皆さんは異世界転生モノを読んだことがありますか?ラノベやマンガ、それにアニメでもとても人気のようですね。私は読んだことがないのですが、今からご紹介する島田雅彦さんの『大転生時代』は、その異世界転生モノを純文学×SF小説にしたものになります。こういったジャンルは読みなれていないため、そのぶっ飛んだ世界観に終始圧倒、困惑しながらの読書タイムでしたが、とりあえずそこで得た感想を書いていきます。
★★☆☆☆
評価が低いのはやや難読だった(というか、ついていけなかった)から。しかし、新鮮さではダントツです。
大まかなストーリー
ある夜、横溝時雨は、中華料理屋で中学時代の同級生・三浦杜子春と再会します。しかし、久しぶりにあった友人は自分を「子どもの国」から転生してきたクービンという十六歳で戦死した少年だと語ります。それは生まれ変わりとは違い、あくまでもクービンは魂だけを転生させ、杜子春の身体にそれを宿らせたというのです。
実はこの世界には、杜子春のように転生者に本体を乗っ取られた人が多いとのこと。身体に転生者が宿った人は、複数の人格を持った病気の人に見えたり、妄想癖のある人に見えたりするようで・・。
おまけに転生者はどの時代の、どんな人に宿るかは決められないらしく、まさに「出たとこ勝負」。宿主に理解があり、相性がよければ持ちつ持たれつの関係になり、そうでなければ自己主張が強い方に身体を奪われてしまうそうです。
転生したての人は、まず自分が何者に宿ったのかわからず、転生した数だけの人格を持つようになるので、記憶喪失のホームレス的な存在としてスタートします。そんな転生者たちをお世話してくれるのが、「ハニカミ屋」という転生者支援センターのおじいさん。何となく杜子春と付き合うようになった時雨は、ハニカミ屋から支援施設のスタッフになってくれないかと頼まれます。
転生のしくみ
ここからは、ざっくりと転生のしくみをご紹介します。
まず、転生者支援センターのしくみから。ここは転生者の生活を支援するだけではなく、知る人ぞ知る転生したい人を異世界へ連れて行ってくれる場でもあります。以下はその方法、転生先などをまとめたものになります。
転生の方法
転生の方法は、ちょっと複雑。もはや宇宙だの量子レベルの話になるので、簡単にいうと、ハニカミ屋が独自研究で得た方法で異世界に送り出します。その際は自分のゲノム解析と人生メモのデータを異世界に送信し、それを向こう側の誰かがキャッチした瞬間に転生完了となります。
異世界はどんな場所
今の技術では、まだ行ける異世界に限りがあります。無数にある異世界の中からハニカミ屋が発見できた異世界の座標にデータを飛ばすことで転生は成功します。しかし、現在わかっている異世界だけでも、私たちの住む世界よりは進んでおり、あちら側からこちら側へ転生してくる人も多いよう(犯罪者までいる)です。ちなみに一歩進んだ異世界から来た人は、こちらではノーベル賞を受賞するような偉大な研究者になっていたり、何かと特権を得ています。
転生者とはどんな人?
この世界では、死=おわりではなく、転生です。あの世とは新しい世界で生きることなので、本当の意味の人生のおわりはありません。転生したいと思ったら魂だけを転々とさせるので、何だか変な感じ。中には悪だくみをする人もいて、一歩進んだ異世界へ転生することで、そこの技術を盗み、本来の世界で生きる自分にそこでの経験を同期させて利益を得ようとしています。さらに新たな座標を開拓して、未知の地へ大量の転生者を送り出し、植民地支配的なことを企む輩も・・。
人心売買
作中に転生は「人心売買だ!」という台詞があります。それは本当にその通りだと私も思います。自分たちが洗脳した転生者を次々と異世界へ送り込み、そんな転生者たちを受け容れてくれる寛容な異世界の人たちの身も心も奪い、支配するなんて・・!!
転生者になると、魂と本体が同期してしまうので、結局どちらも複数の人格や経験を抱えて苦しむことになります。そのせいか転生者の多くは長生きできず、そうでない人の半分の寿命しかありません。まぁ、死んでも転生するのでさほど問題はないのかもしれませんが。
この世界では、ほとんどの人が転生者に憑依されても無自覚でいるらしく、「なんか人が変わったな?」と親しい人から思われるか、思われないか程度ではあるようですが、それでも迷惑な話だよなぁと。人によっては転生者の魂と合わず、それにより健康上、精神上に大きな影響が出るので、やはり人心売買としか言えないのではないかと。人口の1%は転生者、もしかしたらあなたも・・という言葉にはゾッとするものがありました。
感想
転生が当たり前の世の中になれば、それは転校や移住並みの感覚になり、生きることに無責任になるような気がしました。
うーん、魂も本体もリセットさせる「生まれ変わり」ならまだフェアですが、魂だけが転生する「生まれ変わり」は、宿主に何らかしらの影響を及ぼすため、めちゃくちゃ自己中心的な行為だなと思いました。よくわからない場面は多かったものの、こんなことがあっては絶対にいけない!ということだけはわかりました。
ちなみに本書を読む前に、SNSで市川沙央さんの書評がプチ炎上していたようです。
興味のある方はぜひ、こちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。
しかし、もし未来にタイムマシーンが登場するやら、異世界へワープできるとなったら、やはり体ごとではなく、記憶?魂?だけがトリップする感じになるのかしら。
全体的には現代社会への皮肉といった感じの内容。このジャンルには初挑戦だったので、面白いのか、面白くないのかも判断できぬまま読了。ただ、深いこと、大事なことを言っているような気がする、そんな一冊でした。