終始イラついて仕方ないと噂の本書。一体どんな物語なのか気になって読んでみることにしました。
<あらすじ>
手芸店・八戸クラフトに勤めて10年の紬(つむぎ)は、毎日の小さなモヤモヤにつぶされそうになっていた。リスペクトのない職場、ご都合主義の彼氏、微妙な親子関係…気にし始めたらキリがないから、すべてに慣れてしまうのがラクだ。すべてにフタをしながら生きていけばいいのだ。 でも、手芸台につけられたタバコの焦げ跡を目にしたとき…このままでいいのか?30歳・紬の「自分を取り戻す」物語。
★★★★★
まず私が本書に抱いた第一印象は、イラつくではなく、なんて可愛らしい本なの!!でした。
理由①
主人公の趣味が羊毛フェルト。しかも作品がいちいち可愛い(のが文章から伝わってくる)
理由②
作品のモデルとなる犬や猫のエピソードや描写が鬼可愛い
確かに物語には一部イヤーな人が登場するのですが、それをどうでもいいと思えるほど癒される可愛さが存在しています。
ザクっとどんな物語?
主人公の紬は自己肯定感の低い女性。勤務先の手芸店では超性格の悪い上司から長年嫌がらせを受けています。また、プライベートではヒモ彼氏の言いなりで、大切な羊毛フェルトにタバコの灰をこぼされたり、お金を要求されたりしています。しかしそんな紬も羊毛フェルトを通して出会った湊親子や彼女の作品を絶賛してくれる義理の妹の支えと共に少しずつ前向きな自分を取り戻していきます。
<感想>
職場のシーンでは時間外労働をさせらているのに「会社のためなんだから」と言われ、手当てを貰えなかったり、会社から命じられた作品作りの材料費さえ自前にしろと強制されたり、これってパワハラじゃない?と思うことが多々ありました。
彼氏においてはクズとしかいいようのない典型的なクズで、こんなのといてもマイナス要素しかないだろうとイライラよりも、ハラハラして読んでいました。
ただ、紬は幼い頃から自己主張の苦手な子で、我慢強い子でもありました。そのせいで嫌な思いをしたことも数知れず。自分に自信を持てないまま大人になって、現在に至ります。
だからか、紬はどんなことを言われても受け入れてしまうようなところがあり、自分に優しくすることができません。しかし紬は何か嫌なことがあっても、それを汚い言葉で消化したり、ネガティブな考えで埋めてしまうことを禁止しているため、どんな時も水に流すようにしています。
私は紬のこういうところを必ずしも悪いとは思えなくて、むしろ人間出来てるなと感心したくらいなんですが、やはりパワハラ上司とクズ彼氏にけちょんけちょんにされている紬を見ていると、もう少し反論しようよ~と、もどかしい気持ちにもなりました。
髙森作品の主人公には、私がついつい口出ししたくなるようなもどかしい子が多いのですが、紬のことは彼女自身が自分を乗り越えようとしているところや健気な姿を見ると応援したくなり、好感が持てましたね。ゆっくり、じっくり考えて前向きになっていく、ひとりの女性の心の動きが丁寧に書かれた素晴らしい作品でした。
ここがオススメ
紬と羊毛フェルトを通して出会った湊親子が良い人でホッコリします。特に息子の日向くんが小3とは思えぬほど聡くて、真っ直ぐで良い子なんです!このキャラクターがいるかいないかだけで、かなり物語の雰囲気が変わるくらい大事な役割を担った子です。
紬の弟夫婦も家族の幸せをいつも願っている良い人たちです。紬が痛めつけられるシーンが続く中でも、最後まで読めるのはこのような人物たちのおかげです。特に弟くんの生き方、考え方には尊敬しかありません。
こんな人にオススメ
紬は入社3年目の後輩が例の上司が嫌いだという理由で、あっけなく退職しようとしている姿を見て、自分が10年我慢していることを3年で切りかえようとしていることに驚きます。また、自分が10年間毎日同じ生活を続け、同じことに悩んでいる間に、弟は結婚し、子どもが生まれようとしていることに絶望しています。周りは変化し、前に進んでいるのに自分はいつまでも同じ場所に留まっていていいのだろうか。こんな風に一歩先に進みたいけれど、怖気づいてしまっているアナタにオススメします。
何でも長続きしない私からすると、10年後も同じことを誠実にこなせている紬みたいな人こそ強いと思ってしまいます。こればかりはないものねだりだなぁ。
<まとめ>
最初は紬がこんなに自己肯定感が低いのは、両親との関係が上手くいっていないとか、機能不全家族で育ったからとか、そんなのが原因なのかなぁと思わせるシーンがあるんですよ。でも、実際はそうじゃなかった。最後まで読むと、そこには愛しかないので、ぜひ読んでみてください!
最後にお気に入りフレーズを紹介しておきます。これは義妹の直美ちゃんが紬に送ったエール。
お義姉さんはもうちょっと火を外で焚いたほうがいいと思います。お腹の中だけで燻ってると自分自身を焼いてしまいますよ
以上、「羊毛フェルトの比重」のレビューでした!
この本を読むと羊毛フェルトに挑戦したくなります
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