今回ご紹介するのは背筋さんの『近畿地方のある場所について』です。今話題のモキュメンタリ―ホラー。途中まで「え?何これ実話?やばくない?」と思うほど怖かったです。

 

しかもこれが筆者のデビュー作だなんて・・二重の意味で怖ろしい。

 

おそらく三津田信三さんや芦沢央さんのファンなら気に入る本だと思います。

 

 

 

 

あらすじはこんな感じ。

 

まずちょっとした背筋さんの自己紹介が入ります。背筋さんは東京でライターをしており、主にオカルト雑誌を手掛けています。物語はそんな背筋さんのライター仲間である友人・小沢くんが消息を絶ったところから始まります。

 

小沢くんは少し前からオカルト雑誌の編集を担当していましたが、出版社不況で予算がないため、バックナンバーから流用して記事を作ろうとしていました。するとその過程で小沢くんはあることに気づきます。それは過去にいくつも近畿地方のある場所で似たような心霊現象がよせられていたことでした。

 

小沢くんが言うには、近畿地方の山に囲まれた一帯にある、トンネル、ダム、廃墟の心霊スポットに違和感があるそうで・・。たとえば「実録!奈良県行方不明少女に新事実か?」という記事や、「林間学校集団ヒステリー事件の真相」、「おかしな書き込み」というそれぞれ掲載された年代の違う記事に同じ地名が出てくるのです。それが近畿地方のある場所。本書では〇〇〇という表記になっていますが、小沢くんは一連の事件とこの場所には何か深い関連性があるのではないかと睨みます。

 

そこで他にも類似する事件はないかと調査する小沢くんですが、残念ながら彼は現地へ取材に行ったきり帰らぬ人となってしまいます。

 

この事態に困惑した背筋さんは読者に情報提供を呼びかけます。小沢くんが発見した過去の未解決事件と〇〇〇との関係性を公開することで、それについて何か知っている人がいたら教えてほしい。つまり本書は、小沢くんの勤務先の出版社から刊行された雑誌や様々な媒体・メディアから引用、抜粋したものを『近畿地方のある場所について』というタイトルの作品としてまとめたものになります。

 

 

 

怖すぎるバックナンバー

 

本書には小沢くんが発見したいくつもの怖すぎる記事が載っています。

 

トップバッターはアダルト動画サイトの不可解な書き込みについてです。本来この手のサイトのコメント欄には誰も書き込みをしないそうなんですが、投稿者のAさんによると、ある日いつものようにサイトへアクセスすると新着動画に誰かが「かわいい。うちへきませんか」と女優相手に書き込みしていたのを発見したのだとか。普通に考えて女優がその書き込みを目にするはずがないので、そのユーザーはネットの使い方をわかっていないおじいさんなのかなぁと思ったそうですが、その女優の二作目の動画がアップされると、再び同じ人物から「うちへきませんか。かきもありますよ」という書き込みがあったそうです。

 

この時点でキモイのですが、その後同じ女優の動画がアップされるたびに「お山にきませんか。かきもあります」という意味不明なコメントがつくようになり・・。そんな日々が続いたある日、つい出来心でAさんはそのコメント欄に「いつもコメントありがとうございます!〇〇(出演女優の名前)です。おうちはどこなんですか?」と書き込んでしまいます。しかし、Aさんはその書き込みからしばらくサイトを見る機会がなく、それどころか書き込みをしたことすら忘れていました。

 

次にサイトを見たとき、Aさんは驚きます。なんとコメント欄には「なぜこない。まって居るずっと」という怒りの書き込みがあったのです。しかも前回自分がしたコメントへの返信にはその人物が住所を書き込んでいたことを知り、気味が悪くなります。恐怖を感じながらも地図アプリで住所を検索してみると、そこは近畿地方の山にある神社でした。本殿は荒れ、廃墟になっていたそうです。

 

ちなみに最後にコメント欄を確認したところ、同人物から「こしいれせよ」という書き込みがあったとか。

 

このようなエピソードがバックナンバーにはたくさんあるのです。

 

 

 

袋とじまでホラー

 

他にも「実録!奈良県行方不明少女に新事実か?」という記事では、奈良で行方不明になった当時8歳のKちゃんが自宅から遠く離れた〇〇〇のあたりで目撃されるという話が載っています。不可解なのは深夜にランドセルをかついで山の方を眺めながらニヤニヤしているという情報があり、警察に通報する人がたくさんいてもなぜかKちゃんは逃げて行ってしまうのだとか。しかもその際「Kはね、お嫁さんになったの」とも話すらしく・・。

 

