初読みの作家さんです。鈴木涼美さん。1983年生まれ。大学在学中にAVデビュー。その後はキャバクラなどに勤務しながら大学院に通い、修士論文に書いた『「AV女優」の社会学』を書籍化。小説『ギフテッド』は第167回芥川賞候候補作。なかなか異色な経歴を持つ今大注目されている女性のひとりです。

 

 

そして今回ご紹介する『グレイスレス』も第168回芥川賞候補作ということで、とても、超、芥川賞っぽい作品です。あらすじは、ポルノ女優にメイクを施す仕事をしている「私」が、普段は森の中に佇む邸宅で祖母と静かな暮らしをしているというもの。そのあまりにも対極的なふたつの世界が繊細に描かれているのが本書のみどころになっているのですが、まぁ解釈が難しくて終始ヘルプミー状態で読みました。

 

 

聖なる月と書いてミヅキという名の主人公と、その聖なる月にメイクされるポルノ女優の聖子。どちらも「聖」という字がついていながら、それとは対極にある「性」の世界で生きているところが興味深い。しかし「聖」と「性」の境界線には狭間があるようで、実はとても曖昧で・・までは何なく読めましたが、アダルト業界のリアルやそこで働く女性の心理、こればかりは想像で読むには限界がありました。

 

 

「私」は自分の名前を嫌っていて、聖なるものを排除して生きているように見えつつも、女優のメイクをする時には「どうして自分は鏡の前の椅子の後ろに立っているのかと、どうしてその椅子に座らないのか」と自問自答しています。別に自分が女優になってもおかしくないのに、なぜ化粧師の側にいるのかと。やはりそこには倫理観みたいなものがあるから?

 

 

「私」は化粧師として人工美を作る手伝いをしたり、自分の家の十字架を外した枠痕を眺めることで、自分の中の矛盾した罪悪感を埋めていたのでしょうか?

 

 

化粧師の仕事とメルヘンチックな祖母との暮らし。フェミニストな母と女を楽しむ祖母。涙と体液で崩れたメイクとキープされたメイク。新人女優の白い肌とベテラン女優の焼けた肌。光の当たる場所とそうでない場所。しかし白は一瞬で黒に覆われるし、黒も白に塗りかえることができるほど、その境界は脆い。白には純白なイメージがあるけれど、そうではないんだなぁと本書を読んで納得。主人公が色に敏感なのはもちろん、私はそこまで物事を対比して見たことがなかったので、ハッとさせられっぱなしでした。

 

 

そうそう、本書にはたくさんの色が出てくるはずなのに、脳内ではずっとモノクロで物語が進行していくのが不思議でしたね。それはやはり対比しているものが実は同じ延長線上にあるということを無意識に感じ取っているからなのでしょうか。

 

 

グレイスレスは日本語で「品がない」「見苦しい」といった意味だそうです。これは何を表しているのでしょうね。

 

 

ん~。レビューしておきながら、半分も理解できていない気がします。ちゃんと読めないと失礼な気がするので、めでたく再読必須な本の仲間入りに決定しました。登場人物の男性たちに存在感がないところも普通の小説によくある排除とは違う気がしたので、もう少し考察してみたいと思います。

 

以上、「グレイスレス」のレビューでした!