こちらは動物が人間にくれる力に興味を持った著者が、欧米や国内の教育機関、動物愛護団体、刑務所、福祉施設など多くの場で行われている動物と人間のかかわりを取材し、まとめたものになります。

 

 

 

 動物介在介入

 

日本では一般的に「アニマルセラピー」と呼ばれているものを、正式には「動物介在介入」といいます。この「動物介在介入」には大きく分けて、「動物介在療法」、「動物介在活動」、「動物介在教育」の三種類があります。

 

 

「動物介在療法」・・治療計画にもとづき、医療や心理などの専門家の監督下で進めるもの

 

「動物介在活動」・・主に楽しみや喜びをもたらすことを目的として行われる高齢者施設や病院などのへの訪問活動

 

「動物介在教育」・・動物とのかかわりをとおして命の大切さを教えたり、動物を介在することで学習意欲を高めたりする活動

 

 

 

 犬が子どもにもたらす読書効果

 

この中でも印象的だったのは、動物介在活動のひとつとして行われている図書館での犬への読み聞かせプログラムです。これは本を読むのが苦手な子どもたちが犬に本の読み聞かせをしてあげるというもの。人間相手だと上手く読み聞かせができない子でも、犬相手には安心して声を出せる効果があるらしいです。

 

もちろん、このとき相手をしてくれるのは、きちんと専門の訓練を受けた犬になります。犬は文字を読むのが苦手な子を決して笑ったりばかにしたりしない優しい存在です。実際、犬への読み聞かせがどれほど読書力に影響するか研究したところ、人間やぬいぐるみに読み聞かせしたグループや、読み聞かせには参加しなかったグループよりも、犬に読み聞かせをしたグループのほうが「内容理解」のスコアが上昇していたそうです。

 

この研究結果からわかったのは、犬に無条件で受け入れてもらうことで、読むのが苦手な子どもたちの読書への抵抗感が減ったこと、そして抵抗感が減ったことで声を出して読めるようになり、読解力の向上につながったのではないかということです。また、子どもたちは「犬が気に入る本を読んであげたい!」という純粋な気持ちから、自ら色々な本に触れてみるようになることもわかっています。

 

外国ではこの活動がより発展し、シェルターにいる保護犬や保護猫に読み聞かせをすることで、人間だけでなく動物にも元気になってもらおうという取り組みがあります。穏やかな人間の声と存在は動物にもポジティブな影響を与えるらしく、不安をやわらげ、落ち着かせる効果があるといいます。これは録音したものでは効果がなく、直接読み聞かせることで効果を発揮するそう。吠え続けていた犬が静まったり、犬舎の前から出てこなかった犬が前のほうに出てたり、社会化の手助けにもなっています。

 

こうして元気になった動物たちは里親への譲渡率も上がり、読書に抵抗感があった子どもも自信が生まれて、一石二鳥というわけです。

 

 

 

 傷ついた動物と人間

 

動物介在教育のひとつに、ふれあい授業というものがあります。ここでは、犬の立場になって考えてみることで、他者への理解を学ぶことを目的としています。子どもたちは、犬に受け入れてもらうためにはどうしたらいいか、それには相手を知り、相手の気持ちを想像することが大切だという人間関係にも通じるレッスンを、犬とのかかわりで気づいていきます。また、学校犬を導入した学校では不登校の子が「犬がいるなら・・」と学校に来られるようになったそうです。

 

困難を抱えた子どもたちが動物の力によって、ポジティブな気づきを得る事例は数多く、現在では裁判所や少年院、高齢者施設、小児病棟、ホスピスなどさまざまな場所で動物は活躍し、人間を癒しています。そして、そんな動物たちの多くもまた、元保護犬や保護猫、競走馬を引退した馬など”わけあり動物”なのです。

 

最近では保護犬たちが介助犬となり活躍しているケースもあります。こうした犬たちには、社会化を取り戻すまで同じように傷ついた人間にお世話をしてもらうプログラムがあり、双方にとって非常に良い取り組みとなっているそうです。

 

ある刑務所では盲導犬のパピー育成を受刑者にさせ、送り出すというプログラムを行っており、ある少年院では保護犬を里親に出せる状態にするための訓練を少年たちに任せています。彼らの中には愛情を知らない者が多く、犬たちが自分を信じ、頼ってくれる姿を見ることで、生まれて初めて誰かに必要とされた経験をするそうです。そして、犬たちの無償の愛が彼らを前向きに成長させ、生き物を育てることの責任=命の大切さを痛感することにもつながっています。

 

個人的に最も驚いたのは、動物を育てることで受刑者や少年たちの他者への理解が深まっていったことです。他者の気持ちを想像したり、大切にしたりすることで、本人も随分生きやすくなっているのでしょうか。犬は言葉ひとつ発しなくとも人間を癒し、無表情の人間さえも笑顔にする。それは本当にとてつもないパワーだと思いました。

 

 

 

 まとめ

 

最近は飼っているペットと一緒に入所できる高齢者施設があったり、高齢になってからでもペットと暮らせるように訓練された元保護犬・猫を貸し出すサービスもあるようですね。

 

実は、高齢になってからペットを飼いたいと思う人の割合は多く、それは自然なこと。老犬や運動量を必要としない犬なんかであれば、高齢者との相性は若者よりも合うそうです。猫にいたっては、騒がしい音や動きが苦手なので子供よりもゆったりとした高齢者のほうを好むそう。

 

しかし、ペットよりも飼い主が先に亡くなってしまうことを考えると無責任な飼育はできませんよね。ただ、保護犬・猫たちにとっては飼い主が見つかることの方がもっと重要なので、愛してくれるのであればぜひ飼い主になってほしいわけで・・。

 

そんなときに、できたのがペットを預けるサービスです。高齢者に犬・猫を預け、途中で体調不良等で面倒をみれなくなったら保護施設にお返しするというもの。もともと犬たちは保護施設で育てられており、ペットを飼いたいという依頼主にお預けしている状態なので、飼育放棄を避けられ、処分されるはずだったペットたちの命も救うことができます。元保護犬・猫なので、高齢者に合った活発期を過ぎた年齢の子を提供できるのも魅力。本来需要がないと言われる年齢の犬や猫たちも安心して生活することができます。

 

このサービスはまだ全国展開こそしていませんが、国内で徐々に広がっていけば処分されるペットの数もぐんと減るのではないでしょうか。

 

本書には他にも人間のためにさまざなな働きをしてくれる保護犬が登場します。裁判所で被害者がきちんと話せるように寄り添ってくれる付添犬や、亡くなる時期を察知して看取ってくれる看取り犬、飼い主のニーズに合わせた行動をしてくれる聴導犬。

 

さらにアメリカの補助犬の紹介として、暗闇に恐怖を感じている人のために先に暗い部屋に入り電気をつけてくれる犬や、パニック発作を起こす前に予知して知らせ、安全な場所へ移動させてくれる犬、強迫性障害の人が繰り返し同じ行為をするのを止める犬などもいました。

 

日本ではまだ補助犬禁止のお店があり、社会の理解も薄いですが、一昔前よりも動物に対する扱いやモラルは成長しているように思えます。残念ながら、本書には問題点や今後の課題についてはほとんど触れられていませんが、動物のパワーはこれだけ凄いよ、尊いよということを知るにはオススメの一冊です。

 

どうしても犬がメインの読み物になっている点は仕方がありませんが、馬が人間の気持ちを読み取る力も凄いので、ぜひそこにも注目してください!

 

馬が人間の心の動きを鏡のように表現するというのは本当です。

 

 

以上、『動物がくれる力 教育、福祉、そして人生』のレビューでした!