最近若い子たちが「語彙力がほしい」と言っているのをよく耳にします。その理由は「自分が思っていることを上手く伝えられないから」だそう。それと同時に「頭が良くなりたいから」という意見も耳にします。
今からご紹介する『東大生と学ぶ語彙力』の著者・西岡壱誠さんは、過去に上記の若者たちと同じようなことで悩んでいた学生でした。小中高ずっとテストは学年最下位。頑張って勉強しているのに赤点を取ってしまうような生徒だったそうです。
しかし、高校三年生のある日、友達からバカにされる日々に嫌気がさし、突然東大を目指して人生逆転させることを決意します。そこで西岡さんは、東大を受験する人がどんな人なのかを観察して、あることに気づきます。それは頭のいい人たちは、日常会話レベルから語彙力が高いということでした。
「もしかして、普段使っている言葉の差や知っている言葉の量の差が、学力の差になっているんじゃないか」
そう気づいた西岡さんは、自身が教科書を読んで勉強する際に、まったくその内容を理解できていなかったことを思い出します。国語だけでなく、英数理社も含めて、自分は語彙力に足を引っ張られていた・・!!「この王朝が凋落した」の「凋落」って何?「Aという数字が累積した場合」の「累積」って何?そもそも日本語で知らない単語を英語で理解できるわけがなくない?
そこから西岡さんは語彙力をつけるための猛勉強を始めます。その結果、数回の浪人生活を経て東大合格を果たします。本書は、そんな西岡さんの実体験と、現役東大生が受験勉強をしていて役に立った語彙や、受験勉強「前」に知っていてほしい語彙をまとめ、紹介したものになています。さっそくですが、ちょこっとだけレビューするので、学生さんたちはぜひ勉強の参考にしてみてください。
<数学>
「因数」と「約数」の意味を知りながら勉強している人はどのくらいいるでしょうか。まず「因数」から見ていきます。「因数」の「因」には「ことの起こるもと」という意味があります。つまり「因数」も「その数が起こるもと」と考えていけばわかりやすくなります。たとえば12という数は、3と4を掛けることで導き出されます。言い方を変えると、12があらわれる原因となった数が3と4というわけです。そう考えると「(x+1)×(x+2)」の(x+1)や(x+2)が因数になる理由がわかるのではないでしょうか。(x+1)×(x+2)をすると、「x³+3x2+2」という結果が生じますよね。(x+1)×(x+2)は、この結果を導いた数だと言えます。
そして「因数分解」とは、「x³+3x2+2」という結果を分析して、「(x+1)×(x+2)」を導くことです。一つの数から原因となっている複数の数を導くわけです。最後に「素因数分解」は「素数の因数」を導くことです。「12=3×4」だと、4は素数ではなく、もう1回「4=2×2」と分解できます。このとき、「12=3×2×2」と「素数」で分解することを素因数分解といいます。
「因数」とよく間違われるのが「約数」です。これもどっちがどっちかわからなくなる人は、漢字の意味を考えてみましょう。約数の「約」には、「小さくする」というニュアンスがあります。「節約」や「要約」という言葉をイメージすると、「ある物や量を減らす」「小さくまとめる」という意味が浮かんできませんか。数字において「小さくする」とは、数を「割る」ことなのです。そこから派生して、その数を割ることができる=割り切れる数のことを約数と言います。ちなみに「約30個」「約20個」などの「約」も、「要約」の意味「まとめると」に近く、「大雑把に言うと」という解釈になります。(P54₋55を参考に、一部引用しながら書いています)
<理科>
プラス・マイナスのことを「陰」と「陽」と言いますよね。「陰イオン」「陽イオン」「陰性」「陽性」などは理科でよく出てきます。では、「陰」と「陽」の意味はわかりますか。「陰」には「受動的なもの」、「陽」には「積極的なもの」という意味があります。それを頭に入れて「陰イオン」と「陽イオン」を考えてみましょう。イオンというのは、原子を取り巻いている電子を追い出したり、受け入れたりして作られています。電子自体にはマイナスの性質があるため、これが多ければ陰イオンに、少なければ陽イオンになります。
