舞台は日本海側の北陸にある陸間町という閉鎖的な田舎。方言からして櫛木先生の出身地である新潟県だと思われます。睦間町がどんなところかというと、いまだに村八分があるような狂気の地。よそものを一生よそものとして扱い、いじめ抜く、旧世代の人間が集まり、生き残る町です。

 

この地に引っ越してきた梅宮正樹は、田舎ではまだ通用する「先生」という職業のおかげで、よそものでありながらも尊敬され、良い扱いを受けています。しかしこの男の正体はクズ。要介護の母を妻と高校生のひとり娘に世話をさせ、自分は自宅に帰らず介護から逃げています。

 

それだけではありません。梅宮は長年母親が妻をいびり続けた挙句、うつ病にした後、その罪悪感から妻と向き合うことからも逃げ続け、その冷え切った関係を周囲にはすべて妻のせいだと言いふらしています。こんな男がよそものでありながらも受け入れられている一方で、よそからお嫁に来た倉本郁枝とその子どもたちは村八分に遭い、酷い暮らしを送っています。

 

倉本家は主人が不審死を遂げた際に、妻である郁枝が「よそもの」という理由から誤認逮捕された過去があり、疑いが晴れて釈放されてからもずっと睦間の住人たちからいやがらせを受けています。

 

この町では喧嘩神輿という異様な伝統の祭りがあり、血の気盛んでイキリちらした町の男衆が喧嘩上等の騒ぎを起こして毎年死亡者を出しています。ある夏の日、祭りでヒートアップした男たちが倉本家を襲い、日頃の鬱憤を晴らした結果、家は崩れ、郁恵は重傷を負ってしまいました。信じられない話ですが、この町では何か都合の悪いことや、事件があるとすべて倉本家のせいにする習慣があり、この家の住人には何をしても許される空気さえ存在しています。

 

当然、この襲撃事件も睦間では「なかったこと」にされ、倉本家の人間は町から逃げる事も禁止され、口封じされてしまいます。そして町役場のシンボル像のゴーガイルが何者かによって破壊されたときも、神社の狛犬が破壊されたときも、猫が殺されたときも、今も尚、全部倉本家のせいにされ、嫌がらせを受け続けています。

 

もちろん、これらは倉本家のせいではありません。もともとこの町にはクズがたくさん住んでいて、そいつらのせいなのですが、誰もがそれに気づいていながらも知らんぷりをしています。

 

この町で一番のクズは、源田直爾という前科持ちの殺人犯で、彼は殺された息子の敵討ちとして隣町に住む犯人を殺したことから英雄視されています。まったく理解できませんが、この町ではよそものを殺したことが誇り高いことになっているのですね。直爾は学生時代からの彼女の真保美と結婚し、現在は酒浸りの無職ですが、消防団の団長という地位だけで、とてつもない権力を持っています。

 

この夫婦は学生時代からの超問題児で、彼らのせいで不登校からのひきこもりになったクラスメイトも多く、現在も真保美が率先して倉本家に嫌がらせをしています。実は彼女、亡くなった倉本のご主人に片想いをしていたものの、願い叶わず源田の女止まりだった苦い過去があり、妻である郁恵に嫉妬しています。

 

学生時代は直爾の女であるだけで、色々な特権を持ち狭い田舎で威張れた真保美ですが、40代にもなる頃には自身が馬鹿にしていたクラスメイトたちが進学を機に田舎から飛び出して、一流企業に就職し、裕福な生活を送っている現実を知り、腹が立ってしかたがありません。

 

このように、睦間町には他にも源田夫婦のような人間が集まっており、「どいつもこいつもバカだな」としか本当に言いようのない状況です。今時ないくらいの男尊女卑も健在で、老人たちはプライバシーもクソもなく勝手に人の家に入って家の中を物色するし、あることないこと噂話もひどい。

 

もう、一冊まるまるとイヤ~な出来事尽くし。読み切るには体力が必要ですよ。途中で私、なに読んでるんだろってなりますもん。

 

絶対にこんな町に住みたくない!!!と心から思います。

 

ネタバレはしませんが、各人物のクズエピソードをぜひ読んでほしいです。おそらく源田ファミリーが嫌われランキングのトップに君臨すると思われますが、個人的には梅宮のばあさんを推薦しておきます。

 

それにしても令和にもこんな町や人っているのかしら?

 

以上、「避雷針の夏」のレビューでした!

 

 

 

 

 

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