チェルミー図書ファイル180

 

 

今回ご紹介するのは、田淵俊彦さんの「ストーカー加害者 私から、逃げてください」です。

 

こちらは、NNNドキュメント取材班がストーカー加害者たちにインタビューした内容をまとめた一冊になります。

 

 

 

 

チェルミーポイント

ストーカーが被害者にどんな気持ちを抱いているのかを知ることで、現在被害に遭われているかたの参考にもなるかと思います。

 

本書では主に

 

・ストーカーの実像や加害者“治療”の必要性

・ストーカー予備軍の実態把握

 

について詳しく書かれています。また、自身の中に潜んでいるかもしれないストーカー的素質にも気づける機会になるかもしれません。

 

 

加害者に問う

本書ではストーカー加害者のカウンセリングを行っている、あの小早川明子さんから患者(加害者)を紹介してもらい、取材をしています。

 

 
 

 

小早川さんはストーカーやDV、セクハラやパワハラといったハラスメント問題に関して、被害者の心のケアを行うと同時に、加害者のカウンセリングも行うその道のプロ。今回NNN取材班の田淵さんは、自身も報道する側の立場でありながら、メディアがストーカー事件に対し、扇情的なシーンだけを重ね、加害者を単に凶悪犯や精神障害といった一面からしか描かないことに違和感を感じ、事の真相を知るため小早川さんに協力を依頼しました。

 

”加害者の典型的な傾向”を考察し、なにが原因で事件までに発展するのかを知りたい。

 

加害者がどのようにして生まれたのかを知ることで、事件防止に繋げたい。

 

そんな田淵さんの取り組みがこの本のすべてです。

 

 

3つの型

田淵さんは加害者を取材する中で、ストーカーには3つの型があることに気づきました。

 

【執着型】

元恋人などとの親密な関係が壊れた時にストーカー化するタイプ。

 

【求愛型】

ちょっとした知り合いがストーカーに発展するタイプ。

 

【一方型】

ほとんど面識が無い相手に恋愛感情を抱くストーカータイプ。

 

以下に各型別の特徴をまとめました。

※ただし、すべてのストーカーがそうだとは限らないとしてご覧ください

 

 

執着型の佐藤さん

①いつも何かに脅えている

周りの対応や反応、環境の変化や状況に敏感

 

②好きだから相手を試す

「本人は猫が引っかくくらいのつもりでやったことでも、相手はライオンに引っかかれたと思う可能性がある」ことを実感できない⇒メールで殺すと軽い気持ちで言ってしまうなど

 

③優位に立ちたい

自分よりも劣位にある異性と付き合うことで、アイデンティティーを保ちたい⇒ストーカーをやめたら自分でなくなる

 

④人間不信である

自分と真正面から向き合ってくれる人とはきちんと別れられるが、嘘つきは許せない⇒嘘をつかない人間はいないので、人間が嫌いということにも繋がっている(ただし自分がつく嘘はOKという矛盾がある)

 

⑤キレやすい

 

⑥生に対しての執着がない

生への絶望感が心の底に横たわっているため、悪事へのストッパーがない⇒どうにでもなれ精神?

 

 

求愛型の田中さん

①何事にも拘る

物事の順序や順番などの細かい規則性に拘る

 

②粘着質の性格

一つのことをとことん突き詰めないと気が済まない

 

③一本気・一途な性格

視野が狭く、融通が利かない

 

④思い込みが激しい

相手も自分を好きなのではないかと勘違いをする

 

⑤被害妄想が激しい

そのくせ周りから悪口を言われているのではないかと妄想する

 

⑥不安や不満を持っていない

被害妄想が激しいわりに、自分のやることには間違いがなく、すべては正しいと自信を持っている

 

⑦キレやすい

 

⑧孤立している

迷惑をかける相手がいないので「どうなってもいい」という気持ちになりがち

 

 

一方型の上田さん

①考えが幼稚すぎる

直接的な交流を求めず、見ているだけでいい、会えるだけでいいといった未成熟な恋愛感情を持っている

 

②相手を美化している

空想で被害者の男性像を作り上げている(本人にも自覚あり)

 

③相手に何も求めない

付き合ってほしい、メールの返事がほしいという感情はない

 

④困らせてやりたい

相手に求めるものはないのに、被害者から拒否されると怒りを感じる⇒困らせることで自分の存在感をしらしめたい

 

⑤繋がっていたい

相手のリアクションはどうでもよく、あくまで自分と被害者が繋がっているという実感がほしい⇒一方的にメールを送るなどの行為に該当する(着信拒否をされると繋がっているパイプがなくなるので不安になる)

 

⑥自分の行いをわかっている

自分がストーカーだとわかったうえで、やめられない

 

⑦自分を止められない

法律がなければ今でも会いたいし、すぐにストーカーに戻る

 

 

恋愛感情と闇

3人のインタビューを読んで、気持ち悪いや理解できないという感情よりも、「誰しもストーカーになる要素がありそうだ」と思ってしまいました。

 

ストーカー殺人の特徴として、被害者を殺して加害者も自殺するというパターンが結構多いような気がします。これが他の殺人事件とは少し違うポイントで、ストーカーたちは生きるため、逃げるために罪を犯すのではなく、そういったことに執着がないからこそ、歪んだ大胆な行動に出てしまうのではないかと思いました。

