今回ご紹介するのは、帯文に【閲覧注意】本書には完全犯罪の方法が書いてあります。と書かれた本格ミステリー小説になります。
これまで何冊もの大ヒット小説を生み出してきた編集者・立花のもとに届いた奇妙な原稿。そこに書かれていたのは、自身が完全犯罪の被害者として殺されるという衝撃の内容だった!
「命は惜しい。でも、続きを読まずにはいられない」一人の人間として恐怖心を抱きながらも、編集者としての圧倒的な好奇心が、立花を死のループへと誘う。
かつての天才ミステリー編集者は、謎の殺人鬼作家から命を守ることができるのか?
命をかけた究極の頭脳戦を描く本格ミステリー!(あらすじより)
ユーチューバーが書いた作品ということで、そこまで期待していなかったのですが、ふつうに面白かったです。
主人公は編集者の立花涼。彼はミステリー小説好きのサイコパスで、もはや物語上の殺人では満足ができず、リアルに殺される人間が見たくてたまらない衝動に駆られています。
そんな彼のもとにXと名乗る人物から奇妙な原稿が送られてきます。そこには”立花を完全犯罪で殺す”という声明文的な物語が書かれており、犯行を止めてほしければ推理しろというのです。
しかし、彼の周りは”犯人らしき人物”だらけで・・・・
犯人候補
本書の随所には違和感が散りばめられています。登場人物すべてが意味深な言動をし、犯人っぽく振る舞うようなところがあり、読者を混乱させてきます。
ここでアヤシイ人物をまとめると―
①西本ゆい 立花が若手の頃に担当した新人作家。しかし、デビュー目前で、大御所作家の新作と西本のデビュー作のプロットが丸被りしていることが判明。一方的に西本が盗用したことにされ、デビューが取り消しに。このとき立花は上司からクビを切られるか、西本を切るか迫られ、会社に残る選択をしたのです。
②大学生 立花が入社してすぐに相手をした小説家志望の男。立花はこの男の原稿を読み、「社内で検討する」と期待を持たせながらも、上司からNGをくらい、話をボツにしてしまった過去があります。
③小野寺優香 立花が教育係を担当する新人編集者。立花と一緒にXの正体を探る唯一の人物。
④小野寺母 優香の母親。なぜか「娘に内緒で」と会社まで手土産を持って挨拶に来きます。
⑤立花真由 立花の妻。現在は一人息子の子育てに奮闘中。行動にややあやしい点アリ。
⑥ミサ 美容系YouTuberで優香の友人。暗い過去を抱えており、やや危なっかしい面も。この度、エッセイ本を出版する(立花が担当)ことになっていますが、不祥事を起こして企画が一時中断となります。これは優香と組んだ立花への嫌がらせなのか?
と、こんな感じでザッと6人の犯人候補がいます。
サイコパスVSサイコパス
立花はXと「殺すか、殺されるか」のような状況になっていきます。しかしXの正体は早々に判明します。なんと向こうから「お会いできませんか?」と、連絡先を送ってきて、身分まで明かしてきます。
それが①~⑥人の中のひとりなのですが、ここから立花はXにゲームを仕掛けます。もし、彼が本当に自分を殺そうとしているならば、先に自分から仕掛けてやろうと。
そこからある男の回想シーンがちょこちょこ出てくるのですが、これが立花の過去なのか、Xの過去なのか、曖昧なまま進みます。ただ、どちらとも似たような生い立ちである場合も考えられます。確実に言えるのは、この回想シーンに出てくる男は紛れもなくサイコパスだということ。この男は過去に両親を殺し、友人を殺し、見知らぬ人を殺しています。
はじめ立花は自分が殺される前に相手を・・という感じでしたが、徐々に単なる殺人への好奇心と変わっていくまでに時間はかかりませんでした。
完全犯罪
結論から言うと、立花とXの対決は立花の勝利で幕を閉じます。筋金入りのサイコキラー立花には「完全犯罪で人を殺す」という願望があり、今回X相手に見事それを成し遂げたつもりでしたが・・・・
なんとXが死んだにも関わらず、やつから”つづき”の原稿が送られてくるのです。しかも、そこには事件当日の一部始終が書かれていました。
これはどういうこと?!と、なりますよね。Xは生きているのか?それとも他に真犯人がいたのか?
ここからラストにかけて困惑する読者がいると思うので、先に言っておきますね。まず、ここからが本当の謎解きです。この原稿の送り主は誰かを考えてみてください。これは冷静に考えれば絞れます。もちろんXは亡くなっています。そして次に難しいですが、なぜ真犯人は完全犯罪の内容を知ることができたのかも考えてみてください。
ちなみに立花はこの真犯人を当ててしまいます。そして素直に自首します。死刑にもなりません。ただ牢屋の中にはいます。なのに、それでは辻褄があわない仕掛けが本書には用意してあります。プロローグを読む限り、立花涼ではなく、立花涼介という人物が殺人事件に関与したのち、被害者になったのか、加害者になったのか、そのどちらとも言えない台詞が書かれているのです。この推理は直接読んだ方に委ねます。私なりの考察はありますが、ここで言っちゃったらつまらないので秘密ということで。
感想
謎を多く含んで終わる物語なので、しっくりこない方もいらっしゃるかと思います。
そもそも立花の目指す究極の殺人とは、「犯人が何もしない殺人」です。証拠を残さず相手を死へと誘導する殺人です。
これは謎解きのヒントになるかもしれないので、作中のキーポイントとなる文章を載せておきます。
とにかく親というのは、絶対に何があっても子どもの味方でいないといけないの。子どもの選んだ道よりも、自分が選んだ道のほうが正しいと思いこまないこと。自分が間違っているかもしれないと疑ってみること。子のためを思っているつもりが、実は自分のために言っていないかを見つめ直すこと。子育てがエゴの押し付けになってしまったら、終わりの始まりだから。(略)『子供をちゃんと育てよう』という思いが強すぎると、自分の思っているレール上をどうやって走らせるかにしか目が行かないし、そこから外れた瞬間に『私はこんなに頑張って来たのにこの子は・・・』なんて思ってしまって、大きなショックを受けるのね。(略)そんな”きれいな毒親”にならないようにしたいわね」(P246~247より一部抜粋)
これはつまり子どもを悪人にするかどうかは親次第と言っています。
もっとシンプルに言うと、子どもを悪人にするのは親。
さらに言ってしまえば、子どもを誘導できるのも親。
立花涼と、立花涼介。
この「名前」に注目しながら読んでみてください。
あっと驚く展開が待っています。『僕の殺人計画』とは『誰』の殺人計画なのでしょうね?
以上、『僕の殺人計画』のレビューでした!