春に読む定番ラブストーリーといったら、宇山佳佑さんの「桜のような僕の恋人」だと思うのですが、おそらくこの記事が更新される頃には既にほとんどの地域で桜は散っているでしょう。

 

当ブログはすべて予約投稿のため、アップされる一週間前くらいに記事を書いているのですが、その現在ですら散っている木と満開ナウの木でごっちゃまぜになっている感じです。私の住む地域では3月に桜が開花するなんてありえないのですが、そのありえないことが起きているのですから不思議です。

 

冬から春へと季節が移る、あの独特の名残惜しいような、待ち遠しいような気持ちを感じることなく、突然G・W直前並みの陽気を携えた春。寒さと雪が即退散してくれるのは嬉しいけれど、それはそれで少し寂しいですね。

 

あまりにも早くに桜が散っていく様を見て、そんなことを考えていたら、ふと「桜のような僕の恋人」に登場する晴人のことを思い出しました。(以下、回想レビュー)

 

 

晴人は美容師の美咲に一目惚れをして以来、何度か彼女に髪を切ってもらいつつ、お花見デートに誘うタイミングを窺っている超絶不器用な男性で、少々ハプニングはありつつも無事にOKをもらい、いざデート当日を迎えたのですが、彼はそこで爆弾発言をします。

 

なんと彼は自分からお花見デートに誘っておきながら「桜があんまり好きじゃなくて」と言ってしまいます。理由は「桜って綺麗だけどすぐ散っちゃうじゃないですか。そう思うと、なんだかちょっと悲しくて」

 

だったら違うデートプラン考えろよ!っとツッコミたくなるけれど、なんだかわかる気もするので共感してしまいます。なぜなら春は短いし、桜もあっという間に散るから。私の中では桜が散ったら春は終了くらいの感覚があります。葉桜になると、それまでたくさんの人が同じ木を見て興奮していたのに、もう誰も見ようとはせず素通りなのも悲しい。華やかさを失った桜はまるで用済みの桜みたい。それは女の一生にも似ている気がして、何とも寂しい気持ちになります。

 

 

晴人はお花見デートのあと美咲と付き合うことになるのですが、幸せな時間は長く続きませんでした。美咲が早老症を患ってしまったからです。

 

早老症とは通常の何倍ものスピードで老化していく病で、20歳代から白髪や白内障などの症状が見られるようになります。やがて筋肉や皮膚も弱り瘦せ細って、実年齢よりも年老いて見えるようになります。早老症は遺伝性の疾患であり、現在治療法はありません。美咲はこの病気になってからあっという間に老婆のようになってしまい、そんな姿を恋人に見せたくない気持ちから晴人に別れを告げます。

 

一方、晴人はつい最近まで仲良くやってきたはずの恋人から突然の別れを告げられたものですから、納得がいきません。しかし美咲から「元カレとよりを戻した」と言われると、返す言葉がなく、真実を知らぬまま別れを受け入れてしまいます。

 

こうして美咲は亡くなるまで晴人と会うこともなく、彼を思い続けて天国に逝くのですが、出会い~別れ、そして死までの時間があまりにも短すぎて、まるで桜の花のような儚い人生なんですよね。病気になって一気に皺やたるみ、白髪が出て若さを失っていく姿も桜が葉桜に変わっていく様と似ていて、人はどうして花を咲かせたままでなければ価値を感じないのだろうと寂しくなります。

 

 

と、まぁこんなことを、早く咲いて、早く散ってしまった今年の桜から連想してしまったのですが、書いているだけでも虚しくなってしまい、満開の桜を直視できませんでした。この本を読むと、満開の桜よりも既に役目を終えたほうの桜に目がいくんですよね。私はあなたを見ているよ、って伝えたくなる。それに何の意味もないけれど、犬の散歩コースには桜の木がたくさんあるので、季節関係なく眺めています。(それでも桜が咲いているときの木が別格の美しさを誇っていることに変わりありませんが)

 

この物語の何が辛いかって、美咲が亡くなる少し前に、病気のことを知った晴人が彼女を探しに行くシーンがあるのですが、晴人は美咲と再会するものの、目の前にいる人が愛する人だと気づかずに去ってしまいます。その時の美咲がかわいそうで。晴人からすると20代の美咲しか知らないので、目の前にいる老婆が美咲だと気づけなくても仕方がないのですが、中身は変わらなくても見た目が違うと同じものではなくなることを突きつけられたようで泣けてきます。

 

ただ、晴人はそんな中でも「変わらないもの」を見つけます。どうしても変わってしまったものもあった中で、これだけは変わっていないものを見つけ、美咲にプレゼントします。残念ながら、美咲は亡くなってしまいますが、最期に恋人からの「変わらないもの」をプレゼントしてもらい旅立つのです。

 

その「変わらないもの」が登場するシーンは見どころなので、未読の方はぜひ読んでみてください。感想だけ読むとコテコテの恋愛小説なのかと思われがちですが、晴人がポンコツのド天然キャラというのもあり、台詞なんかはほとんどギャグか!!というくらい明るい文章になっています。

 

だって自分で自分のことをイケメンの絞りカス以下のゴミ野郎とか、仕事でミスした時には反省の意味を込めて全身にお経のタトゥーを彫りたいと言ったり、変な人なんです。

 

一応、悲しいだけでなく、コミカルな要素も満載なのでもう少し桜の余韻に浸かりたいという方は、サクッと読めてしまう一冊なので手に取ってみてください。恋愛小説の、特に王道のど真ん中が好き!という方にオススメです。

 

 

 

 

以上、「桜のような僕の恋人」のレビューでした!