こちらは森山至貴さんの『10代から知っておきたいあなたを閉じこめる「ずるい言葉」』の続編になります。

 

 

 

 

男性よりも女性の方が「ずるい言葉」を浴びせられる機会が多い。そう筆者が気づいたのは、『10代から知っておきたいあなたを閉じこめる「ずるい言葉」』を刊行したあとだったそうです。なぜなら反響の大半が女性からのもので、どの感想も好意的だったからです。そこで第2弾として生まれたのが今回レビューする『10代から知っておきたい女性を閉じこめる「ずるい言葉」』になります。本書では実際に女性たちから「ずるい言葉」に関しての実例を教えてもらい、それらに筆者がアドバイスをする構成になっています。ここではその中から私が選んだ「ずるい言葉」についての抜け出し方法を一部ご紹介していきます。

 

 

 

  ”女”の人生を勝手に区別する言葉

 

「あなたには子どもがいないからわからない」

 

独身女性に子どもの夜泣きを愚痴った女性が相手から「大変そうだね」と言われて返した台詞。これは愚痴られた方も経験したことのないことに対しうかつに共感できないし、だからといって愚痴った方に辛さを吐き出すなというわけでもない難しい問題です。しかし最初から「あなたにはわからない」と拒絶してしまうのは望ましい態度ではありません。なぜなら相手の「わかろう」とする努力ではどうにもならない高さにハードルを設定することで、苦しい、つらいといった思いへの共感の回路も遮断してしまうことになるからです。P17

 

あなたには「わかる」「わからない」といった極端な発言が悪循環を生むことを理解し、お互いの経験の違いが共感の回路を遮断しないよう、開いておくべきでしょう。

 

 

「子どもがいないからできることだね」

 

めでたく離婚が成立したという友人に対し、同じく離婚をしたいけれど子どもがいてできない女性が言った台詞。離婚が「子どもがいないからできること」であるという側面は、確かに存在するので、そこを否定するのは酷でしょう。しかし、友人のことを祝福せずに「子どもがいないからできることだね」なんて言ってはいけませんよね。この言葉は相手と自分をどこへも連れていってくれない「行き止まり言葉」です。子どもの有無という変更しようのない事柄を持ち出して相手とのあいだに壁を作ると、コミュニケーションは行き止まりになってしまいます。P35

 

これには「捨て台詞」で溜飲を下げることから遠ざかる冷静さを持ち続けることが大切です。

 

 

そもそも結婚が祝福されるべきことなら、それは「みんながしている結婚をその人も達成できたから」ではなく、「その人が幸せになるための大きな決断をして、実際に幸せになったから」が定義になっていないとおかしいのではないでしょうか。もし「みんながしている結婚をその人も達成できたから」という理由で祝福するのなら、それは祝福の名を借りた幸せの押し付けでしかありません。このような理由から、祝福すべきことは、その人にとって幸せになることだと言え、不本意な結婚生活からの脱出という点では離婚も「おめでとう」と言われてよい出来事なのだと筆者は語っています。

 

 

 

  ”わりには””ならでは”で軽視する言葉

 

「その年齢の子どもがいるわりには若く見える」

 

はい、こちらもまた女同士による会話です。ママ友同士で繰り広げられた一応、相手への褒め言葉として使った言葉になります。実際にこう言われて嬉しい人も多いでしょうね。しかし、実年齢の「わりには」若く見えるのを褒めることは、実年齢よりも少し若いあたりを女性の容姿の理想とするわけですから、年齢を重ねてもどんどんその要求は追いかけてきます。P47

 

女性の容姿に関しては常に若く見えることが評価されるわけではありません。やりすぎは「若作り」と批判され、その結果女性たちにのしかかってきたのが「年相応であれ」です。ここで矛盾に気がつきませんか?実年齢よりも老けて見えれば若さを求められ、それに応えようとすると「年相応の魅力があるのに」と言われる・・これってつまり、あれこれ理由をつけて女性の容姿をジャッジしようとする側に問題があるということなんですよ。

 

女性たちは男社会が作ったこのくだらないレースに知らぬまに巻き込めれ、苦しんでいるのです。これに気づかない女性は同性同士で傷つけ合い、自らを不自由にしています。

 

 

 

  ”大事にする”を勘違いした言葉

 

「皿洗い、やっておいてあげたよ」

 

これは同棲中のカップルの会話で、先に仕事から帰って来たと思われる男性が女性にかけた言葉です。これには違和感ありまくりですよね。「やっておいたよ」ではなく、「やっておいてあげたよ」ですから。これは似ているようで全く違います。

 

