大島清昭さんの「呻木叫子」シリーズ①『影踏亭の怪談』のレビューになります。
超自然vs論理の興奮
その先の衝撃+恐怖
全部最高です。――澤村伊智氏、絶賛
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか4編を収録
僕の姉は実話怪談作家だ。本名にちなんだ「呻木叫子」というふざけた筆名で、民俗学でのフィールドワークの経験を生かしたルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。この怪現象は、取材中だった旅館〈K亭〉に出没する霊と関連しているのか? 調査のため〈K亭〉こと影踏亭を訪れた僕は、深夜に発生した奇妙な密室殺人の第一発見者となってしまう――第十七回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか全四編を収録する、怪談×ミステリの最前線。
■目次
「影踏亭の怪談」
「朧(おぼろ)トンネルの怪談」
「ドロドロ坂の怪談」
「冷凍メロンの怪談」
実話怪談作家の梅木杏子こと呻木叫子(ペンネーム)は、毎回取材先の心霊スポットで殺人事件が起き、その度に警察から推理をお願いされます。なぜなら叫子の周囲で起こる事件は、怪奇現象なのか人間による仕業なのか判別のつかないものばかりなのです。しかし実際はそのどちらもが関係している、というのがこの物語の見どころになっています。
評価3/5
全四篇からなる連作短編ですが、最終話でこれまでにあった怪奇現象の伏線回収を行うスタイルになっています。が、肝心の最終話の展開にかなり無理があるような・・。また、事件の詳細とあわせて叫子のルポルタージュが導入されているため、少々重複した内容を読むことになるのでご注意を。しかもルポでは物語の中で名前や地名がかかれている部分がイニシャル表記に変わっているので、そこら辺の把握をきっちりしておく必要があります。しかし怖さレベルと不可解さはMAX。よって面白さは5、読みにくさ2くらいの評価になりました。
以下は各篇の簡単なあらすじになります↓
朧トンネルの怪談
個人的に一番のお気に入りは「朧トンネルの怪談」です。栃木県北部、日光市と月隈町の境界の峠道にある「朧トンネル」には、首のない女性(大人三人と少女一人)の目撃情報が多数報告されています。ある日、大学生四人が心霊動画を撮りに朧トンネルを訪れたところ、その中の一人Hさんが神隠しにあってしまいます。結局Hさんは失踪者扱いとなり、その後メンバーがもう一度現場を訪れた際には、一人でトンネルに入っていったTくんが首を切断された状態で発見されます。そこでようやく警察も重い腰をあげてくれるのですが、Tくんの頭部が見つからないことや犯行時トンネル内に誰もいなかったことから、事件は心霊現象なのか、人間によるものなのかわからなくなってしまいます。
影踏亭の怪談
また、表題にもなっている「影踏亭の怪談」もとても面白いです。この回では栃木県にある<影踏亭>という旅館へ取材に訪れた叫子が、その後自宅アパートで両手足を椅子に縛り付けられ、意識不明になった状態で発見されます。その際に、叫子は両瞼を髪の毛で縫い付けられており、部屋は密室だったため、これはどう考えても「おかしい」ということで、彼女の弟が影踏亭へ調査に向かいます。
影踏亭には座敷童がいるという噂があるのですが、その正体はハッキリしていません。ただ宿の真ん中にポツンとある離れに泊まると、深夜二時十七分に非通知から電話がかかってきて、子供らしき人物から未来の出来事を教えてもらえるそうで・・。ただ、不思議なことに、その部屋は寝室だったところが壁で封鎖されており、現在は部屋そのものも立ち入り禁止になっています。
実は弟が現場を訪れた時、影踏亭の離れに(女将の友人ということで特別に)宿泊していた男性が両目を抉り取られた状態で亡くなってしまいます。しかも死亡時は部屋が密室になっており、続いて弟までもが川に落ちて亡くなってしまいます。これも霊の仕業なのか、それとも・・。
ドロドロ坂の怪談
栃木県以外の話でいえば、「ドロドロ坂の怪談」もなかなか怖かったです。こちらは福島県南部にあるドロドロ坂周辺の住人から「泥だらけの人が歩いていたり、着物姿の幽霊らしき女性が誰かを探している」といった目撃情報が相次いでいるというもの。さっそく叫子が現地調査をすると、その土地にはかつて死人や動物を放り込んでいた井戸と山崩れで全滅した集落があることが判明します。
さらに現地調査に来ていた他の取材班のうち一人が泥まみれになった遺体で発見されたり、現地に住む叫子の友人の子供が行方不明になったり不可解な出来事が多発します。結局、事件は叫子が解決するのですが、ここでの怪談エピソードが怖すぎるので、ぜひ皆さんにも読んでいただきたいです。
感想(ネタバレ込み)
まず、「朧トンネル」のことですが、結局Tさんは自殺だったことが判明します。動機は自分が現場で死ねば、警察もHさんの失踪を事件扱いにして一緒に捜索してくれると思ったから。もちろん、この犯行には首を切ってくれる協力者が必要なのですが、そんな人いるの?と思いますよね。しかし、いるのですよ。なぜか自殺したTくんも協力してくれた友人も何者かに憑りつかれたかのようにそれを実行してしまいます。
結局、警察がTくんの首を探していた時に、現場近くから女性と子供の首なし遺体も発見されます。どうやら数々の心霊現象はこの人たちの仕業だったようで・・・。
ちなみにこの首の正体は最終話の「冷凍メロンの怪談」で明らかになります。しかもそこでHさんの行方も判明します。あることが目的で首を集めている人がいて、いらなくなった胴体部分を朧トンネル付近に埋めていたのですね。Hさんはたまたま遺棄現場に遭遇してしまったせいで、拉致されたようです。
こんな感じで心霊現象と人間の手によるものがミックスされているところが本書の持ち味。もちろん「冷凍メロンの怪談」では、ドロドロ坂や影踏亭に出てくる幽霊の謎についても解説してくれるのでお楽しみに。半分殺人事件、半分怪奇現象、むしろ心霊ネタを利用した巧妙な犯罪といっていいのか。そのグラデーションが何とも面白いので、興味のある方はシリーズを読破してみてくださいね。
さいごに
はじめは三津田信三さん系のモキュメンタリーホラーなのかな?と思いましたが、読んでみるとミステリー要素が強かったです。それに加えてホラーな部分もリアルだし、民俗学的な雰囲気もあります。結構怖がりたい人にオススメ。ファンによるとシリーズ三作目の『バラバラ屋敷の怪談』が怖いと評判です。というかシリーズが進むにつれてどんどん怖くなっていくらしいので、多少の読みづらさは忘れてリアリティを求める方はぜひ。
以上、怖い本の紹介でした!