毎年恒例の町内会での秋祭り。そこで起こった毒物混入事件。閉鎖的な田舎町で人は互いを疑い監視し合い――

 

お祭りで振る舞われたおしるこに毒物が入っていて、大人と子供を含めた4人が亡くなってしまう。警察の捜査は難航し、犯人はなかなか捕まらない。そんな見出しに誘われて読んでみた本書でしたが、真相解明までめちゃくちゃ長かったです。ここでは犯人のネタバレはしませんが、大まかに事件の流れをレビューしたいと思います。

 

 

 

スタンフォード監獄実験 

 

まず本書は2部構成になっており、前半は「看守」、後半は「囚人」という題名になっています。犯人探しする人たちを「看守」、犯人扱いされる人を「囚人」として物語は進んでいきます。また、後半は事件から10年後の設定で幕を開けます。

 

本書はスタンフォード大学の心理学者、フィリップ・ジンバルドーが提唱したルシファー・エフェクトの概念がベースとなっており、”人間は監獄のような環境に置かれ、看守役と囚人役に割り振られると、罪を犯してもいない囚人役の人間はあっという間に従順になり、看守役は強権的になる”という実験結果がそのまま物語になっています。

 

事件があった町では、犯人と疑われた人たちが次々と町内の人から嫌がれせを受け、やがてその行為はエスカレートしていきます。看守側になった人間は囚人には何をしてもいいと考え、無実の人を死まで追い込もうとするのです。

 

一方、囚人側の人間は看守から責められていくうちに、死んで償わなければいけないという気持ちにされてしまいます。いくら無実を証明しても信じてもらえず、追い詰められ、犯してもいない罪を自白する人まで現れます。

 

 

 

疑われた人① 

 

事件の流れは以下の通り。

 

主人公の仁美とその母親の千草、そして仁美の友人・涼音がお祭りで振る舞うおしるこの当番をしていました。そこに遅れて涼音の母親・エリカがやって来て手伝います。ちなみに他の町民は御神輿やそれぞれの役割についていて、おしるこには関わっていませんでした。

 

おしるこは御神輿組が帰ってきたら全員に振る舞う予定でしたが、味見を担当したエリカがうっかり子供たちにもおしるこを食べさせてしまいます。(ちなみに千草も味見している)そして、この時おしるこを食べたメンバーは、毒に当たり、ふたりが一命を取り留め、大人ひとりと子供3人が亡くなってしまいます。

 

 

<死亡した人>

怜音、萌音(エリカの子供)、千草、かすみ(修一郎の妹)

 

<生存者>

エリカ、麗奈(町内会長の孫)

 

 

まず、ここで疑われたのは被害者以外の町民でした。その中でもあやしいとされたのは、日頃から仁美一家に怨みを持つ音無ウタというお婆さんと、物知りなことから「博士」と呼ばれ親しまれている博岡さんという男性でした。ウタは事件当日にテント内で仁美に文句を言った挙句、暴れていたところを目撃されていました。博岡さんは裏の顔があり、妻にDVをしていると噂されていたことから容疑をかけられていました。

 

 

 

疑われた人② 

 

しかし、看守側の犯人探しは「疑って違うとなれば次」という流れ作業のように、間違いを反省することもなく行われていき、ついには被害者家族を疑うようになっていきます。そこで最終的に黒とされたのは、あの事件のサバイバーであるエリカでした。

 

エリカは事件で子供を2人亡くしているものの、自身は助かっており、これまで町内の男たちと不倫してきた過去が判明すると、一気にバッシングの対象となってしまいます。驚くことにエリカは、音無のご主人や博士、そして仁美の父親とも関係を持ったことがあり、この女こそがすべての元凶ではないのかと疑われるようになります。

 

さらにもうひとり最後まで犯人だと噂されるのがイワオです。なんとイワオはもうこの世には存在していない人物なのですが、その死があまりに壮絶だったため、今でもこの町に幽霊として存在していると信じられています。

 

イワオは数年前に麗奈をいたずら目的で誘拐し、犯行前にふたりを見つけた音無のご主人と争いになった結果、崖から転落死させたとされ、町民から囚人扱いされていました。その後、イワオは焼身自殺を図っているのですが、どうもこの事件も看守がイワオを追いつめた結果、このようになったのであり、事件の真相は実際のところわからないのです。

 

このように、ここの町民は普段とても優しい人ばかりなのですが、一度事件が起こると人が変わり、証拠もないまま誰かを囚人にし、追い詰めるところがありました。

 

 

感想 

 

前半は長いなぁとめげそうになりましたが、後半から一気に面白くなりました。主人公の仁美が被害者遺族になったり、もしかすると加害者家族なのではないか?と自身を疑ったりすることで、看守と囚人両方の立場を体験するところがよかったです。

 

仁美には修一郎と涼音という友人がいて、本書では事件の他にも恋愛要素が少し絡んできます。また、毒物混入事件の後にも数人が亡くなるので、事件との因果関係を推理しながらぜひ読んでみてください。

 

ここで紹介していないキャラクターもたくさんいて、正直その人たちは最初からあからさまにあやしいんですよ。ただ、あまりそこら辺を隠して書かれてもいないので、逆に犯人じゃないのかな?と思いながら読んでみたり、あれ?でもやっぱりこの人なの?と思ったり、忙しい謎解きになっているところにも注目してみてください。

 

ミスリードが多く、和歌山毒物カレー事件を連想するような物語でもありますが、先導役の修一郎が賢い設定のわりには共感性羞恥ばりばりの幼い言動が目立ち、彼のせいで事件が大雑把に見えたり、冗長していると感じてしまうところがやや惜しかったです。それでも登場人物が多いことを考慮してか、誰と誰が親子関係にあるのかわかりやすいような名づけがされていたところは読みやすくて良かったですね。

 

人は自分の経験した範囲でしか他人のことを想像できないし、置かれた環境の中で自分を演じることで生存しているところがあるので、どんな天使でも何かあれば簡単に「看守」になってしまうものなんだなぁと思いました。悪に脅えて、排除を願い、自分を守ろうとするのは本能なのでしょうが、それをされる側としてはたまったものじゃありませんよね。

 

やや忍耐力のいる一冊でしたが、テーマとしては面白い作品でした。こんな風に「悪」は作られていくんだなという過程をみなさんも本書で体験してみてはいかがでしょうか?

 

以上、「私たちはどこで間違えてしまったんだろう」のレビューでした!