の盤石な備えとした。

 第二に恵果和尚からの相承に空海独自の密教観を加味展開し、本を選述し、後世の継承者の為に残したこと。

 最後に大乗仏教の根本教理である慈悲の教えを身を呈して示されたこと(御入定)。これは「虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽きなば、我が願いも尽きん。(中略)仰ぎ願はくは、斯の光業によって、自他を抜済せん。」(注3)の大誓願で示される。

 

(注1)『弘法大師空海全集』第二巻『新請来経等の目録』 筑摩書房発行 昭和59年 

(注2)『弘法大師空海全集』第八巻「年譜」筑摩書房発行 昭和59年 

(注3)『弘法大師空海全集』第六巻『性霊集』巻八 筑摩書房発行 昭和59年