今回ご紹介するのは「耳」で推理する新感覚のミステリ短編集になります。

 

本書にはある仕掛けが組み込まれています。まず作中の様々なタイミングでQRコードが登場し、そこにアクセスすると専用YouTubeチャンネルにつながります。すると、小説には書かれていなかった驚愕の事実を「音声」を通して知ることになります。つまりすべての真相はQRコードの中、すなわち「音」の中にあるということです。

 

繰り返します。本書は小説を読むだけでは謎を解くことができません。必ず文+音声と一緒に推理してみてください。できればスピーカーではなく、イヤホンを使用して聴くことをオススメします。

 

 

 

 

 

きこえない

 

まず皆さんにお伝えしたいのは残念なお話です。本書は「音声」をもとに真相を解明していく物語となっていますが、その「音声」とやらが非常に聴こえにくくなっています。私の耳が悪いのだろうか?と思ったのですが、レビューを見る限り同意見の方が多かったので勘違いではなさそうです。

 

聴こえにくい要因として、話し声よりもBGMや効果音が大きすぎるというのがあります。また、会話が小声になる場面では、いくら音を大きくしてもよくわからないまま・・ということがありました。会話の内容がわからないとオチがわからないので、これが結構ストレス。正直QRコードが出てくるたびに億劫になっていました。

 

対策としては、必ずイヤホンやヘッドホンを使用して聴くこと。または、(これは最終手段ですが)ネタバレサイトで答え合わせをすることです。ネタバレサイトは基本NGですが、こればかりは「きこえない」ので仕方がない・・といった感じでした。

 

 

 

きこえても・・

 

さらに音声が聴き取れても「これで推理あってる?」と不安になる話もあります。ここで確認したいけれど、それをしたらネタバレになるのが悩めるところ。特に第二話の「にんげん玉」と第三話の「セミ」は文章と音声を繰り返してようやくわかった方が多いのでは?

 

気をつけてほしいのは最終話。先ほどQRコードにアクセスすると専用YouTubeチャンネルにつながるといいましたが、そこでは音声がメインのため画面はずっと静止画になっています。私は「音」に集中するためスマホに耳を近づけたり、該当するページを読みながら聴いたりしていたのですが、なんと最終話だけ動画がヒントになっています。正確にいうと、最終話もはじめは静止画なんです。ずっと音声がメインになっています。しかし視聴時間の終わり近くになると、急に動画に切り替わります。

 

私は最初これに気づかず、画面スルーで「音」だけを聴いていたため、サッパリ状況をのみ込めていませんでした。あれ?何度聴いてもオチになるような会話がないぞ?と。しかし何度か挑戦しているうちに最後が「動画」になっていることに気づき、衝撃を受けました。すべて読み終えた頃には集中力から解き放たれて謎の疲労感が・・。本とスマホを行ったり来たりの忙しい一冊でした。

 

 

 

おもしろい

 

ただし、物語自体はどれも超おもしろいです!全話をサクっと紹介すると・・

 

突然死んでしまったシンガーソングライターが残した「デモテープ」。家庭に問題を抱える少女の家の「生活音」。言えない過去を抱えた二人の男の「秘密の会話」。夫婦仲に悩む女性が親友に託した「最後の証拠」。古い納屋から見つかったレコーダーに残されていた「カセットテープ」。(あらすじより)

 

第一話の「きこえる」は、何者かに殺害されてしまったシンガーソングライターが残したデモテープから謎の声が聴こえるという話です。もちろんQRコードに入っているのはその音源。よーく聞くと犯人の正体が明かにされています。

 

第二話の「にんげん玉」では、過去の犯罪事件に関わった二人の男の「秘密の会話」がQRコードに記録されています。これも会話の内容を知ることによって、事件の真相が明らかになるかたちになっています。

 

第三話の「セミ」は泣ける話。両親を亡くし田舎の祖父母に引き取られることになった少年と、そんな彼を励ます友人との切ない絆が描かれています。これはオチを知ると涙なしではいられません。片方の少年が家で流していたカセットテープの内容を、もう片方の少年が外で聴いていて、それが現在その家でされている会話だと勘違いして大変なことになるのです。感動的ですが、この話の推理がいちばん難解になっていると思います。

 

第四話の「ハリガネムシ」はゾッとする話。ここでは義理の父に不満を抱える少女に、こっそり盗聴器をしかけた塾講師が登場します。ふつうに考えてこれは犯罪ですが、盗聴から明かにされた少女の生活環境が酷すぎて・・・。さっさと救ってやれよ!と思うのですが、機転が働かず何もできないポンコツ講師。しかし最後に音声を聴くと衝撃の事実が!ただ、この話だけは私にもオチが読めました。やっぱりね。

 

最終話の「死者の耳」は、DV夫と離婚するため、親友にその証拠としてスマホを通してICレコーダーに会話や音を録音してもらおうとした女性が登場します。QRコードに記録されているのは、その女性と親友の会話。今から家に行くよ?という段階から録音されているのですが、このあと大変なことになってしまいます。

 

 

 

感想

 

簡単なあらすじは以上です。

 

新しい読書方法を色々と模索している筆者の「体験型ミステリ」。よくこんなことを思いつくなぁとひたすら尊敬しつつも、私は文章だけに浸りたいと改めて実感する一冊でもありました。

 

個人的に好きなのは「セミ」ですね。筆者はよくあんなに小学生の頃の気持ちを覚えていられるよなぁ、きっとかけがえのない誰かの気持ちをずっと大切にしてきたんだろうなぁとか。そんなことをつい考えてしまう物語になっています。

 

ゾッとする系でいえば「ハリガネムシ」かな。義理の父が殺してやりたいくらい気持ち悪くて、そんな男を娘のそばに置いておく母親にもイラっときます。こちらのゾッとするの意味は”気持ち悪い”ですが、同じゾッとするでも”怖い”という意味では「きこえる」をオススメします。

 

音声を正確に聴き取らないとオチが読めないのは「にんげん玉」です。頑張って聴き取ってみてください。

 

全体的に心霊系かと思いきや、そういうのは第一話だけなのでご心配なく!むしろそっちを期待した方はごめんなさい。でも面白さは抜群なので安心してくださいね。

 

聴き取り+推理+手間が大変な一冊ですが、話自体は短いので集中できる時間を見つけて読んでみてください。新しい取り組みが好きな方もぜひ!

 

 

以上、『きこえる』のレビューでした!