1973年のピンボール | スローライフ?とパタパタママの育児日記

1973年のピンボール



こんにちは、Noriです。



小説を書く人で、村上春樹という方がいらっしゃいます。



有名な方なので、ご存知の方も多いと思います。



その方の小説で、「1973年のピンボール」という小説があります。



1980年に発表された、その方の2作目だったと思います。



少し、思い出の話。



_________________________




「Noriならわかると思う」



そう言って、イチくんが突然、汚い文庫本をくれた。



僕は当時中学生(2年か3年)で、季節は冬だったと思う。



汚いなと思って、タイトルを見て、それから作家名を見て、表紙のイラストを見て、



自分から読もうとは思わない本だな、と思った。



僕はそのころ、ホーキング博士とか、宇宙船オデッセイとか、手塚治虫のマンガとか、



オーロラの話とか、相対性理論の入門とか、科学雑誌の宇宙のはじまりについてとか、



なんだか科学的なんだか、神秘的なんだか分からないような、



わかったような、わかりっこないようなジャンルが大好きだった。



小説、というものは、たぶんあんまり読んでいなかったと思う。





イチくんとは、クラスも、部活も、何にも一緒じゃなかった。



だから、友達でもないし、話をする間柄でもなかった。



ただの、同級生。



もちろん、何かの行事とかで、何かしらお互い顔を見知ってはいたけれど、



特に何かのはずみで仲良くなったとか、そういうことは無かった。






そんな僕に、突然、学校の廊下で、汚い文庫本を手渡された。



別に何か思い切って、とか、大事なものをあげる、とか、



そういう雰囲気もなく、



まるで、前から約束していたみたいに、「これあげる」



と言って、すっと僕の前に差し出した。



だから、僕も、



「ありがと」



と言って、ただ、受け取った。



受け取って、その本をながめていると、



「Noriならわかると思う」



そう言って、自分のクラスへ戻っていった。



僕はその意味が、分からなかったけれど、とにかくもらった。



せっかくもらったので、読んだ。



そして、つまらなかった。


_______________________________________




彼とは大学時代に偶然再会し、



夏、彼の風呂なしアパートでそうめんを食べたり、



僕の風呂なしアパートでアイスを食べたりした。



そして、今はお互いどこで何をしているか分からない状態になっている。


____________________________________________



あれから、15年か16年たって、



少しだけ、あのときのイチくんの気持ちがわかった気がする。



今、僕の手元に、その文庫本が、15、6年前と変わらずに、汚いまま、ある。



きっと、僕とイチくんだけにしかわからないものが、



この、ただの汚い文庫本に、確かに存在している。


_____________________________________________



ありえないことだけれど、



イチくんは、15、6年前に、



15、6年後の、



つまり、



今の僕に、



この本を手渡してくれたのかもしれない。





そして、僕はこう答える。



「わかるよ」





本のタイトルは、



「1973年のピンボール」