小説|君が最後に遺した歌|あらすじ・ネタバレ・感想
一条岬さんの『君が最後に遺した歌』の完全レビューになります。こちらは原作のレビューになるのでご注意を!映画とは少し違った内容になると思うので、両方とも気になると言う方は、ぜひ原作のほうもチェックしてみてください。※以下ネタバレを含みますあらすじ・登場人物田舎町で祖父母と三人暮らし。唯一の趣味である詩作にふけりながら、僕の一生は平凡なものになるはずだった。ところがある時、僕の秘かな趣味を知ったクラスメイトの遠坂綾音に「一緒に歌を作ってほしい」と頼まれたことで、その人生は一変する。“ある事情”から歌詞が書けない彼女に代わり、僕が詞を書き彼女が歌う。そうして四季を過ごす中で、僕は彼女からたくさんの宝物を受け取るのだが……。時を経ても遺り続ける、大切な宝物を綴った感動の物語。(あらすじより)水嶋春人 幼い頃に事故で両親を亡くしてから祖父母と暮らしている。卒業後は祖父母へ恩返しするために進学せず、町役場で働きたいと思っている。しかし、高齢の祖父母に代わって日々の家事をする必要があった春人は、部活に入ることが出来ず、それが就職活動をする上でのネックになっていた。そんなとき、担任から全国高等学校文藝コンクールへの参加を勧められ、それを公務員試験の面接で部活動の代わりにアピールすればいいとアドバイスされる。さっそく詩を作って応募すると、初回から入選し、その才能を廃部になった文芸部の顧問・藤田に認められ、個人指導を受けるようになる。※原作では平均身長のフツメンで容姿にコンプありという設定ですが、映画の春人役は高身長の道枝くんです遠坂綾音 幼い頃に両親を亡くしてからレストランを経営している叔父と暮らしている。叔父の友人たちと組んだバンドでボーカルを担当しており、毎月レストランでカバー曲を中心にライブをしている。しかし現在はメンバーからオリジナル曲を作るように言われ、苦戦中。学校では誰とも関わらないようにしているため「鉄の女」と呼ばれているが、本当は発達性ディスレクシアで、読み書きが困難であることを隠すために孤立していた。そんなある日、教務室で藤田が春人の詩を読み上げているところに出くわし、その美しさに感動した綾音は、春人に歌詞を書いてもらえないかとお願いする。※綾音は高身長美女設定で、映画ではめるるが演じています遠坂正文 レストラン「トラットリア・マサ」を経営する綾音の叔父。38歳の独身。ケン ギター担当。正文が高校時代に組んでいたバンドのメンバーで、過去にはプロのミュージシャンとしてレーベルに所属していた。現在はフリーでスタジオミュージシャンやバンドのサポートメンバーなどをしている。綾音と春人の恋のキューピッド。ヨシ ベース担当。経歴はケンと同じ。→ケンとヨシは綾音がデビューする際に、バンドメンバーとして一緒にデビューする出会い最初は綾音からのオファーを断っていた春人だったが、彼女の歌声を聴いてからは、その才能に感動して作詞を引き受ける。二人は元文芸部の部室を借りて、そこで曲作りに励むうちに、やがて互いの生い立ちや悩みを打ち明ける仲になっていく。ある日、綾音が路上ライブをしていたときに撮られた動画がSNSで拡散され、そのコメント欄に「高校生の二人組(綾音と春人)が歌を一緒に作っているようだ」と書き込まれてしまう。それが学校でも噂になり、綾音は派手なグループの男子生徒から「文化祭でやるライブに参加してほしい」としつこく誘われる。綾音に冷たく断られた彼らは、春人に彼女を説得するよう脅しをかけるが、その現場を藤田に見つかり失敗する。しかし次の日から二人は、一軍の命令に従わなかった罰として、クラスメイト全員から無視されることになった。解説このイジメが結構しつこくて、特に男子から綾音への嫌がらせがウザいのなんの。体育祭や文化祭でみんながやりたがらない役割を押し付けたり、綾音がディスレクシアであることを広めて馬鹿にしたり。ようやく春人や先生たちの説得が叶い、綾音が歌手になる勇気を出しかけたときも、その夢を否定して心を抉ってきたり、マジでいい加減にしてほしい存在でした。そのくせ綾音が売れっ子歌手になってからは友達になろうとしてきて‥もうウンザリ!しかし二人は周囲から孤立すればするほど親しくなっていくという、イジメっ子からしたらドンマイな展開に。綾音は美女で才能持ちの設定なので、同性異性関係なしに嫉妬されやすくて大変そうでした。別れ早くも後半のレビューに入ります。