『好きです、死んでください』
皆さんは、このタイトルからどんな物語を連想しますか?
ちなみに表紙はこんな感じです↓
私は何となく恋愛もの、しかもストーカーものをイメージしました。
しかし、実際はミステリ小説。しかもクローズド・サークル×密室×連続殺人があわさったバリバリのミステリです。
<あらすじ>
無人島のコテージに滞在する男女の恋模様を放送する、恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」の撮影が始まった。俳優、小説家、グラビアアイドルなど、様々な業種から集められた出演者は交流を深めていくが、撮影期間中に出演者である人気女優・松浦花火が死体となって見つかった。事件現場の部屋は密室状態で、本土と隔絶された島にいたのは出演者とスタッフをあわせて八人のみ。一体誰がどうやって殺したのか? そして彼女の死は、新たな惨劇を生み出して——。 恐るべき事件の〈真犯人〉は誰なのか? 衝撃のラストが待ち受ける孤島ミステリ!
恋愛リアリティーショー
舞台は無人島。そこで恋愛リアリティーショーを撮影するために集まったスタッフと出演者たちの間で殺人事件が発生します。登場人物を紹介すると以下のとおり。
小口栞(19)・・陰キャの小説家
松浦花火(20)・・注目の若手女優
桂圭太郎(21)・・イケメン俳優
我妻陽(20)・・バンドマン
青垣外サリー(18)・・ハーフモデル
恋塚うるる(23)・・アイドル
手鏡渚子(22)・・AD
灰村櫂介(36)・・カメラマン
木野天秤(51)・・プロデューサー兼ディレクター
この中で美男美女枠の花火と圭太郎はお茶の間人気を狙ったカップル(になることが望まれている)です。しかしそこへぶりっ子キャラのうるるがふたりの仲に割り込んでくる設定(ということにした方が本人的には目立てる)で、どの女子からも相手にされない栞は彼女から「花火狙いで行け」と協力を求められています。バンドマンの陽はモデルのサリーにぞっこん。こちらはテレビだから・・というよりは本気で恋をしている様子。しかし、嫌々番組に参加したサリーには全くその気がありません。
人気女優が殺された
出演者たちが芸能界で売れるため、必死にカメラを意識しながら恋愛ごっこ(それぞれのキャラ)を演じる中、ひとりだけほぼ一般人の栞は何もできずにいます。そんな栞になぜか視聴者から一番人気の花火は好意を寄せて来ますが・・
なんと花火は密室で何者かにナイフで背中を刺され殺害されます。
と、思ったら、実はこれはプロデューサーの木野が仕組んだドッキリ。普通の恋愛リアリティーショーをやるだけでは高視聴率は見込めないという理由で、今回は恋愛劇に推理劇を加えた設定でいこうと言うのです。つまり出演者と視聴者が一体になって、死んだ(ことになっている)花火を殺した犯人を推理しようという企画。もし犯人を当てられたら花火は再びもとの世界に舞い戻ることができるというトンデモ設定だったのです。
出演者たちは呆れつつも、木野の要求を受け入れ、探偵ごっこを始めます。もちろんカメラを意識しながら。しかし次の日、今度は本当に花火は殺されてしまいます。自殺に見せかけた他殺でした。それも密室で。
サイドストーリー
このあと撮影は一時休止し、外部へ緊急連絡を取ろうとしますが、犯人によって通信手段を奪われ島で孤立してしまいます。その間に殺人は続き、残された者は絶望の中を生きることになり・・・
一方、この物語ではサイドストーリー的なものが同時進行します。それはどこかの学校で、未来という名前の女子生徒が同じグループのリーダー格から目をつけられている話のようで・・。気の毒なことに、リーダーの好きな男子生徒が未来のことを気に入っており、嫉妬されているのです。この話が本編とどう繋がるのかはお楽しみに。すべてを知るとかなり驚きます。
ちなみにこの物語の犯人はすぐにわかります。犯人はわかるのに動機だけがずっとわからない。そんなミステリ。しかもその動機がわからないと花火が密室で殺されたトリックがわかりません。とにかく恋愛リアリティーショーがリアルすぎて現実か虚構か判別できなくならないようにしてください。えーっ!ここは番組の内容だとは思っていなかったー!!というシーンが出てくるので、ぜひ警戒して読んでみてくださいね。
感想
ちょっともったいないな~と思ったのは、やはりタイトルと内容のミスマッチさ。このタイトルだとミステリ好きからは恋愛小説だと思われてスルーされる可能性が高そうです。全体的には夕木春央さんの『十戒』と、荒木あかねさんの『ちぎれた鎖と光の切れ端』を合体させたようなお話という印象でした。しかし最後に明かされる真相の部分は、今までにない新しい小説の世界観を堪能できるので期待してください。
私は恋愛リアリティーショーなるものをあまり見たことがないのですが、あの手の番組に出演する若い子たちを見ていると単純に凄いなと思います。だって、まだハイティーンとかハタチそこそこなのに、みんな恋愛マスターすぎません?恐ろしすぎますよ。恋愛初心者です♡とか、恋愛経験ありません♡とか言いながら、みんな大人顔負けの駆け引きしてますよね。しかもカメラの前ですよ?それなのに結構出演した~い!という子が多いので衝撃を受けています。
実をいうと本書の後半には、テラスハウスの木村花さんを思い出すような事件が書かれています。まさにテレビの闇。もう完全にタイトルと表紙からは想像もできない内容と展開を前に、偏見はよくないと改めて実感しました。本書の存在は前から知ってはいましたが、見た目からの勝手な思い込みで遠ざけていて、書評サイトを見るまでミステリだと気づかなかったのが悔やまれます。レビューサイトを見ていると、同意見の方が多いので、これはミステリですよ~!!と、この場を利用してお伝えします。
クローズド・サークル×恋愛リアリティーショーという面白い組み合わせ。推理してもトリックは全然わかりませんが、犯人だけはわかってしまう不思議なミステリ。謎解きと意外性が好きな方にオススメです。
以上、『好きです、死んでください』のレビューでした!