残念ながら「やっておいてあげたよ」には「本来あなたがすべき」という前提があります。また、いくら家事の役割分担をしているカップルや夫婦でも、女性が家事のスタイルをすべて決めてしまい、男性が実行役になっているパターンもあります。ここで問題なのは、家事に関する決定権が結局女性に与えられることで、「家事は女性の仕事」という意識がかえって強まり、「言われた通りにやって失敗したのだから指示したあなたが悪い」と男性から言われかねないことです。P94

 

自分の流儀を実行役に押し付けるのは、ある意味、自主性に任せない上司と部下の関係に似ています。家事を誰かに任せるのなら、段取りも含めて任せるほうが実行役にもこれまで認識できなかった細かなことが見えてくるのでは?と、筆者はアドバイスしています。

 

 

 

  ”男らしさ、女らしさ”を刷り込む言葉

 

「女にはわからない世界だから」

 

これを何気なく言われたことがある女性は多いのではないでしょうか。私もあります。一体どういう意味なんだろう?と思っていたので、引用した筆者アンサーをそのまま貼り付けました。

 

 

男性だけの集団では、男らしさの相互監視が起こり、他者を害する行為につながることがあります。また、男性同士の関係性の内実について隠しておきたい欲望を、「女にはわからない」という発言によって女性の能力や適性のなさのせいにする男性もいます。それらが男性側の都合であることに気づくことで、やんわりとした見下しの態度から逃れましょう。P141

 

 

ここでいう「他者を害する行為」とは、大学のスポーツ系サークルで度々起こる女性への集団暴行事件が挙げられています。ちなみに筆者は「女にはわからない」と言われたら、「わかられると何か困ることでも?」くらい返してやってもよいと言っています。

 

 

 

  ”あなたも悪い”で突き放す言葉

 

「女は権利ばかり主張する」

 

転勤を受け入れないと昇進できない制度は女性たちに不利といった社員に対し、返ってきたのがこの台詞。結構あちこちで聞く言葉ですよね。ただ、これはマジョリティである男性には本当にワガママに聞こえるのだろうとも思います。実は「~は権利ばかり主張する」という言葉自体、女性やマイノリティに浴びせられてきた専門用語みたいなものなんですよね。

 

この社会は男性用につくられていて、そもそもそういった人には権利を主張する必要が相対的に少ないのです。さらに不公平だからこそ利益を得られているという状態を手放したくないため、その改善に抵抗したい人もいるのでしょう。

 

 

雇用についての公正なルールとその適切な運用は、一生懸命に働くことの見返りではなく、雇用の前提条件としてあらかじめ保障されているべきものです。「権利」を「義務」の見返りとするような間違った考え方、「権利」を人質にして「義務」を果たさせようとする隠れた狙いに、私たちは気づく必要があります。P185

 

 

 

  感想

 

結構抜き出したようで、こうして見るとほんの一部しか書いていません。もちろん、女性を閉じこめる言葉はこの一冊では収まりきらないくらい存在しているでしょう。

 

個人的には、ところどころで筆者がこれにはこう言い返してやればいいという言葉のアドバイスみたいなものがあり、そこをメインにした本が読んでみたいなぁなんて思いました。

 

たとえば、「この程度でセクハラになるのか」と不満をいう人に対し、「では何がセクハラにあたるのか」と知識を問うとか、「そんな恰好をしているから痴漢にあうんじゃない?」という人に対しては、「そう考える人が多ければ、そりゃ痴漢も減らないよね」と返すなどです。

 

また、本書では各言葉のアドバイスの最後に、もっと深まる参考文献として色々な本が紹介されています。おそらくここで紹介した言葉を聞いてもピンと来ない人も多いかもしれません。考えすぎじゃない?別に腹も立たないよ、と。確かに生まれた時からその環境なら何も疑問に思うこともないでしょうね。

 

ただ、これからの未来を生きる子どもたちにとってはどうでしょうか。どんどん世界とのギャップを感じていくことになるのではないでしょうか。生まれてからこれらの「ずるい言葉」を聞いて育ってきた子とそうでない子のあいだには考え方に大きな違いが生まれるだろうと私は思います。

 

その考えは個人の生き方にも影響してきますし、気づいた時には自分で自分を苦しめていた・・なんてことにもなるかもしれません。

 

実は今、当たり前のようにある平等の中には、かつてヒステリックだと批判されながらも粘り強く女性のために活動してくれた人たちの存在があります。こうしたかけがえのない功績のもとで、私たちが少しでも楽になっているのなら、私たちもまた次世代が生きやすくなるように働きかけていくことが求められているのだと思います。それがちょっとした言葉を変えるという行為でも効果があるのなら、積極的に改善していきたいですよね。

 

10代の子が社会に出る前にこの本を読んで、いざ「ずるい言葉」をかけられた時に、「自分のせいじゃない」と思ってくれたらと思います。

 

以上、10代から知っておきたい女性を閉じこめる「ずるい言葉」のレビューでした!