少し前にこれから読みたい本として紹介したエドワード・ブルック=ヒッチングさんの「キツネ潰し 誰も覚えていない、奇妙で間抜けなスポーツ」。
あれから時間をかけてちまちま読んだので、さっそくレビューしたいと思います!
<書籍紹介>
かつて多くの人が熱狂した、今ではありえない娯楽の数々。100近い奇妙なスポーツ・遊び・競技を紹介。
ここに載っているほとんどのスポーツが廃れていることに、現代の動物や医者は胸をなでおろすに違いない。かつてのスポーツや遊びには、現代では信じがたいほど倫理観に欠けていたり、危険過ぎたりするものがある。そういったものを中心に、今ではもはや忘れ去られてしまったスポーツを取り上げ、当時の文献を参照しつつ、どのようなものだったのかを紹介する。
本書では、主に次のようなスポーツ・遊び・競技を取り上げる。動物や人間を虐待したり軽んじたりするような、「残酷」なもの。命を落とすことも多い「危険」なもの。複数の競技をかけ合わせたり、思い付きで始めたりした、「ばかばかしい」もの。さらに、かつて遊ばれていた、「素朴」なもの。
著者は『世界をまどわせた地図』『愛書狂の本棚』(日経ナショナル ジオグラフィック刊)などの人気シリーズを持つ、古書の収集家。大量の古書や古美術を参照して、野蛮で愚かな時代に人気を博した、奇妙な娯楽をユーモアを交えて紹介する。
こちらは表題通り、古い時代にあった超ありえない残酷なスポーツをまとめた1冊になります。全部で98種以上のスポーツや娯楽がただひたすら紹介されているので、めずらしく一気読みではなく、毎日少しずつおバカな博覧会を見学するように読みました。
感想としては、「ヨーロッパの貴族やべえ、昔の人間やべえ」でした。ちなみに表題が「キツネ潰し」なので、動物を虐待するようなスポーツだけが載っているのかと思いきや、それだけでなく普通に危険な娯楽や競技も載っており、非常にアホらしい。しかし、スポーツという言葉は本来「気晴らしをする、楽しませる、喜ぶ」という意味のため、現代人の私がイメージするスポーツと古の人たちが行っていたスポーツは違って当然なのでしょう。正直ドン引きの連続でした。
モラルもクソもない、日々のうっぷんを晴らすような謎のスポーツ。当時の人の文化や価値観に理解を示そうと思いながら読んでもチットモ共感できませんでしたが、以下に印象に残ったスポーツや娯楽をレビューしたいと思います。
それでは、どうぞ。
<残酷部門>
クマいじめ
これはクマを犬の群れに襲わせて虐待する英国の見せ物で、19世紀まで行われていたそうです。クマは事前に爪と犬歯を抜かれ、首輪と足掛けをつけられた状態で闘技場の中心にあるポールにつながれ、5、6頭の犬と勝負をさせられます。ひどい時代は鼻輪までつけられていたそうで、どう考えてもクマのほうが不利なんですが、観客はどちらが勝つかで盛り上がっていたとか。しかも1頭でも犬がクマに噛みつけば、犬チームの勝利という・・。また、目隠しをしたクマに鞭を打つタイプのクマいじめも存在していたそうです。
なんとクマいじめが人気すぎるあまり、多くの人が会場に押し掛けたせいで、観覧席が崩落して死人がどっさどっさ出ちゃったことも。その他にもクマを使ったスポーツや娯楽はたくさんあり、何だかなぁという感想でした。(基本的に一方の動物にケガをさせて不利な状態にしてから戦わせるものが多く、吐き気がしました)
<危険部門>
金魚のみ
これは危険だしアホやろと思いました。事の発端はひとりのハーバード大の学生が名前を売り込むため、生きた金魚をのみ込んだことでした。すると噂を聞いた他大学の学生が「ハーバードの連中が腰抜けだと示したい」という理由だけで、3匹の金魚を飲みました。その挑戦を受けたハーバード大学の学生が一気にレベルを上げて24匹飲みました。もう記録を破られる心配はないだろうと悦に入っていたのも束の間、今度はペンシルベニア大の学生が25匹飲み、次にボストン大の学生が、ミシシッピ工科大の学生が・・と、どんどん記録を破っていきました。
