チェルミー図書ファイル58
今回ご紹介するのは、杉全美帆子さんの「イラストで読む印象派の画家たち」です。
10代の頃行った、フランス旅行ツアーに組み込まれていたルーブル美術館観光。
絵のことなんてまったくわからない状態で挑んだチェルミーは、解説を聞いても、どこがどう素晴らしいのか?評価のポイントはなんなのか?歴史背景に画家のこと・・何がなんだかサッパリでした。
当時は「絵について知識があれば、もっと楽しめたのになぁ」と後悔したものです。
帰国後、原田マハさんのアート小説に出会い、その後悔は決定的になりました。
なに~?!絵の世界ってこんなに尊いものだったのかぁ!!画家についてもっと知りたくなってしまったではないか~!!
今後美術館を訪れたときには、ちゃんと絵のことを理解しながら鑑賞したい!そんな思いから、チェルミーは絵画の歴史について学ぶことを決意。
学ぶと言ってもそんな大袈裟なものではなく、あくまでもプチ知識程度ですが、とりあえず現状よりもマシにしたい。
そんな中、初心者でもわかりやすかったのがこの本。
『杉全美帆子さんのイラストで読む印象派の画家たち』
今回はこちらの紹介とともに、印象派の画家たちを”おさらい”していきたいと思います。
チェルミーポイント
この本のここが好き!
・オールカラー、オールイラストで初心者にわかりやすい!
・杉全さんの描く画家のキャラが面白い!
・漫画や広告を読んでいる感覚なのに、専門書を読んだような深さ!
・文章が魅力的。ギャグセンスあり。
・印象派の画家として活躍したひとりひとりの特集つき。
印象派ってなんなの?
正直「ホワっとしてキラキラした感じ」というイメージしかなかったチェルミー。年表と合わせてまとめてみました。
①ルネサンス
美術の中心はイタリア!レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」、ミケランジェロの「最後の審判」とかそこら辺。
②マニエリスム
誇張した表現で印象に残ろうという方向性。パルミジャーノの「首の長い聖母」など。
③バロック
濃い闇と強烈な光で演出。ルーベンスの「キリスト昇架」など。
④古典主義
フランスアカデミズムの原点。プッサンの「アルカディアの牧人」など。
⑤ロココ
優雅にフワッとした感じ。ブーシェの「ポンパドゥール夫人」など。
⑥新古典主義
理想美!英雄像!普遍性!理性!ダヴィットの「アルプスを越えるナポレオン」など。
重厚な歴史をテーマ、安定した構図、静止したポーズ、理想的な容貌を持つ人物像、はっきりとした輪郭線をモットーにする
⑦ロマン主義
新古典主義の真逆。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」など。
画家が感動を覚えたテーマ、動的な構図、ダイナミックなポーズ、グロくても画家が美と思えばそれが美、線描より色彩重視をモットーにする。
⑧写実主義
あるがままの社会を描く。クールベの「オルナンの埋葬」など。
⑨バルビゾン派
あるがままの自然を描く。ミレーの「落穂ひろい」など。
⑩印象派
キラキラの明るい絵!主義主張もない「現実を見たままに」描く。アトリエを飛び出して、外で直に観察しながら一気に描き上げる!一瞬の輝きをとらえる事を目指すのがモットー。
⑪ポスト印象派
超個性派集団。
⑫キュビズム 抽象主義 シュールレアリスム
見たままではなく、自分で分割・構成する。
【印象派の改革】
①光の追求・・陰影をぼかすのではなく、光が当たっている様子を再現する
②制作スタイルの変革・・アトリエでは描かかず、外で描くことに拘る
③技法の変革・・色はパレット上で混ぜず、原色の点を並べて視覚上で混合する「筆触分割」を編み出す
④仕上げの変革・・筆跡を残さないつるつるの仕上げではなく、太い筆で大胆に絵の具を分厚く塗り重ねる質感で仕上げる
⑤連作への発展・・モネは光の変化を追うため、瞬間をとらえるために連作にいきついた
印象派の画家たち
印象派の絵画は長い間、拒絶され、ボロクソに批評されていました。
当時の美術界を牛耳っていたアカデミーが主宰するサロンに出品しても、印象派の絵画はことごとく落選。1863年には応募作品の五分の三が落選するという事態に!
不満爆発の画家たちは自ら「印象派展」を組織し、画商デュラン=リュエルの助けを受けながら1974年に「第一回印象派展」を開催します。
しかしこの「印象派展」は全八回まで続くのですが、仲間割れや美術評論家から酷評を受けるなど平たんな道ではありませんでした。
仲間割れの歴史(P85のイラスト図より参照)
「印象派展」といっても6つの派閥に分かれてピリピリしていました。
①印象派の作品を落選させるサロンやアカデミズムはムカつくけど、サロンに入選しないと明日のパンが食べられないよ~チーム
モネ、ルノワール、シスレー、セザンヌ
②印象派展の参加者がサロンに出品して落選したら、ここは落選者展に思われるじゃん!だからウチらはサロン出品反対!の印象派展一筋チーム
ドガ、メアリー・カサット、たいして実力のない画家たち
③お金には困っていないけど印象派展をよりよくしたいチーム
カイユボット、モリゾ
④サロン絶対主義者
マネ
⑤仲裁チーム
デュラン=リュエル、ピサロ
⑥参加を巡って争いの火種となるニュータイプの画家チーム
スーラ、ゴーギャン
場外:ゴッホ(第八回までに間に合わなかった)
本当はみんな困難を助け合い、支え合う仲良しグループなのに、このような対立のせいで上手くいかなかったのです。
酷評の歴史
出品する作品は罵詈雑言、誹謗中傷の嵐!
