「光のとこにいてね」

 

大切な人に向けて、”あなたは光の当たる場所で人生を歩んでね”

 

このタイトルはあまりにも上手すぎると思いました。

 

小学校2年生、高校1年生、そして29歳。人生のあるタイミングで数回しか会ったことのないふたり。それにも関わらず、互いに人生を変えるほどの強烈な印象を残し、何度離れても再び縁によって引き寄せられる―

 

 

 

あらすじ

 

結珠と果遠が初めて出会ったのは、ふたりが小学校2年生の時でした。結珠が母親に連れられ、果遠が暮らす団地にやって来たのがきっかけです。結珠の母親は毎週水曜日になると団地に来ては、用事が済むまで外で待っているよう娘に命じていました。怖い母親に逆らえない結珠は暇を持て余しながらも、言いつけを守っていたのですが、ふと視線を上に向けると団地の建物から女の子が落ちそうになっていました。

 

それが後に運命の相手となる果遠です。この時、果遠は落ちそうになっていたわけでも、飛び降りようとしていたわけでもないのですが、結珠が落ちそうになった果遠を助けようとした勘違いから、ふたりは友達になりました。その日から毎週水曜日になると果遠と遊ぶようになった結珠ですが、そんな楽しい日々はまたもや母親の都合で終わってしまい・・

 

ふたりの最初の別れは、果遠が家から忘れ物を取って来るのを結珠がひとりで待っている時でした。いつもより用事を早く済ませた母親が慌てたように結珠の手を引っ張って、連れて帰ったのです。結珠は果遠に黙っていなくなってしまったことに罪悪感を覚え、次に会った時に謝ろうと決めていましたが、その日を境に母親が団地に行くことは二度とありませんでした。

 

 

 

ポイント

 

実はあの日、ふたりが交わした最後の言葉が「光のとこにいてね」でした。忘れ物を取りに行く果遠が「そこの光が当たっているところで待っててね」と結珠に言ったのが最後。ふたりはこの後、高校1年で再会するのですが、いつだって別れる時は突然で、最後の言葉は「光のとこにいてね」となっています。なので作中に何度も「光のとこにいてね」という言葉が出てきます。これが出てくると、あぁお別れだとわかって悲しくなってしまいます。そしてふたりが年齢を重ねるに連れて、だんだんと「光のとにいてね」の意味が深くなっていくところに本書の核心があるのだと思います。

 

 

 

感想

 

貧しくて、好きな男の色に染まり切ってしまう自由人な母親を持つ果遠。裕福だけれど娘に無関心で愛情のない母親を持つ結珠。ふたりは生活レベルは違えど、家族と縁がない子供という共通点は一緒でした。基本的に性格も真逆なのに、互いにないものを持っているため、不足しているところを補い合う関係でもあり、私にはこれがソウルメイトってやつなのかな?と思えたり。

 

実際のところどういう話だったのかわかりませんが、恋愛感情とは違う気がするし、だからといって友情より強い感じもするふたりの関係。ふたりにはそれぞれ夫もいるし、決して彼らを愛していないわけではないし、もちろん嫌ってなんかもいない。けれども、やはり自分に必要なのは大切な友人の存在。自分が理解できて、理解してもらえるのは、あの子供時代から自分を知ってくれているお互いだけ。

 

果遠と結珠の関係は、出会った頃から今までずっと家族のようなものだったのかもしれません。本当の家族がその役割を果たしてくれなかった代わりに、友人が最大の理解者であった。それがただ同性同士だっただけで、それ以上でも以下でもない。そばにいて支えて欲しい、支えたい、守りたいと思ったのがたまたま彼女だったというだけ。

 

そう考えると、これは恋愛や友情という類の話ではなく、人が生きていく上で必要なものは何かという話だったのだと思います。必ずしも人生のプランの中に、恋愛や結婚というのがなくても良くて、女ふたりで一緒に生きるというのも、またひとつの生き方なんじゃないかなぁと。恋愛で満たされたり、救われる人はそれでいいのだけれど、中にはそれでダメになったり、問題を解決できない人だって当たり前にいる。

 

人を好きになれても、それで自動的に強くなれるわけでもない。自分が自分らしく、そして安心して心から楽しいと思える場所が本来の居場所なのではないか。それが果遠と結珠の関係なのではないかなぁと思いました。

 

特に親の色恋沙汰で苦労している子供は、恋愛に何かを託すってことが難しいのでは?とも思うんですよね。

 

この人も頑張っているから、私も頑張れる。そういった気持ちを恋愛感情以外で持ったことのある人は多いはず。たとえ離れてもいても、その存在がいると思うだけで生きられる、そこには何よりも強い絆があると信じられる。

 

愛し方には色々な種類があると思うけれど、恋愛だけが愛し方ではないよというのがこのふたりから伝わって来ましたね。

 

29歳で再会する果遠と結珠ですが、最後にまた別れのシーンが訪れます。

 

黙って旅立つ果遠を追いかける結珠。

 

ここには結局「別れた」と「追いつけた」の両方を想像できる展開があるのですが、みなさんはどう思いますか?

 

私は何度離れても、ふたりは再会する運命にあるのだと思いました。

 

距離的にずっと一緒にいることはなくても、心の中には互いがいる。そう思っている限りは偶然の再会を繰り返す。夫にはかわいそうだけれど、それはまた別な愛情ということで。(ただふたりの夫は彼女たちに光を与えてくれた存在だとは補足しておきます)

 

一穂ミチさんは今、凪良ゆうさんや町田そのこさんくらい注目されている作家さんですが、正直これまであまりハマることができなくて、自分がおかしいのかな?と思っていたのですが本書は面白いと胸を張って言えますね!ぜひ未読の方は手に取ってみてください!

 

以上、「光のとこにいてね」のレビューでした!

 

 

 

『スモールワールズ』を超える、感動の最高傑作 たった1人の、運命に出会った 古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。 彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。 どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。 運命に導かれ、運命に引き裂かれる ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語

 

 

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