「オズの魔法使い」の物語はよく知られていますが、その作者であるL・フランク・ボームの名前を知る人は少ないのではないでしょうか。実は私も小学生の頃、「オズの魔法使い」が大好きでありながら、大人になるまで作者の名前を知らなかったひとりです。
今からご紹介する「ガラスの犬」は、そんなボームが書いた作品の中から、とくに面白い話、アメリカらしい話を集めた短編童話集になります。表題にもなっている「ガラスの犬」をはじめ、舐めるとかけられた魔術の効果を発揮する「魔法のあめ玉」や鳥を守るのんきな「妖精ポポポと鳥たちの帽子」などを含む全8話が収録されています。対象年齢は小学校4~5年生となっていますが、各短篇の最後には教訓が書かれており、大人にも響く内容になっているので年齢問わずにぜひ読んでみてください。
以下は、その中から私がお気に入りの話をレビューしたものになります。
ガラスの犬
かつて腕利きの魔術師がアパートの最上階に住み、日々研究に明け暮れていました。しかし、魔術師は読書に没頭していたり、魔法の薬を煮ている大事な時に限ってセールスマンが訪ねて来ることに悩んでいました。これ以上研究の邪魔をされたくなかった魔術師は番犬を飼うことにしましたが、どこで犬を手に入れればいいのかわかりません。そこで隣に住むガラス職人に犬を作ってもらい、その犬に自分で魔法をかけて番犬にすることにしました。
魔術師はお金を持っていなかったので、ガラス職人に世界で一滴しかないどんな病気も治す魔法薬をプレゼントしました。次の朝、ガラス職人が新聞を読んでいると、町で一番のお金持ちであるマイダス嬢が不治の病にかかり、余命があとわずかであることを知りました。そこでガラス職人は自分の魔法薬をマイダス嬢に譲る代わりに結婚を申し込もうと企みます。
無事に交渉を成立させたガラス職人でしたが、マイダス嬢は元気になったものの、一向に結婚してくれる気配がありません。それどころか魔術師から「ガラスの犬」を盗んで来いと命令されてしまいました。ガラス職人はすぐにガラスの犬を用意しましたが、その日以降マイダス嬢の家を訪ねるとガラスの犬が襲いかかってきて中に入ることができなくなり・・
そうです。実はマイダス嬢は最初からみすぼらしい見た目のガラス職人とは結婚する気などなく、魔法薬だけを貰っておさらばをする予定でした。見た目が気に入らないと言われたガラス職人は、魔術師を訪ね、美しくなる薬を作って貰います。(ちなみにこの時ガラス職人は、突然消えたガラスの犬を捜していた魔術師に自分が犬を見つけて来るので、その代わりに薬を作ってくれと嘘をついていたのです!)
こうして世界一の美男になったガラス職人は、めでたくマイダス嬢と結婚します。しかしその後、花嫁は美しい花婿に嫉妬し、みじめな暮らしをさせました。一方、花婿は借金をつくって花嫁にみじめな思いをさせたのでした。
教訓:なし(逆に魔術師に訊きたいくらいと書いてあります)
クオック王妃
クオック王国の王様がぜいたくな暮らしで財政を圧迫したあげくに亡くなったあと、大臣たちは楽にお金を得るべく、後継ぎの10歳の王子をオークションにかけ、裕福な女性と結婚させようとします。
しかしクオック王妃になるべく群がってきたのは、いかにも強欲で乱暴な老婆ばかりで、王子は困り果ててしまいます。すると絶望する王子のもとに、ベッドの精が現れ、25セント銀貨を1枚ずついくらでも取り出せる魔法の財布を授けてくれました。さっそく王子はこの財布の存在を大臣に報告し、先ほど決まったクオック王妃(以下老婆)との婚約を解消してもらうよう頼みます。
ところが大臣は老婆から貰ったオークション費用を紛失してしまったというのです。これには老婆も怒り、「一文残らず、利子付きで返してくれるのなら条件をのむ」と言います。そんなわけで、その日から大臣は老婆の目の前で、三百九十万六百二十四ドル十六セント(面倒なのでここだけ漢数字)を25セント銀貨で1枚ずつ支払うことになりました。
その後、大人になった王子は幼い頃から好きだった武器係の娘と結婚し、幸せにくらしましたとさ。
教訓:老婆のお金を粗末に扱った大臣、クオック王妃の冠をかぶりたいがために10歳の少年と結婚しようとした老婆。ふたりはその罰を永遠に終わらない借金返済を通して受けることになった。あの大金を25セント銀貨で払うには1ドルの4倍もかかり、大臣は一生ちまちまと財布から銀貨を老婆に支払わないとならなく、老婆は老婆で一生きちんと支払われているか監視する人生になってしまった。
時をつかまえた少年
ジムはカウボーイの息子で投げ縄が得意でした。ある日、ジムが投げ縄をしていると、地上1メートルあたりで輪が止まり、「何か」を捕まえました。その「何か」は片手に鎌を持ち、もう片方の腕に砂時計を抱えた奇妙な老人でした。驚くジムに老人は、自らを時の神と名乗り、いますぐ自分を解放しないと世界の時が止まったままになってしまうと訴えます。
しかしジムはそれを面白がり、時の神を縄で括り付けたまま、ひとりで町を探索しに行きます。12歳のジムが考えることといったら、どうしようもないことばかり・・。ジムは町で停止した人々に次々といたずらをしていきます。
思う存分悪さを働いて満足したジムは、時の神に説得され、しぶしぶ縄を解きます。しかし、再び時間が動き出した瞬間、ジムは誰かに足をつかまれ、馬からひきずりおろされます。「このぼうず、こんなところで何をしてる?その馬をプリンプトンの牧場へつれていくって約束しただろうが」
ジムはすっかり肉屋との約束を忘れ、遊んでいたのでした。
教訓:時のこの上ない大切さと、時をとめようとするおろかさを教えてくれる。なぜなら、ジムのように時をとめることができたとしても、世界はいずれ退屈な場所になり、人生は間違いなく不愉快になるからである。
まとめ
本書は童話でありながら、結構シビアなお話がたくさん登場します。どのお話にも共通するのは、やはり「魔法」。また、かわいらしい妖精も出てきます。
ここでレビューした作品の他には
・屋根裏の盗賊
・クマを持った女の子
・妖精ポポポと鳥たちの帽子
・魔法のあめ玉
・ふしぎなポンプ
などが収められており、どれも愛らしいのに辛口なところがポイントになっています。
ボームの作品は、読んでいると勝手にその物語の絵を描きたくなってくるのは私だけでしょうか?他の本ではそういうことはないのですが、ボームにはそう思わせる不思議な魅力があります。また、ボームは昔から物語の中に出て来るキャラクターと友達になりたい!と思わせてくれたり、物語の中に入りたい!と思わせてくれる人です。
私も魔法のあめ玉が欲しいなぁ、本当に妖精っているのかなぁ。恥ずかしながら、大人になった今でも童話を読んでいると当時と同じ感覚になってしまいます。なんだったらたまに魔法使いになりたくなる日も健在です(笑)
みなさんの中にも魔法系のお話が好きな方がいたら、ぜひ童心にかえって本書を読んでみてください。きっと気持ちが若返って、お肌もピチピチになりますよ!
以上、「ガラスの犬」のレビューでした!