 

友人関係、家族関係、職場の人間関係に問題はなくとも、恋愛となった瞬間おかしくなってしまう人は、そんなに珍しくもありません。特に別れ話がもつれるなんて、本当によくあることで、皆さんも友人の恋愛相談に乗ったり、カップルの修羅場に遭遇したことは何度かあるのではないでしょうか。

 

個人的に数ある人間関係の中で、恋愛関係だけは異質に思えます。おそらく自分の持っている最大のコミュニケーション能力を使って、一人の人間と向き合わなければならないので、そこにエラーがあると、すぐに変な方向にいってしまうのでしょうね。佐藤さん、田中さん、上田さんのことをおかしいと思っている人の中にも、小さな彼らが心に住み着いている。そんな気がします。

 

 

まとめ

私の友人や仕事仲間にもストーカー被害に遭った人がいます。加害者はどちらもあまり接点がなかったり、まったく知らないという関係性の薄い人物でした。彼女たちから話を聞く度に思うのが「加害者はどうやってターゲットを決めるのだろう」ということです。もしかするとストーカーには、彼らなりの決め手があってターゲットを絞るのではないか。もし、それがわかれば被害を防ぐことができるのではないかと思ったのです。

 

こんなことを言うと、「お前は被害者に非があるというのか」と思われそうですが、そうではありません。

 

実はこの本ではストーカー自身が「私から逃げてください」と言っているのです。自分では悪いと思っていても止められないのだと。だから被害者には自分から逃げてほしいと訴えています。

 

たとえば相手の情報が手に入る状況にあれば、ダメだとわかっていても、どこからでも調べてしまうそうです。実名でSNSをしたり、住まいや行動歴がわかるような情報を公開すると、待ち伏せてしまい・・。もう病的にやめられないのだとか。上田さんは、被害者が引っ越して居場所がわからなくなって「よかった(これでストーカーせずに済む)」と言っていました。

 

「同じ時間の電車に乗らない」「車両を変える」「目印になるようなものを毎日持たない」「帰り道を変える」

なんで被害者のほうが気をつけなければならないんだ!と非常に理不尽なところではありますが、ストーカー本人が語る防止法を知る機会はなかなかないので、参考にしていただければと思います。私が最も気になったのが、ストーカーになる人には想像力が欠けていることでした。迷惑をかけていると思いつつも、どこか自分勝手に物事を処理してしまっている部分があり、それをカウンセリングを通し自覚していくのですが、今からどのようにして不足を養っていくのか難しいところだと感じました。(医学的アプローチが必要な人もいる)

 

また、本書では、ストーカー対策として、警察がやみくもに加害者に警告に行くというやり方は大変危険な行為だと言っています。これにより加害者が逆上したり、報復感情から被害者に危害を加える可能性があるため、海外からは信じられないという声も上がっているそうです。

 

警察が警告に行く場合は、被害者を事前に安全な場所に避難させるなどの措置が必用になってきます。さらにその際には、心理の専門家たちと連携し、加害者の特徴や情報を把握してから接触することが求められます。ストーカーは単独で立ち向かえるほど生半可なものではないという言葉が胸に刺さりました。

 

 

さいごになりますが、残念なことに、ストーカーは今も増え続けているそうです。

 

2014年の男女間における暴力調査では、数回デートをしたら「相手は自分のものだ」と思っていいと思うか?という問いに対し32.4%が「そう思う」と答え、「親しくなれば相手が嫌がることをしたり、束縛したりすることがあっても仕方がないか?」という問いには45.6%が「そう思う」と答えています。そして、高校生の時点で交際相手からDVの被害に遭っている子、歪んだ恋愛観を持っている子というのは多く、未然防止教育が『手遅れ』になっている状況です。

 

では、どこから教育をすればいいのかというと、幼稚園からだそうです。小さな頃から人権意識を持ち、人とどういうふうに接するべきかを学んでいくことが求められます。「男だから」「女だから」という意識付けではなく、一人の人間として付き合っていく意識は、束縛や支配感情を持たないためにも重要なことですよね。

 

そのためにも防止教育は義務化すべきだという声もあります。確かに人を愛するという気持ちは、人間の感情の中でも早くに芽生えるものであることからも、早期防止教育は「必要」ではなく「義務」になってくるかもしれません。

 

以上「ストーカー加害者 私から逃げてください」のレビューでした。

 

 

補足

①ネット社会の現在では、ネットストーカーなる人物もいます。これは私の考えですが、文章のやわらかい人・対応が丁寧な人=優しい人・相手をしてくれる人と見られている気がします。この人変だなと感じたときは、ハッキリと断り、早めに逃げるのがいいでしょう。

 

②世代間ギャップというのはどの場面でも感じます。ストーカーの中には100一回目のプロポーズの世代だから、男は女に何度も告白して付き合うものと認識していた人がいました。警察から注意を受けたあと、相手は若い女性だからそれが通じなかったのだとポジティブに考え、ポロポーズの頻度を減らせばストーカー行為にならないと受け取っていました。こういった人は女性を都合よく扱うために、多様性を違った意味から否定してきたりします。そしてその言葉が後半部分だけ切り取られ、まるで女性が悪者になったかのようにすり替えられたりする場面というのも確かに存在しているのです。