続き



年末の時点で事務所への異動は決まっていたのに制服など何も用意されておらず、歓迎されてないなと思った。





そりゃそうだ。





人数足りてるし。





専務のわがままで辞めさせないために無理やり居場所を作った感じ。





私が異動した理由は表向きには説明されていないけど、みんなだいたい察しがつく。









制服が届くまでの数日はリクルートスーツで出勤した。






事務所にはふたつの部署があった。





女性は私の他に2人。





営業事務をやっていて私もそこに加わることになった。





斜め向かいには総務部に私たちの半年ほど前に入社したという男性がいた。





ほぼ同期ということでよくしてくれた。







ずっと疑問に思ってたこと。





電話を取るのもお茶くみするのも女性だけ。





電話は女性が席を外していたり、手を離せない状況だと総務の例の男性が取ることはあった。




でも、来客時もお昼休憩の事務所にいる人たちへのお茶くみも女性しかやらない。







同じ平社員の総務の男性はなぜやらないのか。




部署の違いなのか。





そういうことか。





自分に言い聞かせて納得させていた。







後に、入社して私と入れ違いで総務へ配属された女性がお茶くみをしたり電話を率先してとったり来客対応をしているのを見てやっぱり男女差なのかとモヤモヤが増大した。





夫にはもう関係ないんやからと諌められた。






もうひとつずっと引っかかっていることがある。





私たちが入社した時に説明された給与形態。





日給月給としか聞かされていなかった。





夫と仲良くなって知ったこと。






男性は月給制。






は?






何その差。





例外はあるという噂は聞いていた。





本人は話さないから噂はあくまで噂。






事務所行ったら月給制になるんちゃう?






現場の女性からそう言われたことはあったし、実際事務所に異動して初めての給料日に変わったかどうか聞かれた。






変わってないですよ。






夫が言うには、女性は子どものこととかで休むことが多いから、日給月給の方が会社にとっても本人にとってもいいんやろ。



とのこと。




???




有給あるから有給の範囲内なら変わらんくない?





