今回ご紹介するのは、恩田陸さんの「夜のピクニック」です。
高校時代に読んでおきたい本ランキングがあるとしたら、間違いなく選ばれるであろう一冊!それが「夜のピクニック」。
本書でも登場人物のひとりが「なんでこの本をもっと昔に読んでおかなかったんだろう。もっと早くに読んでいれば今の自分を作るための何かになっていたのに」というような台詞があるのですが、この物語はまさに高校生というタイミングで読むとぴったしの内容で溢れています。
不思議なことに、つい最近出版されたような記憶でありながら、もうかなり昔の作品(2004年刊行)なんですよね。時の流れが早すぎておそろしいです・・。しかし大人になってから読んでも共感できる内容しかなくて、どの年齢で読んでも楽しめる作品だなぁと思いました。(つまり再読すると印象がガラリとかわる本でもアリ。高校時代につまらないと思っても大人になったら面白いかもしれない?!)
繫ぎ留めておきたい、この時間を。
<あらすじ>
小さな賭けを胸に秘め、貴子は高校生活最後のイベント歩行祭にのぞむ。誰にも言えない秘密を清算するために――。永遠普遍の青春小説。
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
夕方から夜、夜から朝になる描写が素敵な一冊です
高校生にオススメ
全校生徒が一日がかりで歩くイベント「歩行祭」。物語はとある高校の歩行祭に参加する高校生たちのさまざまな心の葛藤を描いています。
・・高校時代
多くの人が入学式の日、自分なりの高校生活を描いて三年間をスタートさせたと思います。
部活に恋愛、バイトに受験勉強・・・それぞれがコレが青春だと考えるレールに沿って張り切る時期といってもいいでしょうね。しかし高校の三年間は驚くほどあっという間に過ぎてしまい、気づくと卒業間近。あれ?私はまだ何も青春していないのに貴重な高校時代が終わってしまうなんて・・と焦った人もかなりいたのではないでしょうか。
実は私もそのひとりです。
高校時代に何の青春らしいこともせずに終わちゃったな~と残念がったひとりであります。
しかし、今思うと「青春」とは一体全体なんのことを言うのだろう?と思います。
あの頃はドラマや漫画に出て来る高校生活が青春だと疑いもしていなかった私。高校生と言えば部活で汗水たらして、夏休みにバイトして、淡い恋愛を楽しみ、クラスメイトとイベントやらなんやらで盛り上がる!!毎日笑ってハッピー!!
これがなければ高校生である意味がないでしょ!くらいに思っていました。なので、リアル高校生活がほとんど勉強一色で終わってしまったことや、実際はバイトが禁止でできなかったことや、三年間クラス替え無しコースの科に進んだためこれといって交友関係も広がらなかったことが、私の中で青春できなかったコンプレックスとして認識されてしまったんですよね。
きっと、私のように自分がイメージする青春を謳歌できなかった人ならみんな同じことを思ったんじゃないかな。なんかやたらと卒業間際に恋人をつくろうと必死になる人とかいますが、あれもこの典型例ですね。
ただ、本当のところ青春って何なんでしょうか。青春とはドラマや漫画が描くようなものなのでしょうか。
「夜のピクニック」は、そんな問いかけに丁寧に答えてくれる作品です。
実は青春って、青春モデルに沿った生き方をすることではないんですよね。大したことではなくても、時間が経ったあとに思い出す景色とか、誰かの言葉とか、表情とか、においとか、そういった断片的な記憶のことをいうのだと思います。
たとえ断片的なことでも、大したことではなくとも、脳がそれを大事と判断したから記憶に残すわけで・・・。何てことのない一瞬でも、意味があったからこそいつでも思い出せるようにしたんですよね、多分。そう考えると、私も結構青春していたんじゃないかな、と思えます。
そうはいっても、高校時代にこんな風に考えられるかといったら難しいわけで・・やはり本の力を借りねばわからないことがたくさんあります。だからこそ、今の高校生にも迷いのヒントとして本書をオススメしたいなーと思い今回レビューに至りました。
大人にもオススメ
さらに大人にも読んでいただきたいのが「夜のピクニック」の魅力であります。
あの、みなさんの学生時代には歩行祭のようなイベントは存在しましたか?私の学校には小・中・高ともそんな粋なイベントはありませんでした。(今は地元の小学校であります!さすがに日中だけですが)
これまた不思議なことに、私自身「歩行祭」は未経験でありながら、本書を読んでいると「この気持ちわかる!わかる!」なあるある現象に弄ばれてしまいます。
それはなぜだろう?と考えてみると・・・
その正体はズバリ小学校時代の通学時間なのかな?
