先日、図書館に行ってきました。特に読みたい本がなかったので、なんとなく図書館に行けば「私を読んで!」という一冊に出合えるんじゃないかなーと思っての来館でした。

 

すると新刊コーナーにこんな本がありました。

 

 

 

 

画像だとキラキラ感があまり伝わらず残念ですが、文字部分が金色に輝き、ラメが散りばめられております。その本の名は「本の幽霊」。本+幽霊なんて最高に面白そうではありませんか!!しかも翻訳書かと思いましたが、中をパラパラっと見ると西野憲さんの短編集ではありませんか!!

 

 

 

 

 

ね?最高にオシャレなデザインですよね?というわけで、今回は普段めったにしない、ジャケ買い(正確には借りただけ)から選んだ本のレビューをしたいと思います!

 

 

 

 

 はじまりは電子書籍?

 

本書には全6話の本に関係する不思議な物語が収録されています。目次は以下の通り。

 

 

本の幽霊/あかるい冬の窓/ふゆのほん/砂嘴の上の図書館/縦むすびの ほどきかた/三田さん

 

 

「あとがき」によると、はじめに「ふゆのほん」という話が電子書籍で刊行され、それが紙の本に移転される際に、その他の話を加え、短編集にしたものが今回レビューする「本の幽霊」なんだそうです。電子書籍から紙へという流れがワクワクしますよね。収録数のわりには全115ページしかないのも興味津々ポイントで、一体どんな怖い話が入っているんだぁ??と、読む前から楽しみでした。

 

しかし、実際に読んでみるとホラー系の怖さではありません。むしろ全く怖くありません。ただただ奇妙だったり、不思議、謎といった言葉が似合う一冊です。

 

 

 

 ここではない別の世界

 

全体的に「ここではない別の世界」に迷いこんでしまった話、という感想が一番しっくりくるかもしれません。

 

ザックリと紹介するとこんな感じ。

 

 

本の幽霊

海外の古書店から通信販売のカタログを送ってもらっている古書マニアが、ずっと探していた短編集を発見し、購入したものの、同じカタログを利用している友人から「そんな本は売っていなかった」と、言われてしまう。慌ててカタログを確認すると、確かにその本は存在していなかった。次の瞬間、購入したはずの本もいつのまにか消えていた。

 

最後にその本の題名と作家が記されています。

 

L.T.C.ロルト作の「スリープ・ノー・モア」。

 

 

この本なのかなぁ・・?ちょっと色んなバージョンが出ているみたいで、よくわからないのですが、マニアの間では有名なのかしら。

 

 

砂嘴の上の図書館

河が氾濫したあとにできた砂嘴の先端に建物が佇っていることに気づいた町長。奇妙に思い、偵察に行くと、そこには図書館があり、小さな子供が働いていた。不思議なことに、そこは図書館でありながら本が十五冊しか置かれておらず、司書は「百万の本を収めた図書館と十五冊の本を収めた図書館は完全に同義であり、一冊の本の中にはすでに無限がある」と言う。そこで一冊だけ本を借りた町長だが、次に砂嘴の先端を訪れたときには、もう図書館はなくなっていた。

 

 

他にも日帰り旅で知らない土地に行って孤独を感じる男性の話や、コーヒーショップの窓から見える景色に本の1ページを重ねる男性の話など、ちょっとした孤独と余韻を感じる読書体験が味わえます。

 

 

 

 風変わりな読書会

 

さて、その中でも私一番のお気に入りは、やはり「ふゆのほん」になります。これは電子だけじゃなく、紙にするべき物語。わかる、わかる。

 

「ぼく」は、好意を寄せている麻子さんを読書会のワークショップに誘います。その読書会は少し変わっていて、詩人の大下ウールが執筆中の「赤い猫」という作品を街歩きしながら鑑賞するといった内容でした。

 

ちなみに「赤い猫」とは、詩人が手塚治虫の「赤いネコ」を再話した作品ということになっています。手塚治虫の「赤いネコ」は、彼の代表作『鉄腕アトム』の初期の一作で、環境保護と人間と動物の関係を扱ったものです。

 

 