Wikipediaより
ルノワール作「陽光の中の裸婦」
批評家:腐った死体だ~!紫斑が出てるぞ!!このモデルは天然痘患者なの?
ルノワール:木漏れ日が当たっている肌を描いたんですけど・・
モネ作「印象、日の出」
評論家:なにコレ描きかけの壁紙以下じゃん。これで完成なの?
モネ:これぞ印象派だよね。
※この絵の印象の強さから「印象派」と呼ばれるようになったそうです
マネ作「オランピア」
新聞:インド産のゴムでできた雌ゴリラだ
人々:絵を破壊しようとする、怒り叫ぶ
※モデルが女神や聖母ではなく、娼婦だった点が当時の怒りをかった
マネ:見えたままを描いただけなのに・・
こんなこと言われてよく耐えたな、と思いますよ。最終的に「印象派展」は点描主義を掲げる新世代に代替わりしたのをきっかけに幕を閉じました。
・・で、結果、画商のデュラン=リュエルが一打逆転を狙いアメリカまで進出するわけです。
その作戦は大成功ようやく印象派は認められました。
その頃には既にお亡くなりになっていた画家もいたんですがね・・残念です。
チェルミーの好きな絵
酷評されていようが、絵が下手くそなチェルミーからすると全部の作品がお上手。
最後に、絵の素人チェルミーが一般人の視点で「素敵だなぁ」と思った作品を紹介します。
モネの「かささぎ」
雪景色を描いた作品の中から「し~ん」とした外の音と、ひんやりとした空気を感じたのははじめて。
そして雪国育ちとしては、この景色知ってる!この世界知ってる!という「なにか」があります。
多分それは「かげ」のせい。この光のかげのせいだと思う。雪に映るかげって明るいんですよね。凄いなー。雪が降った後の空気の中にあるキラキラがちゃんと見えるー!!感動です。
シスレーの「サン・マルタン川」
川ってこういう姿をしていますよね。よくあの水の動きとキラキラを再現できるなぁ。
空と川が見つめ合っている感じもキレイ。
こんな絵を描く人とお話してみたいなーと当時生きていたら思うだろうな。
カイユボットの「パリの通り、雨」
カイユボットさんは貧乏な画家たちを支えた人のひとりだとか。
雨の色をこんな風に表現できるなんて天才ですね。
雨が降って遠くの視界がぼやける感じもリアルだなー。
ゴッホの「ローヌ川の星月夜」
ゴッホが描く夜空の絵が大好きです。
小さい頃はゴッホの描くグルグルでゴワゴワの世界の迫力に恐怖心があったのですが、大人になった今はむしろそこに惹かれています。
不安定なんだけれど、安定して爆発している感じが安心するんですよね。不安定さの中に生きる元気!情熱!みたいな。
心を絵にするとこうなるんだっていう状態が心地よいのかも。
この頃のゴッホの絵が一番好きだな。
スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」
子どもの頃この絵のジグゾーパズルをしました。
なんでこの絵は他の絵と違って、人の手で描かれた感じがしないんだろう?と不思議に思っていましたが、これが点の集合体で絵を描く「点描技法」なるもので描かれた作品だと知り、驚き。
そんな地道な作業よくできるな~。
緑と紫を混ぜると灰色になるから
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こんな風に色を並べるなんて凄いですね。
ホント、印象に残る絵だな~。とにかくオシャレ。
まとめ
以上、『イラストで読む印象派の画家たち』のまとめでした。
チェルミーは絵画の歴史を知りたくて、その部分に注目しましたが、この本の大目玉は『画家たちの歴史』です。
印象派の画家たちの仲の良さや、亡き友の夢を受け継ぎ最後まで信じ駆け抜ける姿・・そんなところを知り、楽しむ本といっていいです。
絵と絵の繋がりだったり、背景だったり、珍エピソードだったり、画家たちの性格だったり・・丁寧でクスっと笑える解説で学べるのでオススメです。
最後のページには「あなたは誰タイプ?」という印象派の画家診断つき!(チェルミーはモリゾでした)
102ページには、美術評論家ルイ・ルロワによるポール・デュラン=リュエルとテオ・ファン・ゴッホ(ゴッホの弟)への架空インタビューコーナーもあって、めちゃくちゃ笑えます!
杉全先生は、他にも「イラストで読む絵画シリーズ」をたくさん出版されているので、皆さんもぜひ読んでみてください。
多分、あまりのカワイさと面白さに全シリーズ読破もしくは欲しくなっちゃうはず。
今すぐ美術館に行きたくなるような一冊でした。
原田マハさん大好きです