水生大海さんの『その嘘を、なかったことには』のレビューになります。どんでん返し系のミステリ短編集。てっきり最終的に嘘は暴かれちゃいますよ!というお話かと思ったら、真実を知った人も大変な目に遭うというお話でした。
さっそくですが、あらすじと感想をどうぞ。
あらすじ・感想
公式のあらすじを引用しつつ、各作品の感想を書いていきます。
妻は嘘をついている
帰宅すると、自宅で見知らぬ男が死んでいた。あとから帰宅した妻に訊いても誰だかわからないという。それ、本当?
感想:自宅で病死していた強盗犯は妻の不倫相手だった?というお話。夫の調査によると、死んだ男は妻が通っていたホストクラブの従業員らしい。しかし妻は「そんな男など知らない」と嘘をつきます。妻と離婚したかった夫は何とか証拠をつかもうとしますが、逆にやり返されてしまい・・。女は超怖い。復讐する時は念には念を入れないとダメ。もっと警戒しないとダメ。
まだ間にあうならば
感想:これは嫌がらせの犯人となる候補が複数います。しかし主人公はよりにもよって、最初から一番犯人扱いしてはならぬ人だけを疑ってしまいます。やはり疑うにしても、きちんとした証拠がなければ危険ですよね。もし真実と違ったら大変なことになりますから。結論としては、取り返しのつかぬ過ちをしないように気をつけてというお話でした。
三年二組パニック
高校の卒業式で、「誰かが誰かに仕返しをする」という噂が学校に流れ、真相を探る僕。なんでそんなことに?
感想:これは嘘つきが大集合するお話でした。一番かわいそうなのは、友達グループにデマを流されて不登校になった女子生徒。しかもその子は指定校推薦を狙っていたのに、三年の二学期で不登校になったため願いが叶わなくなります。ただ嘘はこれだけではありません。諸悪の根源は他にいます。その人は無意識に嘘をついたり、妄想のストーリーを作り上げたり、間違いを指摘されると激怒したり、かなり危ない系。一番関わってはいけないタイプの嘘つきでした。
家族になろう
感想:これはラストを読んで衝撃。なんで義父母の手紙を読んで血縁関係のない夫がショックを受けるのだろう?と思っていたのですが、まぁあんな内容じゃ無理もない。手紙自体はラブレターなのですが、途中から義父母が不仲になり出し、あれよあれよとおかしな展開になっていきます。やはり結婚するときは相手の親をよく見て判断しないと怖いですね。どうしてもお互い嫌なところは親に似てしまうものですから。
あの日、キャンプ場で
感想:死んだ子は可愛いけれど性格に難ありだったパターン(女子が最も嫌うタイプ)。そのせいで他の女子からキャンプ場に置き去りにされたのですが、なぜかその子は近くの川で溺死体となって発見されます。怖くなった女子たちは、自分たちが置き去りにしたことを正当化できるような嘘をついてしまいます。結局、それは事故死として処理されるのですが、個人的には監督に殺されたのではないかと思っています。そうすれば映画が注目され、あわよくば有名な賞にありつけるかもしれない・・という動機っぽい気がしてなりません。※この話のオチは衝撃です
考察(ネタバレあり)
「妻は嘘をついている」で妻にハメられた夫。おそらく妻がホストと不倫していたことは確実です。しかし自宅で突然死されたため、焦って強盗犯に仕立てたと思われ。おバカな夫は妻にその疑いをつきつけてしまったことで、やり返されます。実をいうと、妻は会社を経営しており、夫はそこで働かせてもらっています。しかし恵麻という女性社員が夫に好意を抱いており、社長である妻はそれを見抜いて希望する部署にいかせないという嫌がらせをしています。(願わくば不倫関係になってほしくて、夫と同じ部署に配属している説も考えられる)
で、夫に嘘を暴かれそうになった妻は、なんとか恵麻を利用して自分とホストの時と同じような状況を作れないかと企んだのではないかと。たとえば自分の留守中に恵麻が夫しかいない自宅に行くように仕向けるとか、その際には普段しない料理を作り置きしておいて食べてもらうように仕込んでおくとか。
ネタバレすると、恵麻にはナッツアレルギーがあるのですが、妻だけはそれを知っています。しかし何も知らない夫は突然「手料理を食べたい!」と訪問してきた恵麻に、妻が作っておいたカレーを食べさせて殺してしまいます。
たとえ故意でなくとも、同じ家で二回も人が死んだらおかしいでしょう。病死だとしても、です。二回目は許されないのです。残念ながら、夫は妻の罪を暴くことができぬまま、ありもしない罪(不倫・計画殺人)を被せられて終わりそうです。
まとめ
さいごに総評です。
評価:4/5
できれば前半は嘘つきがもっと成敗されてほしかった。後半二つは想像できないパターンでぞくぞくした。筆者の作品はいつも最後のページをめくるまでドキドキできるのが魅力。嘘つきは泥棒のはじまり。嘘は嫌だなーと改めて思いました。
なんだか本書を読んだあとは、人が信用できなくなるけれど、自分も嘘をつかないようにしなきゃなと思いました。嘘って保身のためなら自覚なくつく時もあるのだなぁと思ったので。みなさんも嘘によるトラブルにはお気をつけください。
以上、レビューでした!
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