この度、わたくしは、百合小説という未知なる世界へ飛び込んでしまいました。
今までは「百合」がテーマではない小説の中に、ちらっとサブキャラでそういった間柄の子たちがいるシーンなんかは結構あったのですが、ガッツリ百合というのはおそらく今回が初めてでございます。
しかもアンソロジーで。私が苦手な短編集での初・百合小説。
正直、今まで読んだアンソロジーの中で一番満足度が高かったです。短編なのに長編を読んだときと同じ読み応えがありました。七編それぞれの物語に変化があって退屈せず、色んなかたちの「百合」が読めて、とても面白かったです!
“百合"って、なんだろう。新時代のトップランナーが贈る、全編新作アンソロジー
彼女と私、至極の関係性。“観測者"は、あなた。珠玉の7編とそれを彩る7つのイラスト。究極のコラボレーションが実現!
各編で使用されている扉絵のイラストにも拘りアリ。物語の個性に合わせて、イラストレーターを変えているのが新鮮でした。
面白度★★
「微笑の対価」 相沢沙呼
殺人遺棄を軸とした百合物語。秘密で繋がる関係は恋なのか、それとも裏切りを恐れた監視なのか。ちょっぴりヘビーな展開でした。
「九百十七円は高すぎる」 乾くるみ
憧れの先輩が九百十七円で何を買ったのか後輩が謎解きをする物語。好きな人と同じものを共有したい気持ちは男女関係なく共感できますが、後輩の執念が凄すぎました。
面白度★★★
「椿と悠」 織守きょうや
これが一番ベタな百合でした。ひとりの男の子を巡るふたりの女の子の切ない勘違い。こういう王道こそが胸にガンガン響く不思議。なんか女の子同士の恋愛って清らかで美しいことが判明し、心に百合の花が咲くイメージがしましたよ(笑)
面白度MAX
「百合である値打ちもない」 斜線堂有紀
ワーウォントナイツ(フォートナイト的なゲーム)を通して出会ったノエとママユ。ふたりはママノエという名前でチームを組んで大会に出場していたある日、STLGAMESからスカウトされ、プロプレイヤーとして活動することになりました。しかし、ママノエで事務所に所属したにも関わらず、美人のノエにばかり仕事のオファーが集中。おまけにSNSでは相方のママユに対し、ノエと容姿が釣り合わないという誹謗中傷のメッセージが並ぶようになり・・・。ルッキズムと百合をテーマにしたこの作品は、現代社会の問題を多く取り入れつつも、上手くまとまった完成度の高い短編でした。
「上手くなるまで待って」 円居挽
大学時代に文藝連合に所属していたなぎさは、先輩の繭から「文藝バトル」をさせられていました。「文藝バトル」とは、文藝連合の中で行われていたイベントで、参加者が与えられたテーマに沿って短編を書き、サークルから選出された審査員たちに評価してもらうというものです。なぎさはそこで、繭の指示に従ってライバルの弱点を突く作品を書き、ボコボコにし続けた過去がありました。こうして向かうところ敵なしのなぎさでしたが、繭の卒業後はスッパリとサークルを辞め、筆を折り、就職先も文章とは無関係の会社を選びました。文藝連合の誰もが勝てないと認めたなぎさに一体何があったのでしょう。彼女が筆を折った理由は?これは予想外の結末で面白かったのと百合への持っていき方が秀逸でした。
「馬鹿者の恋」 武田綾乃
こちらも「椿と悠」と同じく正統派な百合でした。千晶は小学校の頃から同級生の萌に好かれていました。千晶は萌の好意をうざがりつつも、なんだかんだで受け入れていましたが、高校生になったある日、坂見司というイケメン女子が転校してきたことで状況が一変します。萌はそっけない態度の千晶よりも優しい司と行動を共にするようになり・・・。
うーん、これは百合でなくとも、女同士だと親友をとられた気分になって嫉妬するパターンはありますよね。私はこのパターンに何度も出くわしたことがあります。萌みたいな子が絡んできて、あまり好きじゃなくてウザいと思っていたなぁ。一方的に好かれているだけだったのに、私が他の子と話すと相手に意地悪をしたり。あれって今思うとそういうことだったのかな。かなり重い手紙を貰った記憶があります。
