今回ご紹介するのは、稲垣栄洋さんの「生き物の死にざま はかない命の物語」です。
こちらは前回レビューした「生き物の死にざま」の姉妹編になります。
<作品概要>
テレビ、新聞、雑誌、SNS等で多数紹介されたベスト&ロングセラー『生き物の死にざま』、待望の姉妹編が登場!涙なくして読めない科学エッセイ。
生き物たちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──土の中から地上に出たものの羽化できなかったセミ、南極のブリザードの中、決死の覚悟で子に与える餌を求め歩くコウテイペンギン…生き物たちの奮闘と哀切を描く珠玉の27話。生き物イラスト30点以上収載。
<感想>
今回は前回よりもセンチメンタルになってしまいました。これは完全に私の妄想力のせいなんですが・・・。
それはウスバキトンボの死にざまを知ったときでした。
別名「精霊とんぼ」
お盆の頃になると、日本各地で発生するトンボのことです。
このウスバキトンボは驚くことに、熱帯原産なんだそう。てっきり日本産かと思っていました。なのになぜ日本にいるのかというと、毎年はるばる南の国から飛んでくるからなんですね。まさかトンボがそんなに長距離飛行ができるなんて渡り鳥もプライドずたずたでしょう。
しかし、寒さが苦手なウスバキトンボは、せっかく苦労して日本に来ても、寒さに弱いため冬を越すことができません。ずっと南の国にいれば、快適な状態で一生を終えることができるのに、どういうわけか日本を目指しやって来るのです。どうせ死んでしまうというのに。
全滅しても、全滅しても、片道切符で海を渡ってくるウスバキトンボ。お盆に群れをなして日本各地を飛び回るウスバキトンボ。いったいその動機はなんなのでしょう。
私は彼らの姿が神風特攻隊と重なってしまい、切ない気持ちになってしまいます。
それは日本ミツバチも同じです。
私は日本ミツバチにもそれと同じことを感じてしまいます。しかしこれに関しては、著者の稲垣先生もまったく同じことを考えており、不思議な気持ちになりました。
日本ミツバチは小柄ながらも、世界最凶のハチとして名をはせるオオスズメバチに集団で飛びかかる勇敢なハチです。日本ミツバチは「熱殺蜂球」という技を使ってオオスズメバチの致死温度まで体温を上げ撃退します。(集団でオオスズメバチを蒸し殺す)日本ミツバチとオオスズメバチの致死温度はわずか3~4度差。下手をすれば、自らも敵と共に命を落とす危険な作戦でもあるんですね。
私たちが普段目にするハチは「西洋ミツバチ」がほとんど。明治時代に海外から西洋ミツバチがやってきてから日本ミツバチは細々と生息しています。しかし、その間日本ミツバチはぼーっとしていたわけではありません。オオスズメバチを倒す方法を発達させてきたのです。同じころ西洋ミツバチはオオスズメバチへの対抗策を持たず、あたふたしていました。
残念なことに、いくら日本ミツバチに素晴らしい作戦があっても必ず成功するわけではなく、命を落とす覚悟で飛びかかることが必須です。それでも仲間を守るためにミツバチは自分を犠牲にして、命をつなげていくのです。
私はここにもかつて国のために亡くなっていった少年たちの姿を思い出してしまいました。
前回もそうなんですが、生き物の死にざまは、やはりどこか似ているところがあるようです。生き物の世界には残酷さがつきものだと。
なにがなんだかわからないけれど、本能でがむしゃらに生きている。それがすべての生き物の共通点ですね。
死んでしまえばすべてが終わり。残酷さも何もかも。
人生とは本当にはかないものだと思いました。
生によって死はあるし、死によって生もある
色んな動物たちの死にざまを見て、そう感じた一冊でした。
※ちなみに本書で一番読んでいただきたいのは、ウシの死にざまです。経済動物としての彼らの死にざまは多くの方に知ってほしい内容です。
以上、「生き物の死にざま はかない命の物語」のレビューでした!