前回の続き。
k先生は実は理科担当の教師だった。
でもほとんどの生徒がその事を知らなかった。
それくらい理科を教えているところを誰も見たことがなかった。
吹奏楽部の顧問。
唯一の肩書きのようだった。
今思えば、先生は先生で肩身が狭かったのかもと思う。
担任を持つことも無く担当教科を教えることも無く、ひたすら吹奏楽部に打ち込んでいた。たぶん。知らんけど。
それなりの結果は残していたけど、私たちが3年生になる頃、学校側も動き出した。と私は思った。
先生のわがままを聞く代わりにとでも言うように、私たちの学年のステップルーム(障害者クラス)の担任になった。
今まで部活以外の時間に何をしていたのか知らない。
けど、それ以前よりいっそう忙しくなったように見えた。
部活を休みたい時に、先生に伝えるため学校中探し回ったこともある。
探し回ってやっと見つけても話を聞くために足を止めて貰えず、早足で歩く先生を追いかけながら休みたいことを伝えると、
そんな暇あんのか?休んでもみんなに置いていかれへんくらいできるんか?みたいなことを言われた。
トランペットを吹いていた男子Oは、k先生も同じ楽器をやっていたのもあって特にお気に入りだった。
お気に入りだからこそ、先生は容赦なかった。
Oが合奏中ミスをした時、先生は
「2階から飛び降りろ。」
と言った。
別の日には、Oが部活時間になってすぐ基礎練の前にハイトーンを出しているのを先生に聞かれて中庭の対角線の場所から
「Oお前何やっとんねん!ローグトーンやったんか?」
と怒鳴られていた。
まだ教室に残って掃除をやっている生徒も多く、その怒鳴り声を聞いていた同級生が、翌日Oに「怒鳴られとったな。」と話して笑っていた。
k先生は練習の時、指揮棒の代わりに古くなったスネアのバチで指揮をしていた。
テンポを刻む時に、指揮台を叩きやすいから。
力強く叩きすぎて何本もバチを折っていた。
折れたバチが飛んでいって後ろの方にいる金管楽器の方まで届いたこともあった。
先生が怒っていたらシーンとするが、機嫌がいい時はみんなでお腹を抱えて笑った。
校則で毎週木曜日とテスト期間の前1週間は部活休みと決まっていた。
木曜日は練習しない代わりに掃除当番に当たっていない生徒は音楽室や音楽室近くのトイレ掃除をしていた。
職員室でほかの先生に何か言われたのかk先生が自発的にやり始めたのかは分からないが、部活内で成績ワースト5に入った人は強制、他の生徒はやりたい人だけ、テスト期間に入ると音楽室で勉強会をやっていた。
もちろん私はその5人の中に入っていた。ユーフォニアムのAと同じフルートのRちゃんも同じく常連だった。
2年生の時、音楽室に入るなりRちゃんに呼ばれた。
「まゆちゃんさ、学校に漫画持ってきてたことあったよな。今すぐ行こ!」
「何の話?行くってどこに行くん?」
「なんか、2組で漫画回し読みしてたのがバレたらしい。それで、正直に言いに行かな部活辞めさせられるし、学校も退学になるかも?って。」※公立中学校
そんなまさか、そう思いつつRちゃんについて行くと、1階の空き教室の前には長蛇の列ができていた。
最後尾にRちゃんと一緒にいたAと共に並んでいた。
偶然そこを通りかかったk先生に「お前ら何やっとんねん。」と声をかけられた。
Rちゃんが事情を説明すると、k先生は教室の中の先生に声をかけて別の空き教室に呼んだ。
教室に入ってもう一度、k先生にどういう経緯で列に並んでいたのか説明した。
漫画の貸し借りのために持ってくることはあったけど、私たちは学校では読んでいないこと、貸し借りのために持ってきた漫画のタイトルの内容、貸し借りしていた相手を聞かれるがままに伝えた。
私とAが貸し借りしていた中にチューバのMとコントラバスのMちゃんがいた。
2人はテスト期間中で既に帰宅していたので、先生が家に電話して学校に呼び戻した。
Mちゃん以外全員号泣しながら謝って、二度と学校にはも漫画を持ってこないと誓った。
Rちゃんが泣いてるのを見たのはこの時だけだった。
あとから他の子から聞いた。
事の発端は2組のヤンキー女子が、少し大人向けの内容が入った漫画をクラス全員にその場で読んで回せと言い始めたことだった。
それが先生にバレて噂になり、話が膨らんで退学とかいう話になったらしい。
幸い私たちが読んでいたのは当時ジャンプで人気だった漫画だったので、その場で注意されて終わりだった。
k先生の話が終わったあと、Rちゃんと私は音楽室のM先輩の所に行って、迷惑かけてすみませんでしたと謝った。
先輩は別に私は関係ないからと笑って許してくれた。
それ以来私の周りの子は敏感になって、ただ貸し借りするだけでも、1度家に帰ってから学校の外でやるようになった。