新川帆立さんの『目には目を』のレビューになります。

 

なぜ少年Aは殺されたのか?

【罪を犯した「本当は良い子」の少年たち。奪われた命が、彼らの真実を浮かび上がらせる。】

重大な罪を犯して少年院で出会った六人。彼らは更生して社会に戻り、二度と会うことはないはずだった。だが、少年Bが密告をしたことで、娘を殺された遺族が少年Aの居場所を見つけ、殺害に至る――。人懐っこくて少年院での日々を「楽しかった」と語る元少年、幼馴染に「根は優しい」と言われる大男、高IQゆえに生きづらいと語るシステムエンジニア、猟奇殺人犯として日常をアップする動画配信者、高級車を乗り回す元オオカミ少年、少年院で一度も言葉を発しなかった青年。かつての少年六人のうち、誰が被害者で、誰が密告者なのか?(あらすじより)

 

娘を殺された母親が、その復讐に加害者の少年Aを殺した「目には目を事件」。事件前、母親の美雪はSNS上で少年Aの情報を募っていたことが判明する。調べによると、美雪は少年Aと同時期にN少年院―ミドリ班にいた五人のうちの一人から情報提供を得たという。そこで事件の真相を追うライターの仮谷苑子は、密告者が誰なのかを探るため、「目には目を事件」関係者の証言を集めることにする。

 

第一章では、N少年院に当初いた三人の少年らについて。第二章・第三章では、新たに加わった三人の少年と、そのときに起こったトラブルについて。第四章では、美雪の裁判について。そして第五章では、仮谷がそれらから導き出した事件の結論についてまとめています。

 

 少年たちの生い立ちと罪(初期メンバー)

大坂将也・・弟が有名子役。ステージママの母親は弟につきっきりで、将也には愛情を注がなかった。父親は家庭に無関心。愛情不足のせいか、やけに人懐っこい”かまってちゃん”で、少年院でも青柳主任から褒められたいあまり優等生をしている。本人的には少年院は、大人が自分に注目してくれる、楽しくて居心地がいい場所。

 

<犯した罪>

両親からほったらかされていた時期、地元の先輩たちに可愛がられて心強かった。先輩が少年Fにキレだして暴力を振るっていたので、自身も参加したところ、相手が死んでしまった。暴行に加担した理由は、人のイライラはうつるし、人に合わせないと「平等」じゃないから。母親から兄弟不平等に扱われてきたため、平等にはこだわりがあるらしい。

 

城堂武史・・身長187センチ、体重95キロの大男だが、性格は温和で大人しい。IQが76程度であることから、同級生たちの会話についていけず、友達はいなかった。何か問題が起こると、自分で処理できなくなるため、パニックに陥りとんでもないことをしてしまう。N少年院に入ってからも大坂のいい遊び道具にされていた。

 

<犯した罪>

学校でいじめに遭っていた城堂はストレスが溜まると、自分よりも弱い子供に性的ないたずらをしていた。ある日、いつものように声をかけた児童から抵抗されたため、パニックになって殺してしまった。

 

小堺隼人・・教育熱心な家庭で育つ。学歴コンプがある父から、特別扱いを受けていたため、自身を優秀な人間だと思い込んでいる。しかし、実際のIQは普通か少し上程度。大学受験で第一志望に落ちたとき、あれだけ口うるさかった母親から攻められなかったことに腹が立ち、殺してしまう。「無理をさせてごめん」の一言が、勉強しかできない自分が、実は勉強もできない存在だったと馬鹿にされたように感じた。

<本人の認識と現実の差>
小堺の妹の話によると、母親はまったく教育ママではなかったらしい。張り切っていたのは父親だけで、むしろ母親は小堺の成績が良くないとすべての責任(暴力込み)を負わされていた。また、小堺も平凡な自分を受け入れられず、自己弁護のためのストーリー(母親のせい、天才についてこれない世間のせい)を作り上げていた。
 

 あとから入ったメンバーについて

進藤正義・・声の大きさを調整できず、何でも大声で話す。虚言癖あり。幼い頃から母親にネグレクトされ、父親はいない。また、母親の恋人からは虐待を受けていた。自意識が欠如しているため、他人からどう見られているかといった視点がない。そのため、頼まれごとなら深く考えず、犯罪でも何でも引き受けてしまう。本人はなぜいつも大事になってしまうのか理解できず、貧乏くじを引いている感覚らしい。

 

<犯した罪>

どれも人から騙されたり、巻き込まれたものばかり。特殊詐欺の受け子、女子更衣室の盗撮、強盗未遂。罪の意識はない。

 

