結城真一郎さんの『#真相をお話しします』のレビュー(小説版)です。こちらは全5篇収録のミステリー短編集で、漫画化もされています。

 

実は過去に、第74回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した『#拡散希望』だけは読んだのですが、それ以外の短篇は読んでいませんでした。しかし、のちに本書の映画化が決定し、私の大好きなMrs. GREEN APPLEの大森元貴さんが出演されると知り、ようやく全部読んでみる気になった次第でございます。

 

記憶によると『#拡散希望』は面白かったはずなので、他もイケるに違いない。ということで、さっそくですが全篇読んだ感想と内容紹介をしていこうと思います!

 

以下はネタバレ含むレビューになります

 

 

惨者面談

 

<あらすじ>

家庭教師の仲介営業バイトをしている東大生の片桐は、ある日、小学校6年の息子を持つ母親から面談希望の予約を受ける。しかし約束の日時に自宅へ伺うと、何だか親子の様子がおかしい。まず母親は今日の面談を忘れていたようで、部屋を片付けるからと二十分も待たされる。ようやく家の中へ入れてもらうと、今度は息子の成績表がどこにあるのかわからず、大捜索することに。それだけでなく母親は、なぜか息子の通っている塾名を答えてくれなかったり、トイレを使わせてくれなかったりする。一番の違和感は息子で、彼はどんな問題を出しても110と答え、まるで片桐に何かを訴えかけるような視線を送ってくる。

 

<解説>

これは読めばすぐに謎が解けます。どう考えても母親があやしい。自分で面談を頼んでおきながら、息子のことを何も知らないなんて絶対におかしいでしょ。つまり母親は偽物なんですね。だから話がかみ合わないし、息子もビクビクしてる。じゃあ本物はどこへいったのよ?となると、あ、絶対に使わせてくれないトイレか、とわかってしまう。そしてこれも想像がつくのですが、最終的には息子も偽物というオチ。たまたま人殺しと空き巣が居合わせたところに、片桐がやって来たという話でした。

 

 

ヤリモク

 

<あらすじ>

マッチングアプリに勤しむ中年男とパパ活を楽しむ若い女。男には妻子がおり、溺愛している大学生の娘・美雪にはパパ活をしている疑惑あり。つまり親子揃ってパパ活中というわけだ。世間では最近、「マッチングアプリ殺人事件」が連続して起きており、犯人は未だわかっていない。今日もパパ活をしている男は、女がやけに積極的であることに違和感を覚え・・・。

 

<解説>

男は娘にそっくりな女の子とばかり会っています。一方、女のほうはやたらと男を自宅へ誘おうと必死です。この時点で女からは美人局のニオイがプンプンしてくるのですが、男は違和感を覚えながらも平気で彼女についていきます。なぜかって?それはこの男が例の殺人事件の犯人だからです。わざと美雪に似た女性を被害者にすることで、娘にパパ活をやめてもらえないかと考えていたのでした。

 

 

パンドラ

 

<あらすじ>

不妊からようやく一人娘を授かった夫婦の話。すでに娘の真夏は高校生になっている。ある日、父・翼のもとに、過去に自らが精子提供をして誕生させた娘から「会いたい」と連絡が来る。しかし、その娘(以下翔子)によると、自分の本当の父親は翼なのか、離婚した父親なのかわからないという。なんと翔子の元父親は宝蔵寺雄輔という連続幼女連続殺人事件の犯人(最近になって冤罪の可能性アリ)で、見た目も経歴も翼によく似ていることが判明する。当時、翔子の母は、自身が殺人犯の子供を妊娠している可能性を考え、他の男性との子供をつくることで、どちらの子かわからなくなるよう有耶無耶にしようとしたらしい。そこで精子提供を募ったところ、引き受けてくれたのが翼だったのだ。母親的には有耶無耶にさえできれば、どちらの子でも翼の子として扱うつもりだったが、翔子は自分のルーツをハッキリさせたいと言い・・。

 

<解説>

この話、翼は真夏と(性格が)似ていないけれど、翔子とは似ている時点で、ああ、そういうことなんだなとわかります。そして真夏は翼の子供ではないのだろうな、とも。おそらく奥さんは他の男性から精子提供を受けて真夏を授かっています。現に翼と真夏では血液型からしてどう考えても親子関係には結びつかないのですね。それだけでなく、奥さんからは何かニオイます。それは宝蔵寺雄輔のニュースを見ていた真夏が「この犯人、(顔も経歴も)パパに似てない?」といったときのこと。彼女は血相を変えてその話を中断させたのです。もしかして、翼との子供を授かれなった時期、彼と条件が似た宝蔵寺から精子提供を受けていた??それで生まれたのが真夏??どうか宝蔵寺よ、無罪であってくれ。

 

 

三角奸計

 

