桂望実さん『地獄の底で見たものは』感想になります。

 

 
あらすじ
離婚、クビ、収入ゼロ……。 
もう、だめかもしれない。
そこからも、人生は続く。

日常に突如現れた落とし穴から、したたかに這い上がる!『県庁の星』の桂望実が描く、アラフィフ女の低温地獄。長年夫を支えてきたつもりだったのに、急に離婚を切り出された専業主婦。新規事業を立ち上げて15年、働きぶりを否定された会社員。ともにオリンピックを目指した教え子に逃げられたコーチ。22年間続けたラジオ番組をクビになり、収入が途絶えたフリーアナウンサー。どん底に落ちた女たちの、新たな人生の切り開き方とは?

評価4.6/5

アラフィフでどん底に落ちた女性たちを描いた短編集。全四篇。地獄からのハッピーエンドという構成がとても気持ち良いです。たまにはこういうスッキリ系を読むのも心に大事。男性が悪役に限定されていたのはちょっと気の毒ですが、面白かったので結構高めの評価に。悪役にも理由があるんだよ~なんて情けなどやるもんか!という筆者の強い意思を感じました。

 

以下、少々ネタバレ注意(完全なネタバレはなし)

 

 

<レビュー>

五十三歳で専業主婦をクビになった由美は、再就職先で素敵な仲間と出会い、自立する喜びを感じます。夫は娘と二歳しか違わない若い女と結婚し、これから子供を作るのだとか。離婚した当初は就活が上手くいかず、やっと得たコールセンターの仕事でもタイピングが上達せずに苦悩する日々を送っていた由美。しかし、年齢を言い訳に「できない」と甘えていては「何も始まらないし、変わらない」と生まれ変わります。新しくできた仲間の存在が素敵で、自分を応援してくれる人の存在は名前だけの家族よりもずっと尊いと思いました。もちろん最後は元夫をギャフンと言わせます。というかヤツの幸せは永く続きません。

 

五十一歳で入社以来のライバル(男)に取締役の座を奪われ、これまでの仕事を全否定された英子は、夫の「独立すれば?」の言葉に乗っかって旅行会社を退職します。元部下によると、取締役は英子が取って来た仕事をすべて白紙にしているのだとか・・。これはむかつく。しかし英子は逆にそれをラッキーと受け止め、すべて自分の会社に取り込みます。するとみるみる業績は上がり・・。こちらも最終的には英子が元ライバルをギャフンと言わせます。あぁスッキリ。

 

四十六歳で教え子に逃げられた邦子は、自分の指導法がパワハラに当たるのではないかと悩みます。そこで大学院に行って指導法を学ぶことにしたのですが、そのタイミングで糖尿病を患っている選手からコーチの依頼が入り・・。なんとその選手は邦子の現役時代の映像を見てから憧れており、ずっと指導してもらいたかったのだとか。しかし、自分の指導法に自信をなくした邦子はどうしていいかわからず、思うように動くことができなくなっています。ただね、邦子はちょっと熱血なところはあるものの、決してパワハラコーチではないのです。前の教え子は練習嫌いだったのに加え、ここ最近はマスコミにイケメンスイマーともてはやされていたため、かなり手を焼いていたのです。

 

ん~この話は元教え子が超現代っ子って感じで、邦子が気の毒だったかなぁ。水泳を始めたときからずっとお世話になっているコーチにLINEで「辞めます」と連絡してきたり、真面目に練習してくれなかったり。それでも「自分が悪い」と思える邦子は立派だなぁと。ちなみに新しい教え子と邦子の相性は嘘みたいにバッチリ。邦子がコーチじゃなきゃダメとまで言ってくれるほどのナイスコンビになります。最後はこれまたスッキリする展開になるのでお楽しみに。

 

五十二歳でラジオパーソナリティの仕事を切られ、収入がゼロになってしまった綾子。人気番組だったのになぜ??実はこれ、チーフディレクターのせいなのです。こいつが自分の彼女を新パーソナリティにするために、「上の判断」だと嘘をついて綾子のことを卒業させちゃったのです。腹立つ~。しかし、人望の厚い綾子は苦労はするものの、這い上がります。女同士が結束したら強いもの。諦めなければ道は開ける!という超ポジティブな内容になっています。

 

以上が簡単なあらすじ・感想になります。どの話も痛快でした~。不当な理由で人生を狂わせられた結果、むしろそんな相手から離れた方が素敵な未来が待っていたというオチ。諦めないことは簡単ではないけれども、幸せを逃さないための基本であるということを思い出しましたね。一人じゃ頑張れないけれど、応援してくれる人がいるならパワーがでるかも?そう思わせてくれる一冊でした。

 

タイトルの印象とは真逆の元気いっぱいの短編集。アラフィフの皆さん、オススメなのでぜひ読んでみてください。

 

それでは、また!

 

 

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