今回は滋賀県が舞台になっている小説をご紹介します。
※もちろん滋賀県民以外も楽しめますのでご安心を
中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。さらにはM-1に挑み、実験のため坊主頭にし、二百歳まで生きると堂々宣言。今日も全力で我が道を突き進む成瀬から、誰もが目を離せない! 話題沸騰、圧巻のデビュー作。 (あらすじより)
成瀬あかりは郷土愛強めの中学生(途中で高校生にもなります)で、勉強もスポーツも何でも出来るパーフェクトガール。何をやっても抜きんでてしまうため、女子たちから疎まれ孤立しています。しかし、本人はどんなことを言われようがされようが無問題、我が道を貫きます。
成瀬伝説を少し紹介すると、唯一の幼馴染・島崎を誘ってМ‐1グランプリに出場したり、高校の入学式に坊主で現れたり、地元からやたらと表彰されまくったり・・などがあります。
本書は全6話の短編集となっており、それぞれの語り手が成瀬の同級生や、知人、または成瀬本人だったりします。成瀬は誰から見てもイカれた不思議少女ですが、本人が語り手となった章を見ると、意外にも繊細で誰よりも感情的であることがわかります。
成瀬は思い立ったら即実行が人生のモットーであり、常に叶う叶わない関係なしにたくさんの目標を掲げています。もちろん、それらすべてを達成できるわけではないので、島崎からは「ホラ吹き」と突っ込まれるのですが、成瀬は「その中でひとつでも叶ったらラッキー」くらいに思っています。
そんな成瀬の目標のひとつに「200歳まで生きる」というオイオイそれ本気で言っているの?というものがあります。しかし成瀬はこれを本気で、真顔で、堂々と周囲に宣言しています。かつては100歳まで生きるのも無理と言われながら、人類はそれを覆したため200歳もイケる!というのが成瀬論とのこと。そのため成瀬は毎日健康のため体力づくりに励み、長生きへとまっしぐらな生活を送っています。
そんな本書のメインといったら、やはり第一話の「ありがとう西武大津店」でしょう。成瀬はまもなく閉店となる西武大津店に感謝の気持ちを伝えるため、閉店まで毎日通い、ローカルテレビの中継に移り込むという計画を立てます。その際、成瀬は目立つように西武ライオンズのユニフォームを着て、お店のカウントダウン表示の前でドーンと構えて立つことにしていましたが、テレビスタッフからはあやしすぎて見事にスルー。映り込みには成功しますが、最後までインタビューされることはありませんでした。
しかし、毎日中継に移り込む成瀬の姿は視聴者からプチ有名人として認識され出します。いつの間にか子供のファンがついたり、地元の新聞に載ったり、まずまずの成果を上げることに。学校では相変わらずの変わり者でしたが、成瀬の他人を気にせず自分の好きを貫く姿勢は読者の目にもきっと眩しく映るはずです。
また、そんな成瀬を長年そばで見守っている島崎に注目するのも忘れずに。島崎は”成瀬あかり史”を見届けるのが目標で、他の女子が成瀬を毛嫌いする中、いつも成瀬が何かをやるときは”一緒”に参加します(しかし高校編では学力の問題でバラバラになってしまいますが)。
島崎自身は普通の子で、普通の女子グループに所属していますが、成瀬のこととなると所属など関係なしに彼女に付き添いたくなるというか、放っておけなくなってしまうようで、一緒に漫才をやったり、地元のお祭りで司会をしたり、何かと”ふたり”で伝説を作ってしまいます。
不思議なことに、成瀬には一定数のコアなファンがいます。私はそのひとりに島崎がいると思っているのですが、他校の男子生徒も成瀬Loveになるし、西武大津店の中継で成瀬のファンになった中年男性もいたし、好きな人にはとにかく好き!と思わせるのが成瀬なのです。
成瀬は自分のことを嫌っている人であっても、その人が困っていればさり気なく(独特な方法で)心配してくれるし、嫌味をハッキリ言われても、「自分にハッキリ言ってくれる人はあなたしかいないから」とアドバイスを求めてきたり、調子を狂わせても来ます。だけれど、そこが憎めない。というか好き。ああ、この人も成瀬のファンになるのは時間の問題だろうなぁと思うのです。
本書にはローカルネタが満載で、滋賀県民なら無条件で楽しめる一冊になっています。
私は滋賀県民ではありませんが、おそらく大津市膳所駅周辺が舞台になっており、西武大津店、琵琶湖、Oh!Me、ミシガン、びわこ放送、平和堂、西川貴教など、たくさんの滋賀ワードが登場するので、県民は必見です。そうでない人も成瀬を見ていると「自分の好きに生きよう」と背中を押してくれる本なので読む価値あり。興味のある人はぜひ手に取ってみてくださいね。
以上、『成瀬は天下を取りにいく』のレビューでした!