今回は、漫画家たちの戦争シリーズ(全6巻)から、『未来の戦争』をレビューします。
こちらは日本の漫画界の巨匠とも言えるメンバーによる、戦争をテーマにした短編集になります。
戦後に刊行された漫画を対象に選択・編集したものになっており、今では読むことが難しい作品も多く収録されています。以下にご紹介するのは、第5巻の『未来の戦争』という、今後私たちに起きるかもしれない戦争をSF漫画として描いた作品を集めたものです。
【収録作品】
石ノ森章太郎『くだんのはは』(原作・小松左京)
星野之宣『落雷』
山上たつひこ『地上』
ひらまつつとむ『飛ぶ教室』
諸星大二郎『百鬼夜行』
松本零士『THE WORLD WAR3 地球 THE END』
手塚治虫『山の彼方の空紅く』
藤子・F・不二雄『ある日・・・・・・』
まず漫画家たちの名前を見て驚きますよね。一冊の中になんて豪華な・・!!ありがたや。もちろん、当たり前に面白いというか、凄いというか、ポジティブな感想しか出てきません。「あ、これ読んだことあるかも」という作品もあるのですが、最後に各作品の解説がついているので、それを読むとより深くメッセージを知ることができます。
たとえば、星野之宣さんの『落雷』は、広島に落とされた原子爆弾が時空と空間のひずみによって、30年後の東京上空にタイムワープしてしまったという恐ろしい話になっています。この漫画には「サンダーボルト」という名前のついたB29が出てきて、それが旅客機と入れ替わり、30年後の東京へワープしてしまう設定になっています。逆に30年前にワープしてしまった旅客機の乗客たちは、原爆投下後の広島上空を飛んでいるというわけですが、当時この漫画がリアルすぎて、本当にB29「サンダーボルト」という、東京に原爆を落とす予定だった爆撃機が存在していたと信じていた人が多かったそうです。漫画では「サンダーボルト」は太平洋戦争時、東京へ飛び立ったものの、行方不明になっていた噂が流れており、読者の中にはどうやらそれを真実だと思い込んだ人がいたみたいです。
しかし絶対に「ない」と思っていたことが、漫画のような展開まではいかなくても、考えられないような事故で、まったく関係のない場所に核爆弾やミサイルが撃ち込まれる可能性はゼロではありません。だからこそ、私たちは核兵器の恐ろしさを忘れてはいけない、ということをこの作品では伝えています。確かに戦争ではなくても災害で放射能が放出されたり、誰かのミスで核のボタンが押されたり・・そんな可能性はゼロとは言えません。
他にも、山上たつひこさんの『地上』では、長年地下牢に入れられていた囚人たちが登場するのですが、彼らが脱獄を果たした時、地上には人類が自分たち以外に存在していなかったという結末が待っています。彼らを今までお世話していたのはロボットであり、漫画では人類が滅びてロボットだけの世界になることを暗示しています。気味が悪いのは、ロボットたちは人間がプログラムした通りにしか動けないので、囚人たちが「もう人がいないので仕事をしなくてもいい」と言っても、理解することができません。いつかこの世界も戦争や災害で人類が滅亡しかけた時、このようなことが起こり得るかもしれないと思うとゾッとします。
諸星大二郎さんの『百鬼夜行』では、バイオテロ後の日本が描かれています。昔、行われたテロのせいで、被害者の子孫たちの体にまで影響を及ぼしているという話です。彼らの体には、人間以外の生き物の遺伝子が入っているのですが、薬を飲んでいるかぎりは奇妙な姿にならぬよう抑制できるという設定です。しかし事件当時、大きな被害に遭った人たちは、ほとんど獣に近い生き物になっており、人間の姿を保っている人たちからは差別されています。漫画ではそんな彼らの苦しみがメインに描かれているのですが、形は違えどバイオテロは既に他国で行われており、決して漫画の世界の出来事ではないことがわかります。恐怖よりもショックや悲しみの多い作品が集まる理由。それは人間が戦争をすぐに忘れてしまう生き物だからでしょう。結局また同じ苦しみを繰り返してしまう。未来予想図が残念な結果になってしまうのも、平和ボケしている私たちには、仕方がないことなのかもしれません。
以上が簡単なレビューになります。どの漫画家さんたちの作品も、エスパー並みに未来が視えていて凄かったです。シリーズは他にも『原爆といのち』『子どもたちの戦争』『戦争の傷あと』『戦場の現実と正体』『漫画家たちの戦争 別館資料』があるので、よければ読破してみてください。漫画なのでスラスラ読めるし、古い年代の話ほどリアリティがあるような気がします。大人だけでなく、子どもにもオススメ。日本人なら一回は読んだほうがいい漫画家が勢揃いしているので、ぜひ手に取ってみてください。
それでは、また!
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