今回ご紹介するのは、2023年に超話題になった災害救助ミステリーになります。

 

巨大地震で地下に置き去りになった「見えない、聞こえない、話せない」女性をどう救出するか。しかも中は火災と浸水で救助隊の進行は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も経たれてしまう状況です。

 

そこで投入されたのが災害救助用のドローン。ドローンビジネスを手掛けるベンチャー企業「タラリア」から、一番の操縦技術を持つ高木春生が派遣され、救出にあたります。

 

しかし、そこで彼を待ち受けていたのは、無謀ともいえる試練ばかりでした。

 

 

 

 

 スマートシティを襲った大地震

 

話の流れはこうです。まず、障がい者支援都市「WANOKUNI」で巨大地震が発生します。「WANOKUNI」は最新のIT技術を集めた実験都市で、個人の住宅や教育施設は地上に、商業施設やオフィス、インフラ設備の大半は地下に建設されています。実はこの地下都市構想にあたっては、活断層の問題で一度プロジェクトは頓挫していたのですが、重い障がいを抱えた姪を持つ元国会議員の一言により、急ピッチで進められたという噂があります。

 

地震はちょうど「WANOKUNI」のオープニングセレモニーで大勢の関係者が集まっているときに起きました。幸いその日は、式典があったことから、普段地下にいる人々も地上に来ていたことから全員の安全が確保されていた・・・はずでした。

 

そんな矢先、春生に緊急要請が入ります。なんと地下5層の駅で、女性がひとり取り残されているというのです。しかし、地下1、2層はでは火災が発生し、5層では既に床下浸水が始まっているらしく、速やかに女性を地下3層にあるシェルターへ誘導する必要があるとのこと。現場は瓦礫で荒れ果て、ろくな通り道がないことから、救助には困難を極めることが予想されています。

 

また、現在女性がケガをしているのか、生きているのかさえ、わからない状況であり、まずは要救助者の発見から行わなければならず―。さっそく春生は自社の最新技術を搭載した「アリアドネ」というドローンで救助にあたりますが、要救助者が「見えない、聞こえない、話せない」の障がいを持つ元国会議員の姪・中川博美であることを知り、不安になります。

 

 

 

 困難な救出

 

これには私自身も「どうやって救助するの?」と心配しながら読んでいました。仮に中川さんを発見できたとしても、救助に来たことをどうやって彼女に知らせればいいのか。他にもどのようにして5層から3層のシェルターまで誘導すればいいのかなど不安なことはたくさんあります。

 

救助ドローンの存在については、中川さんの介助者である伝田さんが普段使用している香水と同じものを中川さんにふりかけることで気づいてもらうことに成功します。問題はここから。すでに浸水と火災により四方八方から攻められている状況で、春生は中川さんを4層まで連れて行く必要があります。しかしその間に余震が起きたり、ドローンのバッテリーが切れたりと、なかなかスムーズにはいきません。

 

ようやく4層に到着しても、今度は漏電の心配があったり、急に中川さんの動きが鈍くなったり、その原因がわからなかったりで現場は混乱します。ついにはドローンのカメラまでもが壊れ、絶体絶命の状況に。それでも「無理だと思ったらそこが限界だ」と自分に言い聞かせ、春生はなんとか機転を働かせながら中川さんを誘導していきます。

 

 

 

 疑惑

 

目的地の3層に到着し、あとはシェルターに向かうだけ!となった時に、さらなる事態が彼らを襲います。詳細は伏せますが、「こんなのは目が見えないと無理だ!」と思うような場面になっています。しかし、このままでは死んでしまうという大ピンチの瞬間、目が見えないはずの中川さんがまるですべてを把握しているかのように、機敏な動きで困難を切り抜け、春生を含めた救助関係者たちはざわつきます。

 

「彼女は本当は目が見えているのではないか」

 

これには介助者の伝田さんが猛反論しますが、実はこれまでの動きの中で中川さんには不審な点がいくつかあり、周囲は障がいが嘘ではないかと疑い出すようになります。

 

そうこうしているうちに、さらなるピンチが中川さんを襲います。シェルターまであと少しのところで、今度の今度こそ「もう無理かもしれない」事件が発生するのです。

 

これまで「諦めたら終わりだ」精神で頑張ってきた春生ですが、今度ばかりは限界を感じ―

 

しかしこのピンチこそが春生の生き方までも変えるチャンスだということに、このとき彼はまだ気づいていませんでした。

 

 

 

 感想

 

いやぁ~、噂では聞いていましたがとても面白かったです!春生の口癖「無理だと思ったらそこが限界だ」は、彼の亡きお兄さんが遺してくれた言葉なんですが、彼はこの意味をずっと「諦めたら終わりだ」というふうに捉えています。春生はそのせいで無理なことでも限界だと認めず、そのままのやり方で貫こうとする頑固な面があるのですが、いざという時その考えでは八方塞がりになってしまいます。本書は、そんな兄の言葉にとらわれた春生の成長譚のようにもなっているので、色んな読み方ができて、オススメです。

 

しかし、現在のドローン技術は凄いですね。ドローンの操縦が難しいらしいことは知っていましたが、ただの荷物を運ぶだけの機械ではないことにもの凄く感動します。

 

本書ではここには書いていないあるサプライズがあります。正確にはどんでん返しというやつかな?ただ、これに関しては多くの読者が「おそらくこうなんだろうなぁ」と展開が読めるものだと思うので、そんなに驚きはないかもしれません。なんとなく映像化されそうな予感アリ。

 

物語のほとんどがドローン操縦場面なので読みづらい?と思われるかもしれませんが、地下のマップまで載っていて(別になくてもいいほど想像しやすい文章です)、最後まで脱出への臨場感を煽ってくれる一冊なのでなんの心配もいりません。むしろ筆者もあえてわかりやすく、読みやすく、加減して書いてくれていると思います。もっと筆者の知識MAXで遠慮なくいってもらってもいいくらいでした。

 

(二度目ですが)あ~、面白かった!もう一気読みでしたよ。

 

夕木春央さんの『方舟』が好きな方には、『アリアドネの声』もオススメしておきます。

 

近い将来、ドローンはもっと活躍してくれるのでしょうね。未読の方はぜひ手に取ってみてください。

 

 

以上、『アリアドネの声』のレビューでした!