今回ご紹介するのは、加納朋子さんの<駒子>シリーズ、20年ぶりの最新作になります。

 

20年ぶりの最新作とは凄いですよね。もうそんなに時間が空いたら「続きはないのかも」と諦めてしまいそうですが、あるんですね、こういうこと。ファンの方にとっては、とても嬉しいサプライズだったのではないでしょうか。

 

というのも、実は私、この<駒子>シリーズなるものを読んだことがありません。自分でも意外ですが、当時は読んでいなかったようです。

 

しかし、本書はそんな私みたいなヤツでも問題なく読める作品なのでご安心を。前書きによると、本書は『ななつのこ』から始まる<駒子>シリーズのストレートな続編ではないらしいです。もちろん、同じ世界の話ではありますが、まぁ独立した話として読んでもらってOKとのこと。実際に読んでみても話が通じないと感じた部分はなかったので、<駒子>シリーズ初心者の方にも楽しめると思います!

 

構成は以下のとおり

 

プロローグ

ゼロ

1(ONE)前編

1(ONE)中編

1(ONE)後編

エピローグ

 

それプラス最初と最後に<前書き>と<後書き>があります。それだけではありません、なんと可愛らしいワンコのポストカードつき!これは買うしかない!

 

見てください。表紙もこんなに愛らしい。

 

 

あぁ凛々しい犬♡キュンキュンします。この時点で気になる方はぜひ読んでみてくださいね。強くオススメします。

 

 

あらすじ

大学生の玲奈は、全てを忘れて打ち込めるようなことも、抜きんでて得意なことも、友達さえも持っていないことを寂しく思っていた。そんな折、仔犬を飼い始めたことで憂鬱な日常が一変する。ゼロと名付けた仔犬を溺愛するあまり、ゼロを主人公にした短編を小説投稿サイトにアップしたところ、読者から感想コメントが届く。玲奈はその読者とDMでやり取りするようになるが、同じ頃、玲奈の周りに不審人物が現れるようになり……。短大生の駒子が童話集『ななつのこ』と出会い、その作家との手紙のやり取りから始まった、謎に彩られた日々。作家と読者の繋がりから生まれた物語は、愛らしくも頼もしい犬が加わることで新たなステージを迎える。

 

 

 

 ゼロ

 

最初はワンの話ではなく、ゼロという犬の話になります。ゼロは飼い主の玲奈の大学入学祝いとして飼われたカフェオレ色の雑種で、頭に白い天使の輪っか模様がついています。それが数字の「0」に見えることから「ゼロ」と命名されました―

 

と、いいたいところですが、実は玲奈の名前にもレイ(0)がつくので、お揃いの意味もこめて「ゼロ」にしました。友達0人の玲奈にとって、自分と同じ「0」という数字を持つゼロは何だか特別な犬のような気がしたのです。

 

それに父も「ゼロは一と並び立つ、とても重要な数字だよ。ゼロという概念は偉大だ」と言っていたし。by玲奈

 

玲奈は昔からぽわ~んとしている女の子で、(それだけ家族から過保護に愛されてきた)そのせいかコミュ力もゼロ。高校時代は活発系の子から「気が利かないところがキライ」と裏で悪口を言われていました。そんな暗黒期の高校時代をぬけ、大学生になった今、玲奈は「もう友達を作らない」ことを決意。そのかわりに自分だけを見てくれる犬を飼うことにし、そこでやって来たのがゼロでした。

 

そのうち玲奈はゼロを愛するあまり、ゼロをモデルにした小説を書くようになります。しかし、ネットに短編をアップした頃から、あやしい男につきまとわれるようになり―

 

そこで活躍するのがゼロです。ただゼロはまだ仔犬なので世の中のことが全然わかりません。そこで先輩犬の「ワン」から玲奈を守るためのありとあらゆるレクチャーを受けながら、時にはパトロールし、時には威嚇し・・・とにかく頑張ります。

 

ゼロなりに警護しているつもりでしたが、ついに男は玲奈のバイト先にまで現れるようになります。しかもなぜか男は玲奈の個人情報を把握しており・・・

 

こ、これは、ストーカー!?

 

まだ幼くてワンのように上手く玲奈を守れないゼロ。せっかくワンが指導してくれたのに、このままでは立派な犬になれません。そんなことをしているうちに、男はどんどん玲奈の近くに忍びよって来て―

 

さて、この男は一体どういうつもりなのでしょう?というか誰?どうやらワンはすべてを知っているようですね。こいつ見覚えがあるぞというか、過去にやっつけたことがあるぞ的な。いや待てよ、そもそもワンはどこからゼロに指導しているの?なぜ助けてくれないの?近くにいるんじゃなかったの?続きはぜひ本書から。結末を知ると、ちょっと気持ち悪いけれどクスっと笑えます。

 

 

 

 ワン

 

ワンの話は前編・中編・後編にわかれています。まず前編は玲奈が生まれる前の話で、ワンもまだ存在していません。ここでは玲奈の兄・はやてが幼い頃にどうしても犬を飼いたかったエピソードが描かれています。

 

はやての父は転勤族だったため、なかなかペットを飼うというのは難しい環境でした。また、頻繁に引っ越しを繰り返すこともあって、はやてには友達がおらず、悶々とする日々を送っています。何度か母に「犬を飼いたいと」相談しても、なぜか「パンダを飼うには竹林が必要だから・・」と話が脱線してしまいます。

 

