『めざせ!ムショラン三ツ星』あらすじ・読書感想
黒栁桂子さんの『めざせ!ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』のレビューになります。◇はじめに◇何も知らず刑務所の炊場(炊事工場)に飛び込んだ栄養士と、料理初心者の男子受刑者たちの給食作り奮闘記!「クサいメシ」と言われる刑務所の給食。実は作っているのは受刑者自身。そんなことも知らずに、日本一小さな男子刑務所で刑務所栄養士として働くことになった著者を待っていたのは、調理経験ほぼゼロの受刑者たち。ふかしたジャガイモを冷ますために水をかけたり、冷凍コロッケが次々と爆発したり、料理初心者たちが真剣に取り組むあまりに起こる珍事件の数々。さあ、目ざすのは「ムショラン、三ツ星獲得」だ!!(あらすじより一部抜粋)知らなかったこと・わかったこと①そもそもムショメシはクサくない②受刑者は身長によって食べられる量が違う③バナナの皮でタバコを作る人がいるためバナナは禁止④みりん、料理酒も盗み飲みする人がいるため禁止⑤刑務所給食の大原則は「平等」のため、うずら卵を使うのはリスキー!大小サイズが不揃いな冷凍食品も要注意(細かく切ったり、大きさを選別するなどの工夫をしないとダメ)⑥炊場に配属されるのは、体力があり、頭もいいエリート受刑者のみ(しかし最近はエリートたちが官民協働の刑務所に引っ張られてしまうため、ちょっとポンコツな受刑者が紛れている)驚いたこと調理の際に受刑者は、いちいち「にんじん入れます!」「醤油入れます!」と報告して、刑務官からの「よし!」(指さし付き)が出ないと動けない。こんな環境では栄養士も調理指導しにくそう(笑)基本的に栄養士は調理指導や調理サポートだけを任されているため、受刑者と一緒に調理することはありません。しかし、困ったことがあるたびに刑務官から呼び出しされ、その内容がまた「え?」というものばかりなんだとか。たとえば「いつも切れているタイプの厚焼きたまごを納品しているのに、切れていないんですよ」というヘルプ。いやただ切ればいいだけじゃん?と思うのですが、「平等に切れなかったら責任持てないんで、全部先生が切ってください」と。なるほど、そんなプレッシャーがあるのね。受刑者だってミスをして減点されたら困るし、仲間から不平等だと恨まれたくないしね。調理中にからあげが割れてしまって50個が51個になっただけでも刑務官から「誰かあとでこっそり盗み食いしようとしてたんじゃないか!(大真面目に)」と大騒ぎになるくらいですからね。ちなみにメーカーさんがサービスしてくれるオマケは不平等の原因になるため、ありがた迷惑みたいです‥。笑えたこと「たまねぎの皮はむくんですか?」「みょうがはどこまでむくんですか?」実はこの手の質問は受刑者と限らず、筆者が以前やっていた男性向けの料理教室でも多かったのだそう。特に後者の男性陣は酷かったです(笑)まず料理以前にエプロンの着方がわからない。ほとんどの男性が後ろの蝶々結びが縦になっている。「白玉粉は耳たぶくらいの固さにこねましょう」と言えば、一生自分の耳たぶを触りながらこねている。「とろみをつける」「もったりするまで泡立てる」の感覚がわからないため、「生クリームが粘性をおびて泡立て器にからみつき、動かすと重く感じる‥」などと説明せねばならない。塩少々と言えば盛り塩になる、など。今まで料理なんてしてこなかったんでしょうね。でも教室に通おうとするだけでも偉いと思いました。一方、刑務所もなかなかです。一番笑ったのは冬瓜の調理にて。作業書に「冬瓜は落とさないようにしっかり抱えて皮をむくこと」とあったため、案の定受刑者は赤子を抱きかかえるようにして冬瓜を持ち、ピーラーでむいていたそうです!ちなみに料理経験のない刑務官も上記の例とあまり差がなかったので、家事をしない男性を指導する栄養士さんは大変だなぁと思いました。※他にも乱切りをただ不規則に切るものだと思っている、軽く混ぜるの加減がわからずしっかり混ぜる、軽量スプーンを使う際に、砂糖→醤油の順番ではなく逆にして、もう一本スプーンを使うことになるなどが料理しない人あるあるだそうです感想本書には実際に刑務所で出された料理のレシピが載っています。