年末年始や、GWなど長期休暇がある月は女性陣は給料が少ないからとよく嘆いてた。





でも、前社長の時からの名残だからと誰も公に文句を言うことは無かった。





事務所に入って半年ほど経って夫と結婚した。






夫が朝礼でみんなにあいさつしたけど、残念ながら(?)私は電話番だったので参加していない。







その日1日会う人会う人に「おめでとう。」と言われた。





噂好きのおばちゃんたちのこと。





質問攻めにされて少しうんざりした。





私たちが仲良いことは噂になっていたらしい。




でも、独身同士だしということでそっとされてた。

※夫の離婚はこの会社に入社する前のことなのでほとんどの人が知らない。



まさか結婚するとは思ってなかったらしいけど😅




籍を入れるために2人揃って有給を取った。






ちょうどその頃、父方の祖父が危ないと言われていた。




でも祖母や両親がおめでたいことやから、気にせず予定通り籍入れていいよと言ってくれていた。







朝イチで区役所に行って入籍。




その足で銀行などを回って名義変更。





その途中、母から電話があった。





銀行で名義変更をしている途中だったので、あとから折り返した。




母からのLINEで祖父の訃報を知った。





母にかけても繋がらず、父に電話した。





祖父が亡くなったこと、父と母は先に祖母たちの元へ向かうから、私と夫、姉は明日ゆっくり来て。とそれだけ言われた。






私と夫はその日の予定を夕方には済ませて、バタバタと出かける準備をした。





慌てて喪服も買った。





翌朝、姉を途中で拾って片道3時間ほどかけて父の実家へ向かった。






祖母は、「せっかくのおめでたい日やったのにごめんね。でも、おじいさんがこうやって会わせてくれたんやわ。」と言ってくれた。




本当は夏頃に挨拶がてら遊びに行こうと話していた。





それがこんな形で早まってしまった。





夜、みんなで食事をした。





夫は下戸だと知っていて父が酒を勧めた。




ちょっとくらいならと夫は頑張ったが、グラスが空く前に父がお酒をつごうとするので、みんなで全力で止めた。





夫、優しさ(?)発揮して無理して呑んだ。





吐くまで3秒前みたいな状態の夫を連れてホテルに戻った。








部屋に入ってとりあえず布団に倒れ込む夫。






いつ吐いてもおかしくない。




むしろ吐いた方がスッキリするのでは?と思いつつ、夫に従って先にお風呂に入った。






上がったら爆睡してた。





あの状況で吐かへんのすごいな。尊敬する。






私も寝た。





夫は夜中に起きてシャワー浴びてた。






無事にお葬式も終わって夏は夏で予定通り遊びに行くことにした。






それから2ヶ月ほど経って妊娠したことが判明。







夏の終わりごろ、つわりで1ヶ月くらい会社を休んだ。






人手が足りてるところで良かった。






もともと二人でやっていた仕事を無理やり分けてもらっていたからとてつもなく暇だった。





つわりから復帰して久しぶりに会社に行くと、とりあえず電話番しといてと言われた。





電話、多くても半時間に1回。しかも誰かに引き継ぐだけだから1分もあれば大抵終わる。




酷い時は半日鳴らないこともある。






暇すぎて気が狂いそうだった。






みんなに仕事をくださいって言う事もあった。

特にやってもらうことないわって断られた。





自分の存在意義が見つけられなくて辞めたかった。






上司の命令で仕事が無くなったのに、上司の命令でまた少し仕事を分けてもらえることになった。





2時間もあれば終わる仕事だった。






「仕事 暇つぶし」



とか検索しまくった。





ネットサーフィンしとけみたいな回答が多かった。







背後に上司がいるから1番できひんやつ。






産育休に入る1ヶ月ほど前、本社から出向してきた人の歓迎会があった。


上司が、やまのさんの歓迎会もやってなかったから今更やけどついでに、みたいな感じで急遽私も主役になった。



事務所来て1年近く経ってるのに今更?やらん方がマシじゃない?😊



って思ってた。





産育休。






ボロボロメンタルが少し復活したくらいの状態で、休み明け前に1回挨拶に行った。







「休み明けから品管に行ってね。人が足りてないから。」




無情な宣告だった。





品管にはあの人がいる。



M係長。(当時は主任)


実際、何もされてないし言われてないしむしろ優しいし、自分の中の印象だけならそんなに悪くなかったけど、現場の人も事務所の人もあの人はきついからな。と口を揃えて言う。






品管への異動が発表されてからみんなに同情の眼差しで見られた。





会う度に、「大丈夫?やっていけそう?」と心配してくれる人もいた。







M係長、めっちゃ優しかった。






うっかり試験管割った時も、まず私に怪我ないか確認して後処理も全部やってくれた。(私がとろいだけ)








それに、今まで私を見下してきた人たちも急に優しくなった。





あー、なんかやって私が係長にチクったらと思ってビビってんやなと思った。






M係長は同性である女に厳しくて異性である男には優しいと言われていた。




実際そんなところはある。




でも同性相手でもきっちり仕事をこなす人にはそこまでキツくない。




新人と仕事ができるできひんに関わらず男性には優しい。





厳しいことを言うこともあるけど、それを裏付けるだけの実績もある人だった。





給与形態の件、噂の的になっていたのがこのM係長。





のちのち本人から真実を聞いた。





前社長の時に入社して、普通に月給制だった。



みんな同じだと思って話してたらどうやら違うかったこと、そのせいで針のむしろ状態だったこと。





今も前社長の名残でそのままになっていること、偉い人たちは誰もそれを気にしてないこと。





モヤっとした。





前社長のお気に入りってだけで待遇が変わるっていうのは納得できんかった。




でも、M係長のことは嫌いじゃなかったし、会社がそういう体質なんやなってある意味諦めがついた。







夏場が閑散期でめちゃくちゃ暇だった。





午前中にルーティンの仕事を終わらせて、午後は半日掃除という日々が続いた。





不思議なもんで、事務所の時は他の人の目が気になって、暇ですって思ってるのがバレるのがこわくて(既にバレてるのに)掃除ばっかりできひんかったのに、品管は3人しかおらへんって言うのもあって堂々とあっちこっち掃除できた。





私だけの逃げ場所も見つけた。







ちょうどその頃、社長との面談があった。





言いたいこといろいろあったけど、とにかく自分が暇だったこと、現場の人も暇を持て余して遊んでいることを知っていたので、今の時期だけでも出退勤時間ずらすとかできませんか?って話した。






