今回ご紹介するのは、江川紹子さんの”「カルト」はすぐ隣に オウムに引き寄せられた若者たち”です。
Amazonレビューでオウム関連の本を探しているとよく見かける「私は元信者です」という書き込み。本書のレビュー欄にも「僕はこの本が速やかに電子書籍化され、学校の夏休みの読書感想文の課題図書に選定されることを望みたい」という書き込みがありました。他の本では「こういう書き方だとまた洗脳される人が出てしまう」というような批評があるのですが、本書にはそういったものがなかったので読んでみることにしました。
家族や友人とのつながりを捨てて、「オウム」に入信し、陰惨な事件にかかわっていった若者たち。一連の事件がなぜ起きたのか。凶悪な犯罪を起こした彼らは、特別な人間だったのか。長年、事件を取材してきた著者が、カルト集団の特徴や構造を浮き彫りにし、集団や教義を優先するカルトに人生を奪われない生き方を説く。
※YA本です
<感想>
”「カルト」はすぐ隣に”とあるように、かつての信者たちがどのようにオウムにのめり込んでいったのかが詳しく書かれています。
それを読むとほとんどの元信者が気づいたときにはいつの間にか入信しているといった感じでした。
オウムに入信した友人を脱会させるつもりで話を聞いたり、薦められた本を読んだりするうちに、自身まで興味を持ってしまった人。店頭でパラパラと読んでいた麻原の本に書いてあった神秘体験と同じ「体験」をしたことで深入りしてしまった人。現代医療では救えない患者のために少しでも「死」への恐怖心をやわらげてあげようと宗教で死後の世界を学ぼうとした結果、オウムに捕まってしまった人。
彼らはオウムにハマる前までは、カルトに否定的で、どちらかといえば嫌っていたような人たちでした。しかし、困っている人を救いたいという気持ちにつけいったり、単なるストレス反応で起きた脳の異常を神秘体験と偽って錯覚させるなどして、いとも簡単に信者にさせられてしまいました。
ここには当時オカルトだの超能力ブームだのが一世風靡していた背景も大きく影響しているのですが、人は誰しも「選ばれし者」や「特別な人間」といった言葉に弱いことを知って、巧みに勧誘していたことがわかります。これは占いと一緒で私たちは「求めている言葉」を言われてしまうと、その人に救われたような気持ちになるのでしょうね。そんな意味でも「カルトはすぐ隣にある」というのはよく分かる気がします。
ハッとさせられたのは、「カルトへの入信は、部屋の模様替えに似ている」ということ。自分の部屋にあるもので問題解決できないときに、見たこともない調度品を渡され、家具を入れ替えたとします。すると、新しい家具のせいで部屋がみすぼらしく見えてしまい、次は壁紙を替えます。そうなってくると、他の家具も新調しないとバランスがとれなくなり、結局すべて取り替えて、いつのまにか自分らしい部屋からカルト部屋になってしまいます。(P195参照)
こわいですよね。これがマインド・コントロールのはじまりです。オウムの元信者たちも最初はおかしいなと思っていたことも、睡眠時間を削られたり、情報を制限されたり、社会とのつながりを断たれるうちに、自分のアタマで考えることができなくなってしまいました。
全財産をお布施してしまった人たちも、「お金に執着していて地獄に堕ちる人を、お布施をさせて徳を積ませてあげる」という考えに納得できたからで、完全に思考回路をカルトの価値観によって支配されていました。
では、どうしたらマインド・コントロールをされないのか、カルトから身を守れるのか。それについては紀藤弁護士が注意書きをしてくれています。
①お金の話が出たら要注意
②話が最初と違っていたり、何らかの嘘が含まれている
③「これは誰にもいってはいけない」など秘密を守らせる
それでも気づけない人がいたら、ここに注意してみてください。それは「studyとlearn」の違いです。
studyには「研究する」という意味もあるだけに、自ら疑問を持ち、課題を見つけ、多角的に検証することをいいます。一方でlearnは単語や表現を教わり、繰り返し練習するような学習のことをいいます。
「studyを許さず、learnばかりさせるところは、気をつけなさい」
これは、ダライ・ラマ法王の言葉でもあります。つまり自分のアタマで考えさせないやつとは距離を置けということですね。その人はあなたを支配しようとしている!カルトと限らずどこでもそうだと思いました。
中川さんは、「人間の心は、特異な環境に置かれれば、残酷な行為もしてしまう弱さを持っているため、まずはこのような環境に陥らないように努めることが大事」だといいます。
弱っているときに、それを楽にしてくれる存在がカルトしかない状況というのがマズイわけで、本来なら身近にいる友人や家族、身近ではなくとも手をかしてくれる社会があれば何の問題にもならないのでしょう。
その人がそれで救われるなら何を信じようが自由かもしれませんが、自分が信じているものが多くの人を傷つけているのなら、少しは疑ってみたほうがいいですね。もしかしたらそれは、あなたが彼らを信じていられるようにコントロールしているだけで、あなた自身の考えとは違うのかもしれません。
以上、「カルト」はすぐ隣にのレビューでした。
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