こんなヤツは友達なんかじゃないっ!!
読んでいて、そう思ってしまうのが、今からご紹介する岡部えつさんの『怖いトモダチ』です。
こちらはコミックエッセイ版(漫画)と小説版があるのですが、私は後者を読みました。
人気エッセイスト・中井ルミン(本名:森葵)は、人によって評価がまったく違う謎の人物です。ある人は彼女を聖女といい、ある人は悪女という。それは嫉妬を買いやすい人気者ゆえの宿命なのでしょうか。それとも本当に裏表のある人なのでしょうか。
本書にはルミンと関りの深い16人の証言が書かれています。彼女が運営するサロンのメンバーや中学時代の同級生、元夫、担当編集者などから語られる”中井ルミン”は、知れば知るほど謎が深まるばかり。
ちょっと人数が多すぎて話がごちゃごちゃになりそうと思う方は、ご安心を。そんなこともあろうかと、ご丁寧に登場人物全員のルミンに対する気持ちをまとめたプチ自己紹介が載っています。これで一応、誰がルミン信者で、誰が被害者なのかパッと見で把握できます。
まず読んでいてすぐにわかるのは「おかしいのはルミンの方だ!」ということ。彼女のことを良くいう人もたくさんいますが、そういった人たちにはある特徴があります。それは「自分」を持っていないこと。ルミンを愛する人たちは、彼女のことをトモダチではなく、教祖のように思っています。自分を持っていない彼らは、ルミンに洗脳されることに喜びを感じ、自らは何も考えようとしません。
一方、ルミンから危害を加えられるのは、それとは真逆のタイプの人です。人に流されず、しっかり「自分」を持っている人は、簡単にルミンの言いなりにならないので標的にされやすいのです。
実はこの物語、筆者の実体験をベースに「自己愛性パーソナリティ障害」をテーマに描いたサスペンスなのだそう。そしてルミンの場合はサイコパスでもあります。ここで少し彼女がどんな人なのかをまとめてみました。
ココが怖いよ、ルミンさん!
①自分が偉くて、重要人物だと思っている
②自分が途方もない業績、影響力、権力、知能、美貌、そして完璧な恋愛を手に入れられる、という幻想を持っている
③自分が特別な存在であり、最も優れた人々とのみ、つき合うべきであると信じている
④いつも、他人の称賛を必要としている
⑤すべてが自分の功績だと思っている
⑥人間関係の中で、他者を利用することしか考えない
⑦他人に共感することができない
⑧他人に嫉妬することが多い。また他人が自分に嫉妬していると思い込んでいる
⑨傲慢、横柄である。(P172₋173)
以下は実際に被害者たちがルミンから受けた攻撃の内容です。
・無視される
・急に不機嫌になって、ご機嫌取りをさせられる
・他人が主役になると、ヘソを曲げる
・特別扱いを要求される
・感謝を要求される
・謝らない
・非を指摘すると「あなたが誤解している」と、こちらの非にすりかえてくる
・自分の非を他人に投影し、批判してくる
・自分への批判や反論は即「攻撃」とみなして、臨戦態勢になる
・勝つまで戦いを挑んでくる
・自分の思い通りにならない相手を責め、罪悪感を植えつけてくる
・頑固
はぁ。正直、何が彼女の逆鱗に触れるのかわからないので、これまで仲良くしていても、急に次の日から無視されたり、ブログに悪口を書かれたり、嘘をバラまかれたりします。本当は彼女が友達にマウントを取ったり、嫉妬したりしているのに、それをあたかも友達の方が自分にしていると思い込んだり、記憶を改ざんしたりします。
ルミンはもともと自尊心が小さく、とても繊細で傷つきやすい人です。そのため彼女は、無意識のうちに、自尊心が傷つきそうになると、自己防衛としてこのような奇妙な行動に出るのです。
自分が望まないアプローチはすべて攻撃と捉えるため、「ルミンさんは小説よりもエッセイが面白い」という一言にブチ切れたり、久しぶりに会った同級生から名刺を渡されて、その内容にコンプレックスを感じたら、マウントをとられたとヘソを曲げたりします。
そのたびに彼女は被害者になり、無実の誰かが加害者にされてしまうわけで・・もういい加減にしてくれ!!という感じ。自分を正当化するためなら他人を平気で傷つけ、記憶を改ざんし、さまざまな感情「謝れ」「称えろ」「感謝しろ」を要求してきます。
言ってみれば、”感情のタカリ屋”ですよ。そうやって人にタカらないと何もない、空っぽなやつなんですよ、あの悪魔は。(P200)
上手いこというなぁ。こんな生き方しかできないルミンは気の毒ですが、それ以上に彼女の自尊心を守るためだけに攻撃された被害者の方がもっと気の毒なので、同情はできません。冗談なしで深く関わっていると殺されます。精神がやられる人もいれば、命を落とした人もいるので、攻撃されたら逃げないとダメ。もはや本人よりも周囲の方が病んでしまう傾向にあるので、相手を刺激せずに距離を置くことで身を守るしかありません。
一方、ルミンの信者ですが、彼らは誰かに依存していないと生きていけない人たちです。しかし、この教祖よりもカリスマ性があり、ブームになっている人がいれば、あっさりそちらへ浮気するでしょうね。だからこの人たちから攻撃されてもあまり気にしなくていいのかも。しょせん親分から命令されて動く子分にすぎないので、こちらが一対一で容赦なく正論を振りかざせば、自分の言葉では絶対言い返せないでしょう。
物語は何も解決しないまま終わります。それはそうでしょうね。わかったのはルミンが自己愛性パーソナリティ障害ということだけで、それが治るわけではありません。ただ、それによって今後のルミンへの対処法がわかってくるので、周囲の人にとってはよかったのかもしれないし、読者にとっても勉強になったのかも?
友達のことも、自分のことも、傷つけない付き合い方を目指したいですね。
しかし、これは友達の話だったからまだいいものの、これがもし家族やパートナーの話だったら「距離を置いて終わり」とはいかないと思うのです。家族だったら解散できないし、パートナーだったら恋愛感情が邪魔してなかなか割り切れないものがありそうです。そう考えると辛いですね。
感情が満たされないルミンも、一生見えない何かに警戒して生きていかなければならないと思うと、しんどいですね。怖い怖い。
おそらく小さな自己愛は誰にでもあるでしょう。誰だって子供の頃は自己愛の塊だったと思います。自分はそうじゃない!ではなく、「自分にもそうなる可能性があるかもしれない」と注意することで、ルミンにはならずに済むのではないでしょうか。自分の中にも眠っている自己愛が爆発しないように「私も気をつけよう」と思える一冊でした。
今回レビューしたのはコチラの小説版になります
気になる方は読んでみてくださいね!
コミック版はコチラ
私はコミック版を読んでいないので何とも言えませんが、他の方のレビューを参考にするかぎり面白いそうです。
お好きな方を選んでみてください。
以上、『怖いトモダチ』のレビューでした!
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