はい、騙されました。そして”私も”騙されました。

 

こちらは二度読み必須の罠が仕掛けられている小説なので、よく注意してお読みください。そうしないと私みたいに引っかかります。

 

テーマはソフト闇金。なんじゃそりゃ?という方に説明すると、ソフト闇金とは「恐喝的な取立てはしない親切な闇金」のことをいいます。闇金に親切も何もないだろう!という感じもしますが、審査なしで借りられ、丁寧な人(そこら辺にいそうな普通の人)に対応してもらえるところがそう思わせるみたいです。しかし金利は闇金と同じく法外なので、結局は安全安心とは程遠いシステムになっています。

 

さらに巷ではSNS闇金というのもあります。これは、その名の通りSNS上で集客した相手に行う個人間融資のことをいいます。お金持ちの人が「善意」で、困っている人にお金を貸してあげるよーという”演出”で行う闇金なので、こちらも無知な人には引っかかりやすいシステムになっています。

 

本書はそんなSNSを使ったソフト闇金によって人生を狂わされた人たちがたくさん登場します。「騙される人」と「騙す人」の二部構成になっており、両方の視点で物語を読めるようになっているところがポイント。以下に少しだけレビューを書いていきます。

 

 

 

 騙される人

 

夫のDVから逃れ、7歳の娘を育てるシングルマザーの沼尻貴代は、家賃を3ヵ月も滞納しており、このままでは強制退去させられてしまいます。しかし、貴代は適応障害で仕事を辞めたばかりで、現在は無職。再就職を考えていますが、医師からは止められています。

 

実をいうと、貴代はまだ夫との離婚が成立していないため、行政の支援を受けることができません。父親は亡くなり、母親は認知症であることから頼れる人はおらず、親戚にも街金にも借金を断られた貴代は、SNS上で行われている個人間融資に手を出します。

 

貴代にお金を貸してくれたのは、未奈美という女性で、彼女はシンママの貴代に優しくしてくれ、子育ての相談まで乗ってくれます。まんまと彼女に心を許した貴代は、雪だるま式に借金を増やしてしまい、二度と借金地獄から這い上がれなくなっていきます。

 

この貴代って子、まぁ頭が悪いんですよ。ちょっと見ていてイライラするくらい危なっかしい。これは騙されちゃうわぁという感じ。ただ、体調を崩したシングルマザーが子どもを育てるって本当に大変だと思います。仕事もお金もなく、焦りしかなくて・・。正直、第一部ではソフト闇金の裏側よりも、貴代の困窮した生活の方に感情が持っていかれてしまい辛かったです。

 

窮地に陥った貴代は、どんどん精神状態が危うくなり、最後は・・・。ここはネタバレするといけないので書きませんが、最大のピンチを迎えたところで一部は終わります。

 

 

 

 騙す人

 

第二部は沼尻という人がソフト闇金業者になっているところから始まります。実は一部の最後のほうで、借金を返せなくなった貴代は未奈美から「自分の仕事を手伝わないか?」と誘われています。なので、今度はてっきり貴代がソフト闇金業者になった話なのかな?と思ったのですが、それにしては違和感しかありません。

 

まず沼尻という人には、自分をこの業界に誘ってくれた「師匠」と呼ぶ存在がいます。沼尻はこの師匠から仕事を教わり、現在の生活を成り立たせています。普通に考えて、この師匠とは未奈美のことではないの?となりそうですが、そこにも何か違和感があります。みなさんには、このふたりの関係性にぜひ違和感と疑いを持ったまま二部を読み進めていってほしいと思います。

 

ここだけの話、一部の「騙される人」を読んだ後だと二部の「騙す人」では急に切迫した空気が薄れ、まったく別の物語になった印象を受けました。騙す方も生活に困っているのはわかるのですが、どう見ても騙される側の方が上手く書けているので、もの凄く温度差?アンバランス差があるのが残念でした。しかし、二部の見どころは「騙しの手口」。このようにして人は騙されていくのだなということが伝わってくるので、とても勉強になりました。

 

 

 

 違和感

 

本書の違和感は貴代とその夫の言い分にあります。貴代は夫と別れたい理由をDVだと主張しますが、夫は貴代に対し娘への虐待を疑っています。しかも貴代が夫と別れたいのに対し、夫は貴代に娘を預けておくのは心配なので自分に親権を譲ってほしいと言っています。

 

確かに夫は金銭的にルーズですが、娘のことを溺愛しているのは本当のようなんですね。娘の親権を譲りたくないという貴代に対しても、それなら3人で暮らそうと持ちかけるくらいで・・。実際に娘も親子3人で暮らすことを望んでおり、母親の病気についても心配しています。

 

一部の後半で、貴代は通院している心療内科の医師からも、状態がよくないと指摘されています。ちょっと見逃せないのが、そこで「被害妄想的な傾向があり、統合失調症の陰性症状が見受けられる」と診断されていること。

 

そうなると、貴代の言っていることはどこまでが本当なのかわかりません。なんだか娘との会話にも違和感があるし、変なんですよね。というかすべての行動がよくわからないのです。

 

そんな違和感を持っていても騙される読者は騙されるので、最初から疑いまくって読んでみてください。そうすれば、きっと早い段階で「あ」と気づくはずです。

 

 

 

 感想

 

ソフト闇金、おそろしいですね。個人間融資というのがまたおそろしい。

 

SNSで出会った顔も知らない人に身分証明として個人情報を晒すなんて普通のサラ金よりもリスキーなんじゃ・・と思うのですが、利用者はそんなことなど何も考えていなくて平気でやり取りしているのがすごかったです。

 

娘の通う学校、クラス、担任の名前とかまでよく言えるなぁと。悩み事まで親身になって聞いてくれるので、余計なことまでペラペラしゃべってしまい、逃げたくなったときには逃げられない仕組みになっているではありませんか。まぁ本人たちは気づいていませんけど。

 

ただ、利用者も個人闇金を侮って偽の身分証明を用意していたり、借金を苦にして自殺したことにしたり、弁護士や警察を偽って脅したりとなかなか考えてきます。あっちはあっちで、騙されたふりをして借りパクしてやろうと思っているのですね。いやーどこまでも騙し合い。しょせんSNS上でのやり取りなので、こうした騙す、騙されたは隙だらけでやりたい放題なわけです。

 

現実にもこうやって騙されている人たちがいるのだと思うと・・。

 

闇金と名乗る限り、安全なものはないということは覚えておきたいところです。

 

最近はネット広告にもこの手のものがバンバン出ているらしく、いいことしか書いていないので騙される人が多いのだとか。相手は女性になりすましていることがほとんどで、警戒心や抵抗感なしで勧誘するのが手口になっているそうです。

 

どうかみなさんもお気をつけて。

 

 

以上、「そしてあなたも騙される」のレビューでした!

 

 

 

 

 

 

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