「恋澤姉妹」 青崎有吾
恋澤姉妹というめちゃくちゃ強くて、世界中の誰もが倒せない日本人がいる。この姉妹にコンタクトを取った者、情報収集をしようとした者、近づく者すべてが殺されてしまうらしい。そんな姉妹を殺したら英雄になれると、あらゆる組織や変わり者が戦いを挑みに姉妹宅へと訪れる。この物語は恋澤姉妹に決闘を挑んだ女上司の足取りを追う部下の旅である。
なーんて、少々緊張感のあるシーンが冒頭から続きます。しかし実は一番「愛」って感じの物語かもしれません。
<感想>
同性愛も異性愛も片想い、両想いの切なさは同じなんですが、百合は相手への思いやりや優しさが繊細で壊してはいけない感が凄かったです。初恋が永遠に続いている感じっていうのかな?もう、エンドレススウィート。心の繋がりが強固というか、結束が強いんです。
どれも再読したいくらい楽しめたのですが、特にお気に入りだったのが面白さMAXに選んだ作品です。
円居挽さんの「上手くなるまで待って」は、どこが百合なんだろう?と探りながら読んで、ラストに「そういうことか」と来る展開が面白さMAXのポイントでした。自分の才能を弱い者いじめに使うなんてもったいないし、そんなことをさせる先輩もどうかしてるよ!でも実は・・・みたいな。ここはぜひ本書を読んでいただきたいですね。
斜線堂有紀さんの「百合である値打ちもない」は、ルッキズム×SNS社会×百合をコラボさせたある種の社会派短編みたいなところがMAXポイントでした。タイトルも「どういうこと?」と、興味を引くし、文句なしに面白かったです。
プロゲーマーの世界といえば、タイムリーにこんな記事が出ていたのもあって、色々と考えるものがありました。
日頃からDMで『学校やめてプロ目指したいです』という相談を持ち掛けられるプロゲーマーのta1yoさん。彼は相談者に対してこう答えます。
「プロは目指すものではないです。気づいたらなってます。学校いきましょう」
また投稿に「結局時間ある暇人がプロになれる」という声が寄せられた際には、「俺は普通の高校行きながらプロやってました、環境のせいにしないように」と答えています(現にta1yoさんは慶應出身)
この記事のコメント欄も読んでいただきたいのですが、プロってそこに到達したら成功=終わりではなくて、プロになってからこそがスタートなんですよね。学校に行きたくないからゲーマーになるとか、プレイ時間さえ確保すればプロになれるとか、それはちょっと甘い考えなわけで。
残酷な話、上手いだけではお金は稼げません。上手い人しかいないプロの中で、ゲームしかできない人は埋もれてしまうだけ。世の中、その他大勢の中で飛び込んで戦うなら、プラスアルファがなければ存在を見つけてもらうことすら難しい。何が正しくて正しくないのか前に、そういう構造になっている。
「百合である値打ちもない」では、ゲームも上手いけれど、それ以外にも武器を持っていたノエに仕事が集まってしまう現実が書かれていました。ママユに対するSNSでの悪口は許されることではありませんが、ノエがこういうかたちで売れていくのは、キレイごとなしで言うと非常に現実的なことです。
スカウトに積極的だったママユと消極的だったノエ。しかしプロになった後、ママユはその現実に傷つくことになりました。
甘い期待は毒になる。
そんなことも含め、現代にうろついている細かな問題をさりげなく扱った短編から、王道百合小説まで何でも揃った本書は、特別に百合が読みたい人でなくとも楽しめる一冊になっています。
一編ごとに気分を変えたいアナタにおすすめorちょっと変わった本を読みたいな~という人にもおすすめなので、ぜひ手に取ってみてくださいね。
以上、「彼女。」百合アンソロジーのレビューでした!