家から小学校まではかなり距離があったうえに、町内に同学年の子がいなかったため、基本行き帰りはひとりだった私にとって、通学時間は長い散歩だったんですよね。
その頃に感じていたことが「夜のピクニック」にはたくさんあって・・・。当時心の中だけで思っていたことが、実際の言葉として蘇ってくるところに何ともいえない安堵感を覚えました。
歩いているときは、ほとんど景色なんて見ていないけれど、一瞬顔を上げたときに目に入ったただの田んぼが記憶の中ではめちゃくちゃ印象的で素晴らしいものとして保存されていることとか、当時は歩き疲れてしかいなかったはずなのに、記憶の中では道草して楽しかったことや、道端で500円を拾ってラッキーだったことしか繰り返されなかったりとか。
こういうのは、私だけではないんだなーという、自分も知っているけれど、わざわざ人には話さない気持ちを共有できる喜びに浸れるのが心地良いんですよね。きっと読者のみなさんも、私のように歩行祭は未経験でもまるで過去に同じようなことを経験したことがあるような懐かしさを感じるのではないかと思います。
おそらく散歩をしたことのある人なら全員感じたことのある内容がそこには詰まっているので、お散歩好きな大人が読んでも楽しめる一冊です。
まとめ
「夜のピクニック」を読むと、散歩に行きたくなる人は多いでしょうね(笑)それでも集団で歩くことはなかなかないと思うので、完璧な再現は難しいかもしれませんが、定期的に歩くのはとてもいいことだと思います。
この物語は何か特別なサプライズが起こるわけでもなく、ただ歩いている最中の会話だけで一冊終わっていきます。エンタメ的な青春はないけれど、リアルな青春がある。そこがとてつもなくいいのです。
同級生にいる色んなタイプの人間が、それだけで青春の記憶なんですよね。その時はそう思えなくても。
きっとこういうイベントがあったら私ももっと違う視点でクラスメイトを見れたのかもしれないと羨ましくなりましたね。
最後に心に残ったフレーズを紹介して終わります。こんなことを言えちゃう高校生がいたら間違いなく好きになりますわ。
「おまえが早いところ立派な大人になって、一日も早くお袋さんに楽させたい、一人立ちしたいっていうのはよーく分かるよ。あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほどよく分かるけどさ。(略)だけどさ、雑音だって、お前を作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う」(P189)
こんな本音は非日常的な状況でしか言えませんよね。やっぱ歩行祭は素敵だわ。
以上、「夜のピクニック」のレビューでした。
<おまけ>
実は本書で苦戦したのが登場人物たちの名前でした。みんな名前がピンと来なくて覚えるまでに時間がかかりましたm(__)mなんというか名前やあだ名自体に親しみがなくて。男女共にちょっと古めのネーミングでキャラと名前が一致しませんでした。女子は”子”が付く人が主要キャラ的なんだとのちほど理解しましたが、どちらかというとサブキャラの梨香とか千秋のほうが前に出て来そうなイメージがあって脳が素直に起動してくれませんでした(笑)
ちなみにお散歩は真冬の夜が一番心にしみますよ。桜の季節も金木犀の季節も尊いですが、私は毎年大晦日の夜に雪道をお散歩してます。幻想的な風景が最高。あ、真夏はちょっと無理ですね。