結論から言うと、本書も前作の『セカコイ』と同じで片方が亡くなってしまいます。しかも今回は女の子のほうが病死しちゃうんですね。ちなみにセカコイのレビューはこちらから『「今夜、世界からこの恋が消えても」一条岬(原作)』道枝駿佑さん(なにわ男子)・福本莉子さん主演の映画『今夜、世界からこの恋が消えても』(通称セカコイ)の原作を読んでみました。 <あらすじ> 一日ごとに記憶…ameblo.jpちなみに今回の別れは綾音が上京する時と亡くなる時の二回あります。一度目の別れ高校卒業後は地元で就職したいと言う綾音。その理由は「歌がうまくたって、逃げることにしか使えない」「皆が普通に、当たり前にできることが私にはできない。だからせめて、就職くらいは普通にしたい。歌手とか、そういう不確かなものじゃなくて。普通の人たちの中で、普通にやりたい」から。解説確かにこれも本音ではあると思うのですが、歌手を目指さない一番の理由は、もしデビューできたら春人と一緒に曲を作れなくなるからだったんですね。実は二人で過ごすうちに春人を好きになっていた綾音。だからこそ歌手になる未来と引きかえに、大切な日常を手放したくなかったのです。それを知った春人は、自分のせいで綾音の将来を閉ざしてはならないと思い、「そんなことよりもオーディションを受けたほうがいい」と伝えます。尊い日々を「そんなこと」にされ、ショックを受けた綾音は、一方的に春人との関係を遮断します。しかしその間にきちんとオーディションは受けており、途中アクシデントを挟みながらも見事合格を手にします。このアクシデントの際に、春人から助けてもらったことがキッカケで、今までの無礼を詫びた綾音は、上京直前に手紙を残して去って行きます。そこには春人とは両想いだと気づいていたことや、春人が綾音の夢のためにわざと好きではないフリをしてまで東京へ送り出してくれた気持ちを無駄にしない決意が綴られていました。再会、そして二度目の別れデビュー後、綾音は瞬く間に手の届かない存在になっていく。一方、春人は公務員になってすぐに祖父母を立て続けに亡くし、ショックを受けていたところ、ある女性から気に入られるが、綾音のことが忘れられずにウダウダ‥そこへ綾音の熱愛報道が出てグダグダ‥。しかしその女性は良い人で、春人の話を聞くと、綾音のライブチケットをくれ、「一度ライブに行って曲を聴いたほうがいい」と意味深なことを言う。思い切ってライブ会場へ行くと、そこでは綾音がライブでしかやらない自作曲『春の人』を披露しており、それが自分へのラブソングであることを知る。もちろん綾音も春人がライブに来ていることに気づき、講演後には待ちに待った再会を果たす。こうして互いの夢(歌手になる)や目的(祖父母を看取る)を達成した二人は、ようやく交際をスタートするが、やっとのおもいで結ばれたと思ったら、今度は急に綾音が体調不良になる。春人は「妊娠では?」と喜ぶものの、病院に行くと、治療法が確立していない、免疫に関する難病の一つで、余命一年半であると宣告される。また、予想通り妊娠していたことも判明するが、それよりも突然の余命宣告には困惑する。結末は?結局、綾音は病気を公表して芸能界を引退。春人も役場を辞めて綾音と結婚し、二人で水嶋家で暮らすことにします。医師に確認したところ、妊娠出産は可能とのことだったため、綾音は女の子を出産し、その後は宣告されていた時間よりも少し長く生き、家族三人でたくさんの思い出を作りました。付き合う→病気発覚→亡くなるまでがあっという間でしたね‥。急展開な後半でしたが、綾音にとっては幸せな最期だったと思います。娘について娘の名前は二人で考えて「春歌」になりました。小説の冒頭に登場する春人と話している女性は、この春歌なんですね。てっきり春人の新しいパートナーかと思っていたら違いました(笑)春歌は両親の馴れ初めを知りたがり、それを春人が語っていく回想シーンが、この物語という構成になっています。ちなみに春歌は幼い頃からケンやヨシたちに鍛えられ、立派に母親の才能を受け継いだ歌手になります。そして生放送の歌番組で、綾音と春人が作った思い出の曲をなんとケンやヨシたちの演奏をバックにして歌います。実はこれ、綾音が生前やりたいことリストに遺していた「昔のバンドメンバーでステージにたつ」を再現したものなんですね。しかも春歌は口パクで「ちゃんと残るから、お父さんの詩は」とメッセージを送るサプライズまで用意していました。