陽イオンは、電子を追い出して作られるものです。一方、陰イオンは、電子を「受け入れて」作られるものです。前者には積極的な要素、後者には受動的なニュアンスがありますよね。いかがでしょうか。言葉の意味を知ると理解力が上がるというのは、こういうところにあるのです。(P75₋78を参考にしてまとめています)
<社会>
あらすじにもあるのですが、「偏在」と「遍在」の違いがわからないまま地理を勉強しても、成績はなかなかあがらないとのこと。みなさんは答えられますか?ちなみに私はわかりました。ちゃんと理由まで説明できましたよ!わからない方は、ぜひ調べてみてくださいね。
<英語>
英単語の暗記法にも語彙力を使ったテクニックはあるのですが、ここに気づくまでにはやはり国語力が必要だと思います。ちょっと英語に関しては保留で。
以上が簡単なレビューになります。
確かに昔から「教科書読むだけで理解できるしっ」という同級生は一定数いました。おそらく彼らには語彙力があったのでしょうね。ただ、おそろしいことにクラスの大半が「教科書だけでは理解できない層」に属していたと思われます。そこから先生が細かくかみ砕いて説明しても、「ちょっと何を言っているか全然わかんないや」という生徒も必ずいた記憶があります。そういう子は日常会話レベルから「それどういう意味?」と質問してくる頻度が多かったかもしれません。新井紀子さんの『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』にも似たようなことが書かれていたなぁ~なんて思いながら読んでいました。
話は冒頭に戻ります。最近の若い子は語彙力を求めているというアレです。実は少し前に若手芸能人のラジオを聴いていたら、彼らが「〇〇」という言葉を知らず、お題が進まないという場面に遭遇しました。この時もし「〇〇」という漢字の意味を知っていたら、なんとなくでも意味をイメージできたのでは?と思ってしまいました。他にも「え?この言葉知らないの?」と衝撃を受ける場面があり、当の本人もたちも「語彙力がない」「語彙力がないから上手く話せない」と悩んでいました。
ただ、彼らは無知なことをネタにするわけではなく、真剣に本を読んで学ばなきゃ、もっときちんと話せるようにならなきゃと言っていたので、本当に語彙力(国語力)について気にしているのだなと思ったのです。
私も人の事を言えませんが、真面目に一生懸命やっていても「できない」ときって、やはり何か原因があるんですよね。たとえば彼らは「本を読もうとしも最後まで読めたためしがない」らしく、何度チャレンジしても結局ダメみたいなのです。でもやる気があるのは伝わって・・。もしかすると本を読めないのは、読解するのに手こずるからではないかと。読解するのに手こずるのは、語彙力が欠けているからではないかと。読んでいる本も難しい内容のものではなかったので、もしそれがダメなら思い切ってもっとやさしめな本を選んでみたらいいのになぁと遠くから思ってしまいました。
あまりにも健気だったので頑張ってほしいです!特定されないためにも、あえて大事なところはぼかして書きました。バカにされたらかわいそうなので。SNSを見ていても、ポストの文末に(語彙力・・)や(伝われ)と書き、文章力に自信がないので大目に見てね、どうか言葉足らずだけれど真意を汲み取ってね!と保険をかける人が多く見られます。自分では文章にできないので、他人のポストを引用して、相手の意見に反論する場面もよく目にします。これ引用された人は頭に来るだろうなぁと。自分が文章化できないからといって、わざわざ反対意見を見つけてきて、それに反論することで、さも自分の意見をいった気になるなんて。主張があるのはいいことだから、自分で伝えてみたらいいのに。
それもこれも、「語彙力の欠如」が問題なのでしょう。語彙が豊富なら、会話も一層楽しめるし、頭の回転もスピードアップするし、いいことだらけ。会話中の誤解も減るし、喧嘩も減る。思考力・判断力・表現力もレベルアップし、今よりずっと生きやすくなると思います。語彙力は思考の種。悩んでいる子には、迷わずじゃんじゃん鍛えていってほしいです。
本書はあえてわかりやすい言葉を選んで書かれているので、あまり心配せずに読んでみてくださいね。この本が悩みのヒントや助けになったら嬉しいです。
以上、『東大生と学ぶ語彙力』のレビューでした!