今回ご紹介するのは新堂冬樹さんの『少女A』です。

 

表紙の女の子が実在している子のようにリアルで胸が痛みます。

 

今からその理由をお話しますね。

 

 

 

 

 

 騙された少女

 

トップ女優になることを夢見て、大手芸能プロダクションのオーディションを受けに上京した小雪。しかしオーディションでは酷評され、思わず現場を飛び出してしまいます。失望した小雪は、オーディション会場へ向かう際に声をかけてきた井出というスカウトマンを思い出し、連絡します。

 

井出から紹介されたのは「リップグロス」という名の知れぬ芸能事務所でした。契約時に「君はトップ女優になれるオーラがある」「すぐに映画に出てもらう」などの甘い言葉をかけられた小雪は、すっかり舞い上がってしまいます。そのせいで「売れるためには有名女優も最初は脱いでいた」「プロ根性を試すために裸になってみて」というおかしな言い分までも信用してしまいます。結局、小雪は何も知らないまま撮影現場に連れて行かれ、そこで濡れ場の撮影を強要されます。急なことに戸惑い、逃げ出そうとしますが、「君の憧れの女優もVシネマ出身だよ」「これは賞にも出品できるちゃんとした映画だから」と嘘をつかれ、腹をくくります。これがAVの撮影現場であると小雪が知ったのは、DVDのパッケージを見せられたあとになってからでした。

 

 

 

 母と娘

 

そもそも小雪が女優を目指したきっかけは、母親の影響でした。小雪の母もまた、若い頃に女優を目指していましたが、願い叶わず、その夢を娘に託すことにしたのです。これは一種の洗脳や英才教育のようなもので、小雪は幼い頃から児童劇団に入れられ、物心ついたときから「自分は女優になる」と思い込んでいました。小雪の夢は母の夢でもあることから、何の結果も残さず家に帰ることができず、井出の誘いに引っかかってしまったのです。

 

しかし母に喜んでもらえると思った「リップグロス」との契約(この段階ではまだ未契約)は、姉も含めて反対されてしまいます。まだ他の名の知れた事務所のオーディションを受けてからでも遅くないこと、無名の事務所に所属しても仕事がないこと、何より井出という男が本当に信頼できる人物なのかということ・・。思わぬ反応をくらった小雪はショックを受け、そのまま勝手に「リップグロス」と契約を結び、あの撮影に挑んでしまったのです。

 

その後、小雪のAVデビューを知った家族は絶望し、母はうつ病を患い、縁を切られてしまいます。

 

 

 

 第二の人生

 

こうして小雪は三年もの間、井出に騙され続けたまま、AV界のトップとして君臨します。家族から縁を切られ、AV女優にされてしまった小雪ですが、今や頼れるのは井出だけとなり、自分が騙されているとわかっていながらも彼に依存している状態でした。しかし、新人女優が入って来てから井出が自分を粗末に扱うようになると、いよいよ小雪も事態の深刻さに気づきます。「AVで知名度を上げてから引退した方が、次に良い仕事が来るからもう少し続けた方がいい」そんな話はデタラメで、自分に優しくしてくれたのも単に逃げられないようにするため。「次」が来れば自分は用無しで、一生女優になどなれず、ついたのは汚点だけ。そこではじめて小雪は事務所を辞める決心をし、業界自体からも身を引きます。

 

引退してから五年―小雪には幼稚園生の娘がひとりいます。父親は井出。なんと井出は小雪に手を出していたようです。しかし小雪は妊娠のことを井出には告げず出産していました。現在の小雪は、AV時代の貯金とバイトで生計を立てていますが、園内ではママ友から小雪が元AV女優だという噂を流されており、娘がいじめられるのではないかと心配しています。

 

ここから物語は小雪と娘の人生についてフォーカスされていきます。「AV女優の娘なんて将来いじめられるに決まっている」「親が男好きなら娘もそうなるんじゃないか」そういった世間の中で二人は生きていくことになります。この頃はもはや女優になることなどどうでもよくなっている小雪。今、本当に願っているのは娘の人生を不幸にしないことだけ。いつしか小雪の夢は大きく変化していたのでした。

 

 

 

 感想

 

小雪は18歳の高校生です。AVに出演するまでは異性と付き合ったことすらなく、世の中の汚さなど全く知らない純粋な少女でした。だからこそ人を信じやすく、井出なんかに騙されてしまったのですね。

 

最初のオーディションでは劇団で指導されていた通りに振る舞ったことが、「洗脳されているみたいで気持ち悪い」と煙たがれていました。それもそう、小雪は真面目な顔で「自分の演技で夢や希望を与えられる女優になりたい」と言ったのです。その後もずっとテンプレートのようなことを自信満々に語り続け、しかしそれが相手からどんなふうに思われているのかも気づかず・・という状態で。あまりにも疑うことを知らないというか、真っ直ぐすぎるというか。ちょっと見ていられなくなる場面が多かったです。

 

小雪の母はうつになってしまいましたが、彼女にも罪があるのではないかと思います。この母と限らず、自分の夢を子どもに託す親は結構いますが、それで子どもに何かあったときは無責任でいてほしくないですね。

 

同じ芸能界志望でも本人の希望なのか、親の教育なのかで全く違ってくると思うので。人見知りな娘を子役事務所に入れて、オーディションを受けさせまくっても不合格で、なのにあとから入った社交家な息子はどんどん仕事が決まって、娘のほうはコンプレックスが形成されていく・・なんてのもリアルにいますし。娘を子どもの頃からSNSに載せるのはいいけれど、そのせいでアンチから容姿について心ないことを言われ、可愛かったのに十代で整形しちゃった子も。同じ理由でガリガリに痩せてしまった子もいたなぁ。それでも子どもは自分の夢は芸能人になることだと思い込んでいるので、絶対に親を疑うことはないのでしょうね。

 

ただ、いつまで親の思う通りに動いてくれるかは謎です。小雪のように今まで母親の言う通りにしてきた子が、急に自分で自分のことを決めようとしたとたん、どんなことをしだすかはわかりませんよね。それで失敗したらお母さんの言う通りだったなんて思うのでしょうか。中高生くらいになったら、小雪みたいな親に従順な子って珍しいと思うのですが、優しい子ほど親の期待に応えようとしちゃうものですよね。考えるほど、いろいろと辛い話でした。

 

小雪は役者としての才能があったみたいだし、容姿受けも抜群だったから、あのままオーディションを受け続けていたらなぁと悔やまれます。ひたすら気の毒な展開ですが、興味のある方は読んでみてください。

 

 

以上、『少女A』のレビューでした!