ついしん春人の詩、ずっとおぼえて残すつもりだったのに、しんじゃってごめんね。(P274の綾音の手紙より)印象的なフレーズ今回印象的だったフレーズはこちら作曲は出来るし、歌えるけれど、歌詞が書けないことにコンプレックスを抱えている綾音の叫びと、いくらコンクールで評価される詩を書いても、それは一時のものであり、誰の心にも残らないと嘆く春人の呟きになります。「好きというよりも、なんだろうな。歌っている時だけは、世界が私を愛してくれる気がするんだよね。未来とか過去とか、そういうものから逃れられる気がするの」未来や過去。未来は学生の僕らには常に付きまとい、過去も時に這い寄ってくる。(P44)「歌詞なんて、歌われなくちゃ紙にへばりついてるだけだよ。皆の演奏と遠坂の実力があってこそだろ」(P89)作詞と作曲を通して二人が一つになっていく感じが、ずっと孤独だった彼らの寂しさを満たしてくれているようで、「やっと不安の隙間を埋める自信を持つことが出来て良かったね」という気持ちになりました。まとめ正直、(作者は違うけれど)『キミスイ』や『セカコイ』では、死で感動を誘うのはちょっと‥と思う派だったのですが、本書では意外にもグッときてしまいました。ちょいちょい気になる設定はあったのですが、(綾音が発達性ディスレクシアへのサポート体制がない学校に自力で受験して通っていること、病名不明の難病で自然分娩ができていることなど)綾音と春人が似たような生い立ちを抱えていて、そのせいで人生に制限をかけて生きてきた姿を見ると切なくて‥。まず自分の人生よりも祖父母への恩返し、叔父への恩返しが先だから地元を離れられない。進学できない。病気のせいで夢を見られない。せっかく歌手になっても色んな制限があったり、逆に今まで出来ていたことが出来なくなったり。一番グッときたのは、春人の祖父が亡くなったシーン。祖父母を看取った瞬間に天涯孤独になった春人を思うと、若いのに本当に辛かっただろうなと。せっかく綾音と家族になれても、彼女もまた先に逝ってしまったわけで‥。だからこそ春歌がいて良かったと思うし、ケンやヨシや叔父さんがずっと春人を支えてくれていたみたいで安心しました。というか、ケンも春人と同じで妻子を亡くしていたのね‥。出産中にお子さんと共に亡くなってしまったのだとか。春歌が無事に生まれたときに自分事のように喜んでくれたケンに、そんな背景があったのかと思うと、最近涙腺がゆるいのでウルウルきちゃいました。恋愛小説としてはベタな展開だったけれど、サイドの設定がよくて、個人的には前作より泣けましたね。最後にどうでも良い感想を残します。恋愛小説として一応恋人としての一通りのシーンはあるものの、その描き方はTHE純愛です。まず付き合うまでに数年かかっているし、そもそも高校時代は両想いなのに付き合ってすらいません!手をつなぐシーンも、路上ライブをしているのを警察に見つかって逃げるときとか、綾音が歌手になるかわりにせめて春人に手をつながせてほしいと頼んだときとか、そういう平成の青春ドラマみたいな懐かしい流れの中にありました。綾音は何かと歌手になる前に〜を理由に春人との甘酸っぱい思い出を作ろうとしていましたが、春人はお願いを聞くことで綾音の決心が揺るがないか心配していたのが印象的でした。だって春人も綾音が好きなんですよ?でも綾音の将来を優先するために、自分の気持ちを隠して「歌手になって成功してね」と送り出すんですよ?これが愛なのか、それとも環境が生んだ自己犠牲なのか。そこはちょっと微妙かも。綾音が病気になったときも、最後まで不安を隠し、彼女のやりたいことに寄り添っていた春人。自分の気持ちよりも、常に相手の気持ちを優先する春人。これからは自分のことも愛してほしいです。楽曲たち初めて二人で作った曲は『君と見つけた歌』初めて綾音が作詞した曲は『春の人』そして最後にもう一度二人で作りたいと綾音が希望して完成したのが、『春の人』を春人が作詞し直した『春の歌』になります。ぜひ楽曲にも注意して読んでください。想像が広がります(笑)もしこの二人がアルバムを作っていたらタイトルは『一心同体』でしょうね。互いがプレゼントしたハンカチをずっと使っていたりするくらいだし、なんか小説だからこその世界!という非現実感を思い出させてくれる一冊でした。君が最後に遺した歌 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