めちゃくちゃ面白かったです、この本。
「あの日、君は何をした」って、「何をしたんだよ!」と聞き返したくなりませんか。
<あらすじ>
『完璧な母親』著者が放つ慟哭のミステリー
北関東の前林市で平凡な主婦として幸せに暮らしていた水野いづみの生活は、息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていた大樹は、何をしようとしていたのか――。15年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関心に見える妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は、必死で辰彦を探し出そうとする。刑事の三ッ矢と田所が捜査を進めるうちに、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵が明らかになる。
『完璧な母親』で最注目の著者が放つ、慟哭のミステリー。
本書は別の年と場所で起こった二つの事件が一部と二部で分かれています。一部は全体の三分の一程度なんですが、それが出だしから読ませてくる、読ませてくる。内容は決して楽しいものでありませんが、家族が抱える闇の正体が気になってページをめくってしまうこと間違いなしです。
一部
一部は前林市で起きた中学生の事故死について。どこにでもいる父母姉弟という構成の幸せ四人家族。両親はやさしいし、子供たちも何の不自由もなく育ってきたはずなのに、ある明け方警察から家に一本の電話が入ります。
それは、昨夜いつも通りの時間帯に自室に寝に行ったはずの息子が深夜に事故死してしまったという連絡でした。しかもパトカーに追いかけられた際の事故死だと言われ・・・
実は近辺で連続殺人犯が逃走しているとの情報があり、不幸にも息子はその場に居合わせてしまったことで、警察から犯人だと間違われてしまいました。パトカーを見た息子は自転車で逃走をはかり、停車していたトラックに激突してしまったそうです。
しかし、犯人でなければ息子は逃げる必要はなかったはずです。家族に黙って夜中に出歩いたことが後ろめたかったにしても、適当に事情を話せば何とかなったと思われます。それとも息子は警察に疑われるような隠し事でもあったのでしょうか。
母親のいづみは突然の息子の死と不審な行動に動揺を隠せません。学校でも人気者で、成績も優秀な息子が家族に黙ってなぜそんなところをうろついていたのか。それはクラスメイトも同様で、なんであの子が?といった印象です。
自分が今まで見てきた息子の姿はフェイクだったのか。息子には親の知らない一面があったのか。
そんな時、いづみは息子の彼女を名乗る子から「大樹くんは家が窮屈だったと言っていました」という話を聞きます。愛する息子をの命を奪ったのは自分だったのかという罪悪感に駆られたいづみはその後、狂ってしまいます。
二部
あの事件から15年後の新宿区で若い女が殺害されます。重要参考人とされるのは、彼女の不倫相手だった百井辰彦。この事件を担当することになった刑事の三ツ矢と田所は、百井が行方不明になっていることから、さっそく百井の妻、野々子に話を聞きに行きます。
しかし野々子は夫が事件に関与していることはもちろん、いつから自宅にいないのかすらはっきりしない様子で、ふたりはそんな彼女に違和感を覚えます。
そう感じたのは辰彦の母も同じで、なぜ野々子は自分に息子の身に起きていることを話してくれなかったのだろうと不信感を抱きます。
もしかしたら野々子が不倫相手と息子を殺したのではないかと疑った母は、その日からいづみと同じように狂った行動をするようになります。
一方、刑事の三ツ矢は15年前に起きた前林市の中学生の事件と今回の事件に共通点を見つけます。この時点では全く想像つかない状態ですが、ラストにようやくそういうことか!と繋がるので、気になる方はぜひ読んでみてください。
母親の狂気
本書には「毒親」が四人登場します。ひとり目はいづみ。彼女は若い頃、醜いことがコンプレックスでしたが、結婚出産を機にコンプレックスが肝っ玉母さんと逆に好意的に見られるようになり、生きやすくなります。母親であることで幸せを掴んだいづみは、幸せな家庭を築くことで周囲に満足感をアピールしていました。しかし例の事件を機に、再び何の取柄もない女になったこと、完璧な女はおろか母親にさえなれていなかった羞恥から破滅していきます。
ふたり目は辰彦の母です。彼女も息子を溺愛し、自身の子育てに自信を持っていました。そんな最高傑作である息子を冴えない嫁に渡さなければいけなかった後悔はあったものの、面倒な母でありたくない一心で良い姑を演じてきました。しかしそれも息子の失踪を機に限界がきてしまい、本性を現すことに。彼女もまた、いづみ同様に息子の歪みに気づいていない人間でした。
三人目は野々子の母です。彼女は男癖が悪く、昔からポイポイ相手を変えるような人でした。この人なりに娘を育てているのはわかりますが、そして悪い人ではないのもわかりますが、実在していたら最も毒親認定をくらいそうなキャラクターです。
四人目は野々子です。彼女はまだ毒親ではありませんが、芽があります。前の三人はリアルで話してもまだ会話になると思いますが、彼女はちょっと意思疎通が厳しそうな人かもしれません。本書の中でヤバイ度は一番低いのですが、辰彦の母や刑事たちが彼女に感じる変な印象はごもっともな気もします。
すべては妄想から
しかし、本書に登場する母親たちがおかしいのは、すべて妄想が生み出したもの。常に最悪なパターンを予想したり、自分を苦しめないために攻撃が他人へと移動してしまうのです。
母親たちの推理と言う名の妄想はことごとくハズレてしまうのですが、読者はずっと、「で、二人の息子には何があったのよ?」と気になりながら読む感じになります。そんな意味では、最後まで母親たちの妄想劇に憑りつかれる一冊です。
本書には続編があり、そこには再び三ツ矢・田所コンビが登場します
イヤミスと評価される筆者ですが、私はちょっと違うと思います。狂気だけで終わらなくて、ちゃんと人間としての体温がある感じ。怖がらせるだけではない物語でした。
それにしても親が子どものすべてを知っているわけではないことをよくわからせてくれる作品ですね。
最後まで疑心暗鬼しながら読んでみてください。
以上、「あの日、君は何をした」のレビューでした!
本書を読んで一言
お母さんが好きすぎて傷つけたくない苦労も大変ですね