二十一世紀の東京を、ヒゲオヤジと手塚治虫は、国木田独歩の「武蔵野」の一節を口ずさみながら歩いています。すると、ある廃屋に5人の小学生たちが手紙で呼び出されたことが判明します。差出人は「赤いネコ」。少年たちの父親は、みな武蔵野の開発をしている会社で働いており、そのうちひとりはハイキングに行った際に赤いネコを目撃したことがありました。クライマックスでは、環境保護かつ動物博愛主義者のY博士が造った催眠装置に東京中の動物たちが操られ、人間たちに対し反乱を起こします。そして人間は動物たちに支配され、外に出られなくなってしまいます。

 

 

そんな現代社会にも通用する物語である「赤いネコ」の再話を楽しみにしていた「ぼく」でしたが、読書会の当日になると、詩人は「考えているうちにどんどん変わってしまったから」という理由で、題材を「冬の本」という作品に変更してしまいます。さらに今日の読書会では、その「冬の本」に登場する十人の役を参加者に演じてほしいと説明します。詩人はそう言うと、参加者の顔をひとわたり眺め、各自の台詞と配役が書かれた用紙を配りはじめました。

 

登場人物は以下の通り。市長、市長の息子、八号、歌姫、助役、渡し守、銀行家、刑吏、通行人、ものをいう犬です。

 

 

 

 余韻が残る物語

 

この物語がまた面白いんです!ある街の市長が狂気に侵され、街を逃げ出す者が増加します。困った市長の息子は、占い師のもとを訪れ、助けを求めます。すると、占い師は三日後に街にやって来る急行列車の中に市長を救えるものが乗っているから自力で探せと告げます。しかし、息子がどんな人物なのかと聞いても、占い師は「わからない」としか言いません。

 

三日後、息子は占い師に言われた通り、急行列車の中から”その人”を探します。誰を見てもピンと来なかった息子ですが、諦めかけたその時、一番後ろの席に奇妙な女性らしき人が座っているのを発見します。その人は大きく、身体の左右のパーツがすべてアンバランスで、べつの人間同士をくっつけたような見た目をしていました。

 

恐る恐る「父親を助けてほしいのですが」と声かけてみる息子に、女性は「自分が知らない楽器をくれるならいい」と、列車を降りてくれます。女性は「八号」と名乗り、市長には霊攫という時間の結節を食べる獣が憑いているため、体から追い出さないいけないと言います。

 

霊攫は単に人に憑くばかりではなく、姿の映るものであれば、どこへでも移動できます。そのため、市長にはまず霊攫にとって居心地の悪い状態にしてもらうため、飢えてもらうことになりました。ふたりは市長を小さな劇場に閉じ込め、三日間、水も食料も与えませんでした。四日目、八号は市長に手鏡を見せ、そこに霊攫を憑かせようとしたものの、昨夜、劇場を訪れた歌姫が市長と目を合わせてしまっており、今度は歌姫に霊攫が憑りついていました。

 

その後、霊攫は歌姫から助役へ、助役からガラスへと憑りつき、最終的には八号と息子の手でガラスが割られ、しばらくの間、霊攫の動きを止めることに成功します。ようやく一安心した息子でしたが、八号は浮かない顔をしています。

 

実はこの街は既に別の霊攫に憑りつかれており、そっちのほうは八号ですら手に負えないと言うのです。気づくと、夜明け前の暗がりの中に、逃げ出す市民の行列ができているのが見えました。息子はその列に自分の家の老犬が混じっていることに気づき、向こうもこちらに気づき立ち止まります。

 

息子が老犬に近づくと、犬は口を開け八号と話し出します。もちろん、息子は老犬が話すところをはじめて聞きました。そして八号は老犬と一緒に歩きだし、息子は茫然とその姿を見つめ、立ちすくんだのでした。

 

 

と、いう物語なんですが、意味はわからなくても余韻が残りませんか?なんだか切ないし、取り返しのつかないことをした気分になります。本書にはそういう話がたくさん収められているので、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。

 

めちゃくちゃページ数は少ないのに、なぜかとても本を読んだと実感する一冊です。哲学チックで、飾っても楽しめる読み物なので、読書好きのみなさんにはオススメ。わかるようで、わからない本に浸りたいという方はどうぞ。

 

以上、「本の幽霊」のレビューでした!