中島要さんの『産婆のタネ』の感想になります。
てっきり産婆をしている「タネ」という女性が主人公の物語だと思いきや、お亀久という女性が「タネ」という産婆の神様のもとで修業をする、という物語でした。おそらく私と同じ勘違いをした人は多いはず(笑)なのでこれから本書を読む方は間違わないようにご注意を。
<あらすじ>
浅草天王町の札差、坂田屋の娘お亀久は、元は男勝りのお転婆だったが、六年前にかどわかしに遭ってから、見知らぬ男と血を恐れ家から出られなくなった。さらには、許婚である材木問屋、万紀の長男紀一郎が紀州で山崩れに巻き込まれ行方知れずに。悲観したお亀久は大川に身を投げようとする。激怒した母は、命の尊さを教えようと、「産婆の神様」と呼ばれる八丁堀のおタネ様の家にお亀久を連れて行く。始めは恐れおののいていたお亀久だが、おタネ様から産婆は女相手の仕事だから男の出る幕はないと聞き、見習いを申し出る。
主人公は札差・坂田屋のお嬢様、お亀久。幼い頃にかどわかしに遭った際に、助けてくれた棒手振りの加吉が目の前で殺されてから男性と血が大の苦手になってしまい、家から出て来られなくなります。
なんとその年月六年。娘の将来を案じた両親は、材木問屋・万紀の長男紀一郎にわざわざ婿へ来てもらうことにします。しかしその矢先、不幸にも紀一郎は山崩れに遭い、消息不明になってしまいます。再び引きこもりになったお亀久は、自身が家のお荷物になると考え、川へ身を投げることにします。
しかし、それは失敗におわり、事の次第を知った母は大激怒します。「そんなに命を粗末にするのであれば、産婆のタネもとへ行って命の尊さを学んで来い」とまで言われ、無理やり外へ連れ出され‥
最初は外に出るのも、大量の血を見るのも恐怖でいっぱいだったお亀久ですが、産婆のタネから「男が嫌いなら女しか相手にしない産婆になればいい」とアドバイスされ、すっかりその気になってしまいます。
そうだ、産婆になれば大嫌いな男と結婚しなくとも女ひとりで食べていけるではないか。あとは血だけを克服すればいいだけだ。
なんだかとても単純な考えですが、こうしてお亀久はタネのもとで産婆見習いをさせてもらうことになります。
<感想>
意外にも仕事シーンが少なくて残念でした。タネは腕のある産婆という設定だったので、どんな方法で難産をクリアしていくのかな?と楽しみにしていたのですが、出産シーンはどれも「気合い」で産ませるといった感じで拍子抜け。声がけに優れているということなのかしら?
また、お嬢様育ちのお亀久には見習いとしてできることがほぼなく、最後まで読んでも「お留守番」くらいしかやることがなかったようでした。
ただ、産婆の仕事は大変だなぁとは思いましたね。どんなに一生懸命手を尽くしたとしても、亡くなる子は亡くなってしまいます。逆子になってしまったり、出血が多かったり、臍の緒が赤ちゃんの首に巻き付いてしまったり・・。産婆たちは年中いつお客さんから呼び出しが来ても駆けだせるように、休みなく待機していますが、こうした不運にはどうすることもできません。しかし、万が一の事態が起きたときには、人殺しとして責められ、命まで狙われたりするのがとても不憫でした。
産婆の中には人様の命のために、仕事に身を捧げて生涯独身を貫いたり、その多忙さから家庭を犠牲にして離縁される者もいます。また、実の子からは「なぜ自分よりも他人の子を優先するのか」と泣かれたり、親からは「人から恨まれ、命を狙わるような仕事は辞めてほしい」と懇願されたりします。
正直、この他にも理不尽なことをたくさん言われている産婆たち。それでも彼女たちは世の女性のため、自分が生きていくために仕事をつづけます。
さらに物語の最後には驚くような展開が待っていて、ちょっとした怒りがこみ上げてくるので要注意。江戸時代の人生があまりにもサバイバルすぎて、男に生まれても女に生まれてもきついなと思いました。
というわけで、今回はレビューの最後に恒例の総評を。
評価:3.8/5
今回は3.8。いくら世間知らずなお亀久ちゃんといっても、まだ見習いのド新人なのに、先輩たちに対して生意気すぎたので4にしたいところをマイナス0.2にしました。
女性が男児を生まなければ無価値扱いされたり、その母親自身もかつて娘であったことが原因で両親をガッカリさせ、なげやりに育てられたりという、女性特有の悩みが描かれた場面は、産婆の仕事を描く上でとても大切な内容だと思いました。また、嫁姑の関係や世間公認になっている旦那の浮気など、女性たちが物扱いを受けている姿には辛くなりました。
そんな中で、タネが次世代の命をつなげる産婆という仕事に誇りを持ち、未来の産婆の種を蒔いているという言葉にはカッコよさを感じました。そんなこんなで総合すると星4つ。いつの世も自立した人は輝いています。
以上が私の感想です。あまり詳しいことは書いていないので、興味のある方はこれから読んでみてくださいね。ちょっとだけラブ要素もありますので、そこら辺もお楽しみに。
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