森絵都さん、3年7ヶ月ぶりの新作『獣の夜』を読みました!

 

今回は全7編収録の短編集。たった数ページほどの短いお話もあれば、長いお話もあって飽きずに読めちゃいます。

 

 

<書籍紹介>

「雨の中で踊る」リフレッシュ休暇の最終日、永井はふと海を目指す。

「Dahlia」“ATTACK”後、変わり果てた日本で生きる私の見つめる先。

「太陽」原因不明の歯痛に悩む加原は不思議な歯医者を訪れる。

「獣の夜」女ともだちをサプライズパーティに連れ出す予定が……。

「スワン」恋人乗り込んだスワンボートが見せる心の「澱」とは?

「ポコ」大好きな飼い犬を亡くした小4の朔が心にきざしたある思い。

「あした天気に」始まりは、久しぶりに作ったてるてる坊主だった。

 

 

本書は不思議な世界観で作られている思ったら、日常的だと思ったりもする一冊。そんな中で私が気に入ったのは、「太陽」と表題作の「獣の夜」です。

 

 

まず「太陽」は、ひどい虫歯の痛みで歯医者に行ったものの、虫歯はなく歯茎にも異常がみられなかった女性の物語になります。驚くことに、その痛みの原因は代替ペイン。実際に痛んでいるのは、歯ではなく別の部分ですが、歯がその身代わりとして痛みを引き受けてしまっている状態です。

 

女性は歯科医師から「真なる痛みの正体を見極め、直視すること」をすすめられます。しかし女性は何が自分の心を痛ませているのかに気づくことができません。確かに日々のストレスはありますが、だからといってこれが代替ペインを患わせるほどの悩みとは思えず・・

 

最終的に女性は痛みの正体に気づくのですが、その原因が意外~(他人からしたら共感できないことかもしれません)。ここだけの話、女性は少し前に大事なあるものを壊していたのです。それは人生と共に過ごしてきた思い入れのあるものだったんですね。女性は壊したときこそ残念がったものの、泣くほど大袈裟なことでもなかったので、悲しいという感情をきちんと処理せず流していました。しかし悲しみと向き合わなかった結果、行き場のない痛みが歯痛というかたちで女性にSOSを送り出してしまったというオチ。本当に地味~な理由でですが、気持ちはすごくよくわかるお話。心の痛みに敏感すぎても鈍感すぎても自分を苦しめるのだなと思いました。

 

 

続いては「獣の夜」です。35歳の誕生日を大学時代の友人たちからサプライズでお祝いしてもらう予定の美也。しかし本人は当日夫の泰介からお店で食事をしようと誘われており、サプライズパーティーのことは知りません。当初、泰介の計画では自らが友人たちが待っているお店まで美也を連れて行くはずでしたが、急な残業が入ったため元カノの紗弓にその役目を引き受けてもらうことにしました。

 

思わぬ大役を任せられた紗弓は、美也にサプライズを伏せつつお店まで連れて行かなければならなったのですが、そんなことを知らない美也は「予約していた店ではなく、肉を食べに行こう」と言い出します。焦った紗弓は必死に理由を作り、本来の目的地に行こうと説得しますが、美也は首を縦にふらず結局肉を食べに行くことになります。

 

実は美也がこんなことを言い出したのにはわけがあります。それは普段、泰介が肉食を嫌うせいで野菜中心の生活を強いられているのにも関わらず、誕生日に予約したお店まで野菜専用のレストランで気が狂いそうだというものでした。「もう肉に飢えていて我慢ならない!」と訴える美也を見て気の毒に思った紗弓は、友人たちに少し遅れることを伝え、最初に肉を食べてからお店に向かうことにします。

 

ふたりが辿り着いたのは、ジビエフェスタ。鹿肉、猪肉、穴熊の肉、野兎の肉、雉肉・・そこにはたくさんの肉料理が溢れ、美也は何かに憑りつかれたようにジビエを食い尽くします。紗弓もお酒を飲みながら野性味あふれる肉を食べているうちに、どんどん気分が上がり、サプライスパーティーのことなどすっかり忘れてしまいます。

 

やがてジビエとお酒の効果で本能が呼び覚まされたふたりは、今日行われるサプライズパーティーの裏話を語り出し―そこで互いの持っている情報を交換した結果、パーティーの正体がとんでもないことだったと知り、バックレることに。とりあえず泰介は最低な男で、泰介にサプライズ話を持ち掛けた友人も最低だということが判明。ふたりは獣の夜をもっと楽しむために、イケメンの外国人たちとジビエフェスタを楽しむのでした。

 

 

いかがでしょうか?全体的にユーモアあり、かわいらしさありのお話になっています。ここで紹介したもの以外だと「あした天気に」が人気みたいです(というか一番人気かも!)。てるてる坊主が魔法を使って天気に関する願い事を何でも叶えてくれるお話なんですが、「天気を変えるだけで幸せになることってあるの?」と思った私にとって、主人公の願い事の仕方は目からうろこでした。へーそんな願い方があるのかぁ。なんだか少し切ない内容だったので、今回はレビューしませんでしたが、ストーリー自体は天才だと思いました。

 

 

最後に、7編の中からお気に入りの文章を紹介します。

 

『雨の中で踊る』のP45より

 

人生とは、嵐が通りすぎるのを待つことじゃない。雨の中で踊る。それが人生だ。

 

これはヴィヴィアン・グリーンというシンガーソングライターの言葉だそうです。有名らしいですね。私は知りませんでした。でもいい言葉だったので、ここに残しておきたくなりました。

 

あっという間に読める本なので、興味の持った方はぜひ手に取ってみてください!

 

表紙もキュート。久しぶりの森絵都ワールドをご堪能下さい♡

 

 

以上、『獣の夜』のレビューでした!

 

 

 

こちらもどうぞ