今回は大人も子供も両方が楽しめる本をご紹介します。

 

題材は、林真理子さんの『私のスポットライト』

 

本書は児童書版と一般書版が二冊同時刊行されており、私が読んだのはコチラの一般書版になります。

 

 

 

 

 

ちなみに児童書版の表紙はこんな感じ。コチラは中身も可愛い挿し絵が多数で、少し雰囲気が違います。

 

 

 

 

そして文庫版がコチラ。

 

 

 

一般書版と児童書版の違いですが、一般書版には児童書版にはない親目線の章が収録されているとのことです。私は一般書版しか読んでいないのですが、かなり読みやすい本なので、最初からコチラを選んでもハードルは高くないと思います。

 

 

 

 二軍の主役

 

主人公の平田彩希はクラス内カーストの二軍に属する中学生。彩希は「目立つグループではないけれど、”ぼっち”でもない平和なポジション」を得ていることに満足していました。

 

しかし、一軍の間で内部分裂が発足したことがきっかけで、彩希はとんでもないことに巻き込まれてしまいます。それは学園祭で予定していた劇の主役を本来やるはずだった一軍女子の代わりに、彩希がやらせられるということでした。

 

彼女たちの企みはこうです。この劇を仕切っているのは自分たちですが、脚本担当の由紀とリーダーの莉子が揉めたため、他の女子はみんな(より権力がある方の)莉子に味方してしまった。しかしここで新たな主役を三軍女子にお願いするとなると、役柄が”いじめられっ子”というのもあり、リアルすぎてシャレにならない。それなら人畜無害の二軍キャラである彩希あたりに任せれば”ちょうどいい”のではないか。

 

こんな経緯があり、彩希は無理やり主役に抜擢されてしまったのですが、女子の事情を全く知らない能天気男子たちが張り切って準備してくれたおかげで、何とか劇は大成功します。

 

 

 

 演劇が好き!

 

彩希の演技は好評で、本番では多くの生徒から「素晴らしかった」と拍手をもらいます。すっかり演劇の虜になってしまった彩希は、学園祭が終わった後もしばらく、あの日のスポットライトを忘れることができません。

 

そんなとき、イトコの美冬が大手芸能プロダクションからスカウトされ、デビューすることを母親から聞いた彩希は、「やっぱり女優を目指すには可愛い子じゃなければ無理なんだ」「学園祭でのことはまぐれだったんだ」とショックを受けます。しかし、それでもなかなか夢を諦めきれなかった彩希は、色々と芸能のことを調べているうちに「劇団」というものに出会います。すると、劇団は芸能プロダクションとは違い、メディアに出ることだけが目的ではなく、演技を通して成長していくことを教育の一貫としていることを知ります。

 

ここなら地味な自分でも演劇をしてもいいのかもしれない!そう思った彩希は両親を説得し、劇団に入会します。

 

 

 

 狭い世界で

 

劇団に通うようになってから、彩希の世界は一転します。同じ夢を追う仲間、日に日に上達していく演技力、とにかく充実していることを実感できる自信。演じることが楽しくてしかたがない彩希は、どんどんこの世界にのめり込んでいくのですが、その姿をクラスメイトたちはよく思いません。

 

「学園祭で主役になったくらいで調子に乗っている」「地味なのに劇団なんて勘違いしている」

 

内部分裂したときは彩希を利用した一軍女子でしたが、彩希が劇団員になったことを知ると、今度は手のひら返しで攻撃してくるようになったのです。

 

クラスメイトからの誹謗中傷に辛くなった彩希は徐々に劇団へ足が遠のいていき・・・

 

だったのですが、そんなタイミングで彩希にある大きな仕事が舞い込んできます。

 

 

 

 成長

 

なんと彩希は映画に出ることになったのです。色々悩んでいた彩希ですが、父親から「頑張るコは目立つ。でもそれでいいんだ。頑張ることを馬鹿にする奴らを、彩希は笑ってやれ」と励まされ、もう一度夢を追うことを決心します。

 

現場ではひとつの作品をみんなで作り上げる楽しさを知り、ますます演じることにハマっていった彩希ですが、ここで芸能界の厳しさを知ることにもなります。詳細はネタバレになるので書きませんが、ここから先はCMでブレイクした美冬が本格的に加わり、物語が大きく展開していくことに。

 

正直、後半は”ありえない”ことの連続ですが、そこはまぁ小説ということでわりきって読めばOK。本書が一番伝えたいのは、「学校以外の世界を持っているコは強い」ということでした。

 

 

学校でいちばん強いのは、かわいいコや頭のいいコじゃない。「一軍」のコでもない。学校以外の世界を持っているコなんだ。自分だけのスポットライトを浴びるコなんだ。P187

 

 

何も持っていないクラスメイトは「一軍」という居場所をよりどころにしていたのでしょう。夢や目標を持っているコが羨ましくて、でも自分は嫉妬なんかしてないし何も持っていない人間なんかじゃないと周囲にしらしめたい。要するに格下の彩希が、格上である自分たちの存在を脅かしたことが怖くて仕方なかったのです。

 

彩希は自身が「こんなくだらないことに付き合わされていただけだったんだ」と、演劇を通して気づいた瞬間、すべての悩みがどうでもよくなりました。

 

 

 

 感想

 

中学生で彩希のように学校の世界以外を見つけられるコは稀ですし、凄いと思います。でも、これこそが「ふつう」のコが「ふつう」でも堂々としていられる理由なんですよね。

 

彩希には同い年で美人のイトコがいることも、より自分の「ふつう」さを際立たせるポイントになっており、コンプレックスを抱く原因となっていました。

 

確かに同じ芸能の世界にいる美冬は彩希とは違い、スターダムに駆け上がるスピードがはやく、比較すらしてはいけないような存在です。美人は強い・・・同じ作品に出てもどうしても華やかな方が目立つし、人気が出てしまう。そういう子には大人たちがお金を出し、どんどん大きな仕事が舞い込みます。

 

しかし、学生時代に演劇をかじっていた彩希の父親は「可愛いコや運のいいコに負けるな。先に目立つのはそういうコだけれども、残るのは頑張るコの方だ」と助言します。

 

ここで面白いのは父親がいつも娘を全力で肯定し、応援してくれるのに対し、母親はそれとは正反対の厳しい対応を取ることです。そんな母親について娘は「無神経」「理解がない」と思っているのですが、母親はそれらをすべてわかった上で行動しています。

 

目立つことを嫌うな、他の子と違っていることを嫌うな、そうならないように身をかがめるな。

 

親にとって子供の卑屈さを見ることほど辛いことはない。これからも小さなことにはガミガミ口出しはするけれど、娘が歩み出した道には水はささない。成長するにはまだたっぷり時間はあるのだから。

 

そう母親は考えているようです。

 

クラス内で浮いている子も、大人しい子も、自分の世界観を持っていればそれだけで最強です。今は花開いたように見えないかもしれませんが、将来的に人生を楽しめるのは「自分だけのスポットライト」を見つけている子だと思います。

 

もし学校内での立ち位置に悩んでいる子がいたら、彩希を見て何かヒントを得てみてください。

 

やりたいと思ったことは、恥ずかしがらずためらわず、とにかく一度トライしてみた方がいいかもしれませんね。きっと好きなことに夢中になるということは、あなたの世界を広げてくれます。

 

以上、『私のスポットライト』のレビューでした!