私の説明が悪かった。





私は給料減ってでも仕事終わった人から帰れるようにするのはどうかという意味で言ったけど、社長とのはフレックスタイム制という意味で解釈したらしい。





違う。それじゃあ会社に拘束される時間は変わらへんやん。




早く帰りたいねん。





社長には通じなかった。




まあ、私は良くてもみんなは給料減ったら嫌やもんな。





M係長のこと嫌いじゃないって書いたけど、それは確かなんやけど、品管にいたら息が詰まるのも確かやった。




係長の上にいる品管次長はのちのち工場長を兼任することになってほとんど品管にはいなかった。




必然的に係長と2人っきりになることが増える。





初めのうちはまだ良かった。




息子がこども園で風邪もらってきてその風邪を私ももらってしょっちゅう休んでたから。




ある意味それが私にとってのリフレッシュにもなってた。




でも2年目にはほとんど息子は休まへんくなった。




初めのうちは何も気にせず用事があれば有給取れてた。





リフレッシュのためだけに取るほどの余裕はなかったけど😅





品管にいって2年目頃から有給を取りづらくなった。





用事があってしかたなく休む。




休み明け、何かしら係長にあれができてないこれができてないって嫌味を言われるようになった。





それも、できてなくても対して困らへんようなこと。





何も言わんくてもそっと直しとけばいいやんていうようなこと。






息が詰まる。





あれもこれも完璧にできてるか何回も確認する。




特に1回でも失敗したことあるような仕事は、時間をかけてでもひとつずつ確認しながら作業してた。






日々のルーティンの他に工場長から直接頼まれた仕事があった。





特に期限も設けられていなかったので、マイペースに進めていた。





係長に怒られた。





工場長に進捗逐一報告してる?




分からんことがあったら自分でなんとかしようと思わんとすぐに聞きや。






その場しのぎで適当に返事をしてた。





進捗、どうやって報告すればいいですか?




膨大な量のデータを全て印刷すればいいですか?






疑問も報告もしようと思っても、品管にいる時はあなたがずっと工場長に話しかけるから私が話す隙なんてないやん。




係長が席外している時は大抵私が別の仕事してるし。



その仕事そっちのけで工場長の仕事のこと話してたら、それはそれでこっち優先してって怒るんやろ?




現場で工場長に会った時はデータとか見せれへんから話しようがないし。





心の中で言い訳をいっぱいしてた。





今こうやって書いてても他にやりようあったんちゃう?って自分を責めてしまう。





極めつけに、入社して1年目くらいの子が妊娠して、産休までの数ヶ月間、品管の手伝いに来ることになった。





係長はその子にはめっちゃ優しかった。





私には厳しかった。





その差は何?




慣れ?




それでも、その子が品管にいる時はきつくあたられることもなかったし、話し相手でもあったからまだ気が楽だった。






その子が産休に入ったあとのことを考えるとこわかった。






でも、その日は来るんです。




もがいても時間は流れる。







劇的な変化はない。






でも、私の心は少しずつ蝕まれていった。






なんにも用事ないないけど有給取りたい。




1日でいいから1人でゆっくり好きな事して過ごしたい。





でも、休んだら休み明け絶対係長になんかしら文句言われる。





休みたくない。






そんな葛藤が半年ほど続いてた。







係長も滅多に休み取らへんくて女性の中で唯一毎年有給捨てるような人やったけど、会社命令なのか私が品管に行ってから年に数回休むことがあった。





めっちゃ開放的やった。




同じ品管の部屋でも息ができた。






冬休みまであと4日。





夕方、終業時刻が近づいた頃、総務部長が品管に来た。




工場長と係長と3人で話している横で私は片付けをしていた。






総務部長に話を振られた。




例の工場長に頼まれていた仕事どこまで進んでる?





説明が難しい。




それは向こうもわかってた。






一旦そのデータ借りていい?




そう言われたので、いいですよと返事した。






年内にある程度まとめて欲しいとも言われた。






分かりました。




そう答えた直後、この件には関係ないはずの係長が口を挟んできた。





昼過ぎまでかかってるルーティンの仕事を午前中に終わらせたらいいねん。






それはつまり早く来いってこと?





出勤押す前から仕事始めろってこと?




それとも私の仕事が遅いってこと?





これ以上私に頑張れって言うの?





かろうじて繋がっていた糸がこのなんでもない一言でプツンと途切れた。






終業時刻はとっくにすぎていた。





急いで帰らないと息子の迎えに間に合わへん。





時計を見た総務部長が今日はとりあえず帰っていいよ。と言ってくれた。





すみません、お先に失礼します。





そう言ってロッカーに向かった。






携帯を確認すると先に帰った夫が息子の迎えも行ってくれていた。






何とか着替えて車に乗った。




駐車場には私の車しか無かった。





涙が溢れて動けなくなった。





帰る気力すらなかった。




10分ほどそうして何とか夫に電話した。





「もう無理。帰れへん。」




そうは言っても車は1台しかない。




息子を連れて迎えに来ることもできひんから自力で帰るしかない。




息子の声を聞いて少し落ち着いて何とか家に帰った。







会社での話を夫にした。


もう明日休むわ。


「とか言って結局行くんやろ?」



夫が茶化しながら言うから私も笑った。




「起きれたら行くわ。」




夫と息子のおかげで少し元気が出た。




泣き疲れて夜はぐっすり眠れた。










Twitter   @imakokojima