雨宮太一・・米問屋の名家に生まれた長男。絵が上手く大人しい子だが、幼少期から小動物を殺す衝動に駆られている。酒鬼薔薇がモデルになっている?六人の中では最も知能が高い。進藤から彼に好かれようと必死になっている。

 

<犯した罪>

二人の子供を殺害後、バラバラにし、ガムテープでつなぎ合わせた。本人なりのアートらしく、反省はしていない。

 

岩田優輔・・吃音があり、会話が苦手。高校でいじめに遭ってから不安定になる。周囲は誰とも話さないことが原因でいじめに遭っていると考えるが、本人は自分の顏がブサイクで性器が小さいから迷惑をかけているからだと言う。醜形恐怖症の気があり、症状はかなり深刻。吃音のほうはあまり気にしていないのか、見た目の悩みと話さないことに関連性はないと言う。それを証明したいなら、話したほうがいいと医師がアドバイスしたところ、急に話し出すようになった。

 

<犯した罪>

自身の家庭内暴力を止めようとした姉に怪我を負わせ、意識不明の重体にしてしまった。怒りを制御できない。

 

 きらら事件

この六人が揃ったときに、セラピードックのきららが毒殺される事件が発生します。亡くなったラブラドールレトリバーのきららは、人懐っこい犬で、特に小堺が可愛がっていました。しかし、何者かによってエサに農薬を入れられて、一日苦しんだ末に絶命します。

 

きららが亡くなってショックを受けた小堺は、毒殺した犯人を城堂だと思い、彼にもの凄い憎しみを抱きます。また、周囲が揉めるのを楽しむ雨宮は、五人それぞれが疑心暗鬼になるようなネタばかりを提供し、混乱させます。気づくと、六人は三対三に分かれるようになり、それはすっかり派閥化してしまいます。

 

本書では密告者の少年もあわせて、このきらら殺しの犯人の推理も同時進行するかたちになっています。

 

 誰が密告したのか?

まず、殺された少年Aについてですが、これは読めばすぐにわかります。なぜなら、仮谷のインタビューを読めば一目瞭然だからです。なのでここで明らかにすると、それは城堂なのです。殺されたのは、城堂。殺したのは、被害者の女の子の母親です。

 

では、誰が城堂の情報を密告したのか?これも本書を読むと、五人中二人に絞られます。他の三人には事件時まだ少年院にいたり、そもそも城堂が何の罪を犯したのかわからなかったり、何かと理由があり、密告するのが無理なんですね。

 

最終的に密告者は判明するのですが、その結末が何とも言えないものになっています。目には目を。被害者からすると、すべてがベールで隠された少年法にどんな償いができるのか?という感じですよね。ただ、人を殺しておいて、わずかな服役期間で世の中に戻された人、法に守られた人、としか思えないでしょう。あまりにも残酷です。

 

一方で、城堂も少年院に入っただけでは何の償いにもなっていないと困惑しています。また、美雪に息子を殺された堂城の母親も復讐の無限ループに駆られています。

 

物語の終盤にはライターの仮谷の正体までもが明らかになります。彼女の正体を知ると驚くかも・・。それはぜひとも本書を読んで確認してください。

 

総評です。

評価4.6/5

東野圭吾さんの『さまよう刃』を思い出した。最初のインタビューでは、どの少年も「なんじゃこりゃ」な子が多かったけれど、彼らの素を見てきた青柳主任から話を訊くと、全く別の人間像が浮かび上がってくるのが印象的だった。特に大坂と小堺の印象はガラリと変わる。残念ながら、あまり賢くない進藤は考える力がないため今後も同じ道を辿るだろう。似たような城堂には母親からの愛情があったため、わからないなりにも、自分のできることで相手を思いやろうとしているように見えた。この二人の差は、人から優しさを与えられた回数によるものなのか・・?それとも自分の考えや感情を持っていたかの有無か?やはり自分の言葉を持たないものは苦労する。岩田は家庭の問題がクローゼットの骨状態になっているので、今後も危険性が高いと思った。ちょっと外の助けがないと無理かも。雨宮にいたっては、生まれながらにそういう衝動を持っているとしか思えない。再犯しないことを祈るが、罪の意識ゼロ人間が「少年」を理由に世に出れる現状はかなり怖いと思った。どんな事情があれ、被害者と加害者が納得いく結末などない。あるはずがない。だからこそ一線を越えてはならない。改めてそう思った。

 

以上、レビューでした。