今回ご紹介するのは、大人の間で話題沸騰中の児童書になります。
山本悦子さんの『神隠しの教室』
ある日、突然五人の生徒が校内から姿を消してしまうというストーリー。いなくなった生徒たちには皆、大きな悩みがあったという設定です。はたして彼らはどこへ行ったのか?そして元の世界へ戻って来られるのか?
ラストは涙を誘うミステリー小説になっています。
評価4/5
児童書だからといってナメてはいけません。実際に各レビューを見ると、大人からの高評価が目立ちます。児童書でありながらも、大人の心も包み隠さず正直に描いているところが◎。雰囲気的には、辻村深月さんの『かがみの孤城』に似ています。
以下はあらすじと感想になります
※まず、この本は読書感想文にオススメなのでネタバレはしません。最近は親が子供のかわりに宿題をしちゃう例があり、その際には「読書感想文 ネタバレ」でググって書き上げちゃうようなので、その手の内容は排除させていただきますm(__)m
登場人物紹介
神隠しにあってしまった生徒たちは以下のとおり。
加奈(小5)・・授業中にお腹が痛くなり、保健室へ行ったところ、神隠しにあってしまう。数年前に父を不慮の事故で亡くしてからは、母と二人暮らし。同じクラスの沙也加、恵斗、舞からいじめられている。一人で頑張る母に迷惑をかけたくないため、その事実を相談できずにいる。自分よりも相手のことを優先するやさしい子。
バネッサ(小5)・・加奈と同じクラスのブラジル人。担任から加奈の付き添いを任され保健室に行ったところ神隠しにあってしまう。両親が日本語を話せないため、用事がある度に通訳をさせられている。近々生まれる妹の面倒をみるために学校を辞めさせられる予定。周りからはハッキリものをいうので、「ガイジン」と言われ、嫌われている。
亮太(小4)・・絵具道具を取りに図工室へ行ったところ神隠しにあってしまう。クラスメイトからいじめられている。エリート意識が強く、人を見下したような話し方をする。中国で単身赴任をしている父とは長年連絡が取れていない。
みはる(小1)・・授業中にトイレへ行ったところ神隠しにあってしまう。母親の彼氏から虐待をされている。母親は中学生でみはるを出産している。
聖哉(小6)・・バネッサと同じ団地に住むシングルマザー家庭の子。母は夜の仕事をしており、時々男をつくっては数日家を間留守にし、ネグレクトしている。そのため聖哉にとって給食はライフラインになっている。また、母は失恋する度に仕事を辞めては寝たきりになるを繰り返している。聖哉が神隠しにあった経緯は謎に包まれたまま、物語は進む。
早苗先生・・養護教諭で元いじめの被害者。彼女も昔、この学校で神隠しにあっている。朝食を食べてこない聖哉のために毎日パンを買ってきて、保健室でこっそり食べさせている。
子供たちが行った世界
いじめ、ネグレクト、ヤングケアラー、虐待、差別。このように神隠しにあった生徒たちには深刻な問題があります。気になったのは、それに担任が気づいていないこと。つまり子供たちはたった一人で大きな悩みを抱えているのです。
しかし養護教諭の早苗だけは5人の異変に気づき、あれこれ動いてくれます。そして子供たちが行った世界は、過去に自らが行った「この世とそっくりな世界」ではないかと考えます。
それは現実にある学校とそっくりだけれど、自分以外誰も存在しない場所です。学校の外には出ることができず、まるで閉じ込められたかのような空間です。
早苗のときは、その日の夜に元の世界へ戻れたのですが、今回の子供たちは数日経っても姿を現さず、向こうの世界から戻ってくることができないようで・・
帰る方法
向こうの世界では子供たちが何とかして帰る方法を考え、実践しています。しかし、どの案も失敗におわり、そのうちなぜ帰りたいのかさえあやふやになってきます。
そもそも五人がここへ送られてきた理由は、それぞれに悩みがあり「どこかへ逃げたかった」からだと考えています。それなら元の世界へ戻らないほうがいいのでは?という気持ちがあるのですが、だからといって食事もままならないような生活には耐えきれず、心がゴチャゴチャ状態になっています。
もちろん、現実世界では聖哉以外の親が子供たちの帰りを待ち、心配と疲労で困惑しています。聖哉については・・「いい加減な家庭」というレッテルがあるため、学校すら彼の神隠しにまだ気づいていません。どうせ遅刻や無断欠席でいないのだろうと思われているのです。
しかし、そうこうしているうちに早苗先生との接触に成功し、やはり帰れるならそうしたいという気持ちに傾いていきます。そしてついに帰れる方法にたどりつくのですが・・・
感想
ネタバレはできないので、詳しくは言えないのですが、全員が帰るには全員が帰りたいという気持ちがなければなりません。
子供たちは現実世界に帰ったら、またあの日常が帰ってくることも承知でその判断をしなければなりません。なので、帰りたいと思った子はそれなりの決心をしていることになります。
この本が児童書として一味違うのは、こんな目に遭った子供たちが「大人の助けは必要ない」と言い切るところです。元の世界に戻るにあたって、特に大人たちにしてほしいことはないというのです。これは一見かなしい言葉のようで、本書を読むと全然そうではないことがわかります。これから本書を読む方には、ぜひ子供たちがこのように考えた経緯について注目していただきたいなと思います。
「そうだよ。私たち、仲間だよ。苦しいことは、代わってあげられないかもしれないけど、苦しいことを知っていてくれる人がいるだけで、救われると思う。でね、自分だけでどうにもできないときは、頼って(略)頼ってくれたら、うれしい。頼られると、私もがんばれるもん」P344
「なあんだ。加奈、さっき『変わる』って宣言してたけど、ぼくたち、もう十分変わってるじゃん」
「おれは、変ってないよ」
「変わってなくてもいいよ。みんなで聖哉くんを守るから」P345
親も教師もいない世界で力合わせて生きてきた五人はとても逞しい姿になっています。これだけみるとハッピーに思えますが、実は聖哉にはある秘密があります。それがあまりにも辛くて・・・。
聖哉だけは神隠しにあった後も四人にはない体験をしていたり、なぜか一人だけ裸足だったり、違和感だらけなのですが、その理由がまさかあんなことだったなんて・・。
また、本書は現実世界で子供の帰りを待つ親たちの心境も容赦なく描いています。大人だからといって正しいわけでもなく、胸を張った生き方ができているわけでもないということがわかります。
そして何よりも早苗先生の勇気には救われるものがあります。意外と分厚い本ですが、文字は大きめで、ある意味大人も読みやすいので、私がボカした謎の部分をぜひ直接手にとって確認していただけたらと思います。お子さんの読書感想文用の本にもオススメです!
以上、大人も夢中になれる『児童書』のレビューでした!
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