実はこの事件、手掛かりなしということで、某テレビ番組で霊能者から協力してもらった過去がありました。そのときの霊視結果は、Kちゃんは近畿地方の〇〇〇におり、すでに亡くなっているというものでした。ちなみに本書巻末についている取材資料(袋とじ)にはこのKちゃんの捜索ポスターが載っています(怖すぎ)。

 

また、「林間学校集団ヒステリー事件の真相」という記事では、近畿地方の〇〇〇という場所にある保養所に林間学校でやって来た中学生たちが奇妙な現象に遭っていることがわかります。

 

それは夜ベランダに出ていたが生徒たちが、向かい側の山から男の声で「おーい」と呼ばれている気がすると言い出したことがきっかけでした。最初は笑っていた生徒たちですが、その声がどんどん近づいてくると怖がり、パニックになります。そこで学級委員をしていた女子が「どうかしましたか」と声をかけると、「おいでーこっちにおいでーかきがあるよー」という返事が。再度女子がどういう意味ですか?」と聞き返すと、「おいでーこっちにおいでーかきがあるよー」と何度も繰り返す声がします。ここで他の誰かが「いやー」と叫んだのを合図に半狂乱になった子どもたちは集団ヒステリーを起こし、後日新聞の記事になったそうです。

 

いやいや、また「あのかき男か!」って感じがしますよね。なぜにかき?という気がしますが、これの意味がわかるまではずっと怖いです。

 

 

 

謎の女と少年

 

実はバックナンバーをたどると〇〇〇に関する怪奇現象は、かき男だけでなく、謎の女と少年バージョンもあることがわかります。一体何なんだよ!という感じですよね。ですが、この三人は上手いこと繋がっています。終盤に入るまでこの謎の正体はずっとわからず、もしかしたら「わからない」で終わるパターンかもしれないと覚悟してたのですが、この本は違いました。すべてスッキリしますのでご安心を。

 

で、謎の女バージョンは何が怖いのかというと・・

 

この女、赤いコートを着て万歳しながらジャンプしているんですよ。もう意味不明で怖すぎるでしょ。一番怖かったのは、この女に”見つかってしまった”大学生が友人宅に泊まり、自宅を留守にしているときに、向かい側のマンションの住人から「大学生の家のベランダにジャンプをした女の人がずっといる」と警察に通報されたことです。その住人は一晩中その女が外に出されているのでDVにでも遭っているかと思い通報したとのこと。しかし警察が来たときにはその姿はなく・・。

 

しかも後でなぜその女が万歳をしながらジャンプしているのか真相が判明するのですが、それがまた怖いんですよ。勘弁してほしい。また、別の記事ではかつてその女が住んでいた家と思われる廃墟に潜入したネット民のレポがあったり、その女の子供と思われる少年の幽霊を見たレポがあったりと恐怖のオンパレード。

 

それに加えて「かき男」の記事が出てくるので、読者はずっとドキドキしながら読み進めることになります。

 

 

 

感想

 

どの記事もいちいちリアルすぎて怖いです。そこにちゃんと理由が説明されているので真実を知ったとき余計に怖くなります。

 

個人的にはやはり「かき男」が気持ち悪かったですね。だってどう見てもこの男、女性にもの凄く執着しているんですよ。何も知らずに〇〇〇にやってきてしまった女性たちに「おいでー、かきもあるよー」って。彼氏と〇〇〇に遊びに来た女性が山道で男と車ですれ違った時のシーンなんて気持ち悪くて・・。すれ違いざまずっと女性の方をじーっと見つめているんですよ。怖すぎます。

 

〇〇〇に親子でキャンプに来た女性が山から視線を感じると言った話もゾッとしました。またアイツか!と。これは最終的に女性のお子さんが展望台にあった望遠鏡で山を眺めていたら「かき男」を見つけてしまうという超絶ホラー。もう勘弁して~。泣きじゃくる子どもに焦った父親が望遠鏡をのぞくと全身真っ白の男がこちらを指差しているという、ね。もう狙われてますよ。

 

終始こんな感じで背筋がゾクリとしますが、面白いのも事実。既に自作が楽しみなレベルです。取材記録が主体となった本なので読みやすく、怖さがずっと安定して続くところもGOOD。近畿地方にお住まいの方なら、なお一層ドキドキできて楽しめるかもしれません。

 

いやー、久しぶりに面白いと思えるホラーに出合いました。ぜひモキュメンタリ―ホラーが好きな人は読んでみてくださいね。ちょっと90年代的な懐かしさもあり、今風の怖さもある良本です。他にもたくさん怖い記事が載っているので冷や汗垂らして読んでみてくださいね。

 

 

以上、『近畿地方のある場所について』のレビューでした!

 

 

※ちなみに私はこの本を読んでいるとき何度も強い眠気におそわれました