その中で個人的においしそうだなぁと思ったのは、愛知県の学校給食でも大人気だという「イカフライのレモン煮」をちょいアレンジした「いかフライレモン風味」です。こちらは人気すぎて学校では不良グループが配膳室に忍び込んで盗み食いをしたり、地元では居酒屋やお惣菜のメニューとして登場するくらい美味しいのだそう。どんな料理かと言うと、冷凍いかフライに、砂糖・醤油・レモン汁・水を混ぜたタレをかけるだけのものなんですが、何となく味に想像がつくし、絶対美味しい!他にも受刑者が「このほうが美味しいから!」と、わざと煮崩れさせて作ったピーナツ煮も美味しそうで‥。こちらは肉じゃがで使うような具材にマカロニやキャベツ、ピーナツ和えの素をプラスした料理で、ちょっと味の想像がつかないので試してみたくなりました。また刑務所では甘いものがめったに食べられないため、パンにつけて食べられる用のカスタードを作ったりするそうです。読んでいると、みんな甘さに飢えていること!夕ご飯が早いため、朝になる頃には空腹状態の人が多発しているため、全体的に食に並々ならぬおもいを持っていることがわかりました。あとは意外にもジャンクフードが食べたくなるみたいで、特にNGにされているカップ麺が恋しくなるようです。あぁ何だか私もお腹が減ってきたな。読んでいると思わずクスッとしちゃう本書ですが、そこは刑務所、筆者も受刑者と話すときは意外と口調が荒くてびっくりしました。普通に下手くそ!とか言っちゃうんだ〜。ただ、筆者が「ちゃんと味わって食べなさいよ!愛情たっぷり入れたんだから!」と言ったときに、受刑者が「先生、愛情の安売りはよくないっスよ」「みんなつけ上がりますから」と返した場面にはハッとしました。そうですよね、栄養士は受刑者のフルネームも家族関係も、もちろん罪名、懲役年数も知らないわけで。ここでは真面目で大人しい子、癒し系な子だったとしても、どんな生い立ちをもって刑務所にたどり着いたのかはわかりません。また、彼らが栄養士の前で見せる顔と刑務官に見せる顔も違います。だからこそ勝手に仲良くなったと思ってフランクに接しすぎたり、自分が持つ当たり前の感覚を押し付けてはならないのです。そんな背景がある中で、筆者が『彼らの罪名は私の仕事に一切関係ないと気づいた。私が興味をもつのは彼らが何をしてきたかという職歴ではなく、何を食べて育ったのかという食歴のほうだからだ』と言っていたことがとても印象に残りました。食生活と犯罪には因果関係がある。心理栄養学者である岩手大学名誉教授の故大沢博氏は、低血糖症と犯罪の関連性やジャンクフード症候群について、それらが暴力や無気力、感情コントロールができないことにつながる可能性を指摘している(「犯罪・非行と食生活」、月刊誌『刑政』、矯正協会刊、平成7年2月)食が人間を支えていることは確かですし、食を学ぶことも、教えることも、安全に生きていくためには必要ですよね。刑務所を舞台にした本、ドラマや映画は数多くありますが、そこで働く職員目線の作品は珍しいなと思いました。人によっては犯罪者が楽しそうにしてるんじゃねーよ、文句言わずにクサいメシ食ってろや!と思われるかもしれませんが、健康で、見た目もよく、作ってくれた人の気持ちが込められた料理を食べてきた人と、そうでない人とはいろんな意味で差があるのだなぁと改めて感じました。これは受刑者だけでなく、仕事や家事・育児・介護などで日々忙しく、時間に追われ、食事の優先順位が下がり、いつもコンビニ飯やカップ麺ばかり‥口に入れば何でもいい、お菓子だけでいい、いや食べなくていいという人も同じです。食生活が乱れると、それはまず見た目に表れ、最終的には精神面にも影響を及ぼすからです。私たちの生命線でもある食事を疎かにするということは、自分を大事に出来ていない証拠と言っていいでしょう。そんな意味でも、本書は大勢の人に届いてほしい一冊だと思いました。心当たりのある方は食を大切にしてくださいね。今回紹介したのはコチラめざせ!ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシつくりますAmazon(アマゾン)面白そう!と思った方は、ドラマ化もするのでせひ読んでみてください。以上、レビューでした!