最終的には120匹飲んだ人の勝利となりましたが、医者や大学から条虫感染症や貧血などの健康被害を警告され、ついにはジョージ6世からも禁止されて、金魚のみは幕を閉じました。本書にはこういう系のアホな競技?娯楽がめちゃくちゃ多く載っていて、彼らの競争心はどこから来るん?と疑問でした。
<ばかばかしい部門>
スキーバレエ
これは雪上のアイスダンス(フィギュアスケート)っぽい感じで、ちょっと観戦してみたかったです。ヨーロッパのスキーヤーたちがかっこつけるためにアクロバティックなことをしていたら、いつのまにかショパンやモーツァルトの曲に合わせて表現豊かに滑走するまでに発展したスキーバレエ。衣装もド派手になり、厚化粧する人まで現れ、技もどんどん過激になっていき・・何というか、彼らは限度を知らない。勢いの止まらぬスキーバレエは、相変わらずルールも自由に変わり、気づくと命にかかわるほどのケガをする選手が多発し、あっけなく終了となりました。
他にも「ウナギ引き」という中世ヨーロッパで流行った娯楽もばかばかしかったです。これは水路にロープを張って、その真ん中に生きたウナギをつるして、ボートに乗った参加者が順番にウナギをつかみに飛びかかるというもの。ウナギ引きはもともと禁止されていた娯楽でしたが、言うことをきかない大衆は堂々と行っており、ある日警察官に見つかって注意されたところ、もみあいになり、あっというまに大規模な暴動に発展。とうとう軍隊まで出動する騒ぎになり、多くの死亡者と負傷者を出しました。
とにかく憂さ晴らししたくてたまらない時代だったのでしょうか。私にはちっともわかりませんが、この事件のときに使われたウナギは伝説となり、干からびた状態でオークションに出品されたとか。もう意味分からん。
<感想>
いかがでしょうか。さすがに動物を虐待するような酷いスポーツや娯楽はなくなってくれてホッとしましたが、個人的にはそれ以外のものでは結構見たい競技がありました。きっと今あるスポーツや娯楽も未来では同じようにアホ扱いされるのかもしれませんよね。結構廃れている競技も多いですし。
だって冷静に考えて見ると、オリンピックで金メダルを目指すようなアスリートって(失礼な話)スポーツ虐待か!ってくらい過酷なトレーニングをこなしているじゃないですか。そのうちeスポーツが主流になると、未来人からはサッカーも野球も「なんでこんな原始的で過酷なものがスポーツやねん」と言われそうです。
動物に関してもそう。愛玩犬なんて人間の娯楽用につくられた虐待犬として飼育も販売も禁止されたりして。ティーカッププードルが既に問題になっていますし、私も残酷だなと思っているので。逆に猫は昔「猫入り樽たたき」や「猫焼き」など、魔性の生き物というレッテルのおかげで散々な目に遭ってきましたが、今ではペットとして不動の地位を築いています。この本を読んで「残酷~」と言いつつも、実は自分たちも現在進行形で残酷で、危険で、ばかばかしいことをしているのが人間なんでしょうね。
ちなみに今も昔も(多分)同じ価値観で存在できそうなのが、「口論詩」です。これは即興の詩で悪口を競い合う舌戦のことで、今でいうラップバトルみたいなもの。辛辣で大袈裟なほど評価されたらしく、このとき生まれた「荷台1台分のクソを投げつけてやりたい奴」という名言がシット(クソ)が侮辱として用いられた最古の例だとか。口論詩の名残りと見られる汚い言葉は至るところに存在するらしく、こういったものは現代人もSNS等で繰り広げ、残していくのだと思いました。
以上が「キツネ潰し」のレビューです。1度のゲームで動物を殺しすぎて唖然とするし、普通にみんな笑ってるしでメンタルがおかしくなりそうですが、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
それでは、また!
関連本
「キツネ潰し」では、闘技場で人間(犯罪者や捕虜)と動物が対戦させられる娯楽も紹介されているのですが、こちらはそういった時代に同じような目に遭った奴隷男性の人生を綴った物語になっています。児童書ですが大人も読めます。残酷な歴史と残酷なスポーツ、その背景としてあわせてオススメします。