そんなある日、新しく住む家のお隣さんが犬を飼っていることを知り、はやては喜びます。しかし、その犬は外で飼われており、真夏の太陽がサンサンと輝く中、水もなく(バケツをひっくり返した)干からびた状態で死にかけていました。数日間、観察してわかったことは、お隣さんは犬飼さんといい、犬の名前はシロ、シロは吠えないように手術されており、飼い主からお世話をされていないということでした。

 

このままではシロが死んでしまう!と焦ったはやては母と相談したのち、犬飼さんにシロが死にかけていることを話すと、「あれは息子の犬だけど、今は親戚の家に行っているから日中世話をする人がいないんだ」と言われます。それからしばらくすると、親戚の家から息子(小学生のケン)が帰って来たのですが、彼はまったくシロをどう扱っていいのかわからない様子でした。

 

そこで、はやては母監修のもと、ケンと一緒にシロのお世話をすることにします。これでペットを飼える体験もできるしラッキーと思っていたのも束の間、実はシロの入手ルートがめちゃくちゃ複雑なことが判明し、犬飼一家にもめちゃくちゃ問題アリなことが発覚します。

 

 

 

 たいせつなもの

 

結局、犬飼家には犬を飼う資格はなく、というか子どもを育てる資格もなく??ケンは別れたお母さんのもとへ引き取られ、いなくなってしまいます。シロもケンちゃんの希望で犬飼家から解放してあげるのですが、その後仔犬を出産し、亡くなってしまいます。

 

その仔犬というのが「ワン」でして。いよいよタイトルとつながってきます。

 

ワンを引き取るまでの経緯は少々ハードなのでカット。さすがのペット禁止だった両親も「こればかりは仕方がない」と、はやてにワンを飼う許可を出します。それと同時に家には玲奈という妹が誕生し、大忙し。ワンは自分よりも成長が遅い玲奈のことを”自分よりもか弱き存在”とし、お世話してくれ、赤ちゃん返りするかと心配されていたはやての友人にもなってくれ、大活躍してくれます。

 

そんなワンのことを家族は精一杯愛します。はやても約束通りワンのお世話を頑張り、途中で投げ出すことはありませんでした。

 

ここでひとつ感動する場面があります。それは、ある事件をはやての母が起こしてしまうのですが、その事件のあと家族で話し合うときに素敵な会話を繰り広げるんですね。

 

 

 

「はやてが犬を・・・・ワンを飼いたいって言い出したとき、ちゃんと世話をするからって約束したでしょ?正直言って、お母さんはそれを、半分くらいしか信じてなかったの。生き物の世話をちゃんとするのは本当に大変で、可愛いばかりじゃなくって、言うこと聞いてくれなくて憎たらしくなることも、色々汚い物の始末もしなくちゃいけなくて、我慢することも面倒なこともいっぱいあって、だからすぐにイヤになって、そのうちお母さんに全部押し付けてくるんじゃないかしらって、ちょっと思ってた。だってそういう話はすごくよく聞くから。子供ばかりじゃなくって、大人だってそういう人はいっぱいいるもの(略)できないことや、続けられないことがあっても仕方がないって。でもはやてはすごく真面目に犬のことを勉強して、お世話もしつけもちゃんとして、すごく立派な飼い主になっている。お互いを思いやれる関係になっている。ワンからちゃんと認められて、すごく愛されている。ワンの一番になってる。それって最高にカッコいいことだと思う。」P187

 

しかしはやてはこれに対し、自分は家族にいっぱい犬のお世話を手伝ってもらったと言います。難しくて読めない犬の本まで読んでもらったと(なんて良い子なの!)。

 

母は言います。自分が真っ先にやるという気持ちが大事なこと。小さいからできないことがあって当然なこと。はやての手からこぼれたことがあれば、それをすくい取るのが父母の仕事だということ。

 

また、父はこう言います。「おまえは七歳の男の子が普通にやれる以上の努力をちゃんとしているし、きちんとその成果も出している。偉いぞ」と。この親子の会話は全動物を飼う親子に聞かせたい!と思いました。

 

 

 

 ワンの死

 

後編はワンの最期を描いています。涙、涙、涙。

 

老犬になり寝たきりになったワン。その横には小学生になった玲奈がいます。

 

そこに泥棒が入って来て、玲奈に襲いかかるのですが、今の今まで瀕死の床にいたはずのワンが立ち上がり、渾身の力で泥棒に噛みつきます。ワンのおかげで玲奈は助かり、急いで母や近所の人がかけつけに来たおかげで泥棒も逮捕されましたが、ワンはその夜に亡くなってしまいます。

 

もともと弱っていたところに力をふり絞り、さらに泥棒にお腹を蹴られたワン。

 

最後まで”保護者”として玲奈を守ったワン。

 

これは泣けます。

 

作中に老犬のワンが家の中で粗相をしてしまったことを恥じていたシーンがあるのですが、これは昔うちで飼っていた犬も同じで思い出し泣きしてしまいました。

 

まさかこんな読後感になるとは思いもしなかったのでやられた・・。完全にやられた。

 

物語自体は児童書っぽいのですが、こういう話に年齢は関係ありませんね。

 

次の日、今飼っている犬をめちゃくちゃシャンプーしてあげました(笑)

 

これからワンコを飼う予定の家庭にぜひオススメしたい一冊なのは間違いない。

 

ゼロとワン。どちらも大事な数字。偉大な数字。

 

そんな名前にふさわしい二匹の物語をみなさんも読んでみませんか?

 

 

以上、『1(ONE)』のレビューでした!