<あらすじ>

リモート飲み会を楽しむ大学時代からのいつメン、桐山、茂木、宇治原。茂木には既に妻子がおり、宇治原にも結婚間近の恋人がいる。しかし独身の桐山には現在ほぼ不倫中の彼女がいて、結婚どころではない。なぜ「ほぼ不倫」なのかというと、その彼女には婚約者がいるのだが、なぜかマッチングアプリで出会ってしまい、いつのまにか男女の関係になってしまったのだ。そんなこともあり、二人に恋愛事情を明かせない桐山だが、リモート中になぜか宇治原から「いまからあいつを殺しに行く」というメッセージがこっそり送られてきて・・。

 

<解説>

宇治原は茂木を殺しに行くと言ってきます。理由は自分の彼女と不倫しているから。しかし、実際に不倫しているのは桐山です。これも全部読まなくてもわかるのですが、桐山が付き合っているのは宇治原の婚約者で、彼はそうとは知らずに付き合っています。だから宇治原は親友がすべてを知って彼女と付き合っているのか、そうとは知らずに騙されているのかを確認するために、茂木に協力してもらい、桐山を試す壮大な罠を仕掛けているのです。それがリモート飲み会。宇治原は桐山に彼女の写真を見せたあと、彼女と茂木が不倫しているから殺してやるというメッセージを送ることで、彼のリアクションを観察していたのでした。

 

 

感想と評価

 

『#拡散希望』については以前ココに書いたので省略します。

 

要約すると、キラキラネーム(チョモランマ、砂鉄、ルージュ)の子供たちが、ユーチューバーの親たちの素材にされているという話。彼らはスマホを禁止されているため、その事実を知らず、周囲からは気の毒がられています。しかし、移住先の島で新しくできた友人・凜子がチョモランマに真実を明かそうとしたところ、彼女は何者かに崖から突き落とされて亡くなってしまいます。するとチョモランマは自身が推理した内容を動画配信し、視聴者にその内容が正しいと思うかどうか問いかけ、さらに支持が多かった場合は犯人を殺すと呼びかけます。

 

<総評>

評価3.8/5

「#拡散希望」⇒「惨者面談」⇒「ヤリモク」=「パンドラ」⇒「三角奸計」の順でおもしろかった。特に「#拡散希望」はズバ抜けている。しかし、全体的にオチが最後まで読まなくてもわかってしまう。また、「三角奸計」のような少々設定に無理のある話が多かった。どんでん返しからのどんでん返しが好きな人にはマッチすると思う。小説版、漫画版、映画版のそれぞれで、違う楽しみ方ができると思うので、比較してみてもいいかもしれない。

 

残酷にもGoogleのAIOがみんなのレビューをまとめてこんなことを言っています

 

「真相をお話しします」という書籍について、その内容が薄っぺらくつまらないと感じているという意見があります。特に、期待していた謎解きや伏線回収が薄い、展開が強引、表現が無理やりなどと不満の声が見られます。

 

辛辣ですね。まぁ、謎解き自体はイージーなので、ミステリー小説好きの方には物足りないかもしれませんが、設定のぶっ飛び具合は「当時」ダントツで輝いていたと思います。ただ、こういうのって一回流行ると「次」「似たようなもの」がどんどん出てくるので、漫画化、実写化・・となっていく頃には「なんだ、ありきたりな設定だな」となっちゃうのがかわいそうなところ。それだけ時の流れが早い証拠なのかもしれませんが、その消費スピードにおそろしくなります。(もちろん、時代を超えて愛される作品もありますがね)

 

個人的には「パンドラ」が謎でした。解説もほとんど私の妄想です。翼と妻・香織の血液型はB型。しかし娘の真夏はAB型。よって真夏は確実に翼の子ではない。一方、翔子の母はO型で、宝蔵寺はA型、なのに翔子はB型。ということは、翔子は翼の子ということになる。いや、実は、香織と真夏、翔子の母と宝蔵寺の誰かしらの血液型が間違っているのではないか。これについては、真夏は最近ケガの手術でで血液検査をしたばかりなので、間違いなくAB型。翼はこの前まで自分がずっとA型だと思っていたのにB型だったので、まさか妻まで間違っていたなんてことは、ほぼないだろう。

 

それなら宝蔵寺の血液型が間違っているのでは?とう可能性もあるが、今さら確かめることもできず。まぁ、結果は翔子=翼と血が繋がっている、真夏=翼と血が繋がっていないで確定なのでしょうね。

 

翼と香織の間に子供ができなかったのは、単に相性が悪かっただけで、相手を変えたらすんなり妊娠したのかも?(実は翼に原因があり、結局翔子も翼の子ではない可能性もありますが)いろいろ考えられますね。それでも翔子母も、翼も真実を知らないままでいいと思っているのだから、何でもいいのか。いざとなればDNA検査すればいいのだし。ん~!気になる!ここはぜひ真相をお話ししてほしいストーリーでした。

 

ちなみに、映画版は原作とは違う要素が加わっているため、実写化にありがちな全くの別物として見ていいでしょう。そもそも大森さん演じる「鈴木」という男は原作にはいませんからね。漫画のほうもオリジナルミステリが収録されているそうなので、結局ファンは全部見ないとわかりません。考察好きの方は網羅するべし。とりあえず私は原作の紹介だけでおわります。興味のある方、未読の方は読んでみてください。

 

以上、小説のレビューでした!


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