『みんなで決めた真実』を何とか最後まで読み切った感想
似鳥鶏さんの『みんなで決めた真実』のレビューになります。この本を読んだ理由→今年のオススメ小説としてテレビやSNSでめちゃくちゃ紹介されていたから。読んでみた感想→読みやすい文章なのに、大半があらすじの内容だったため、途中から退屈になってあまりスラスラ読めなかった。何度もリタイアしようかと迷ったが、後半の宇宙飛行士の話から動きが大きくなり、面白くなったため、無事に完走できた。以下は本書の概要になります。あらすじ・登場人物犯人はあなた。名探偵がそう決めました。真実なき時代のモキュメンタル・ミステリ!!◆あらすじ◆裁判の生中継が一大エンターテイメントとなり、「名探偵」が活躍する社会。法学部生の僕はじいちゃんと裁判中継を観ていた。一瞬でトリックを暴く名探偵。有罪は確定。しかし、じいちゃんは言う。名探偵の推理は間違っている。凄腕の探偵だったじいちゃんは法廷でかつての弟子と推理対決をすることに。▼登場人物芳川昭(以下じいちゃん)は、介護付有料老人ホーム『ジョイフルライフ八幡町』に入居中の元名探偵。いつもスタッフの安藤さんから車椅子の介助やお出かけの付添いなどをしてもらっている。そんな二人のもとへ頻繁に訪れる悠人は、幼い頃から自分のことを本当の孫のように可愛がってくれるじいちゃんに懐いており、人生の師としても尊敬している。しかし、この度じいちゃんの探偵時代の弟子がテレビで「紳士探偵・佐伯鷹羽」としてもてはやされ、すっかりタレント化していることに、じいちゃんが気づいて激怒する。それも当たり前、なんと佐伯鷹羽は本業を忘れ、テレビ局の言いなりになり、台本ありきのエンタメ推理を披露しながら、ありえない数の冤罪事件を生み出しまくっていたのだ。やがて入居中のおばあちゃんに会いに『ジョイフルライフ八幡町』によく訪ねてくる常連の一人で、現在JAXAの二次試験まで通っている内海君は、夢への一歩手前で名探偵とテレビ局から殺人事件の犯人に仕立てられてしまう。→こうしてじいちゃんは内海君を救うため立ち上がる!というのが大まかなあらすじになります。怖い世界裁判が生中継され、エンタメ化され、国民感情によって判決が左右される世界。怖いけれど将来的に似たようなことが我々の世界にも起こり得るのでは?と思ってしまいました。この世界で起きていること・CDというドキュメンタリー番組で、世間の注目を浴びそうな殺人事件の裁判を生中継している。推理はテレビ局と懇意にしている探偵事務所の名探偵が引き受け、彼らは紳士探偵、東大生探偵、ラーメン探偵などそれぞれキャラ付けされ、タレント化している・犯人は名探偵とテレビ局が決める・犯人役に選ばれるのは美男美女やSNS受けする口が堅い人・犯人には台本が渡され、話に乗ってくれた場合は、懲役三年執行猶予三年、元犯人としてワイドショーのコメンテーターをしたり、本人のやる気によっては俳優やバラエティタレントにもなれる特典がある・番組では加害者に同情がいくような演出もあるため、被害者遺族は犯人への判決やその後の芸能界デビューにも文句を言えない。そんなことをした日には世間から「被害者ビジネス」と袋叩きにされる・番組内で名探偵のおかしさを指摘した人は消されるみんなで決めたエモーショナルな真実にメスを入れようものなら、その人は「面白いところを邪魔した空気のよめないヤツ」認定されてしまいます。視聴者の中には名探偵の推理に疑問を持つ人もいるのですが、そんなことを言えば炎上してしまうので全員沈黙を貫くといった状態。正直、名探偵たちの推理は穴だらけで、素人の私ですら「それ、おかしくない?」と思うレベルですが、残念ながら多くの視聴者が勢いだけで祭りに参加しているため、名探偵は正義!間違わない!から抜け出せず、裁判の異様さに気づけずにいます。オールドメディアの闇小説の中の出来事とはわかっていても、テレビ業界は真っ黒だなと思うようなことがたくさんありました。テレビ局、芸能事務所、広告代理店のトリオが本当にどうしようもなさすぎる。やがてCDブームは終わるとわかっていながらも今だけ稼げればいいの精神で裁判と無実の人間を傷つけて司法を破壊しているのです。最低ですね。そもそも善悪を空気で決めるってさぁ(ため息)。一人の人間の人生を大きく左右する重大な決断をそんな無責任な方法で済ませるなんて終わってますよ。裁判官の言うことだけが真実ですか?どうせ真実なんて分かりようがないんです。だったらせめて、皆が一番納得する形にした方がいいじゃないですか(P133)いやいやいや、大事なのは事実でしょう。やったかやっていないか、それだけ。皆が〜なんて関係なく、大事なのは事実を明らかにすることですから! どうせブームが去ったらそのみんなとやらは敵に回るだけなのに。バカだなぁ。でも気づいた時には既に抜けられないようになっているのか。やっぱテレビ業界は怖〜い。まぁ結局悪いのはメディアに流されている私たち一般人ですが。評価は★★★☆☆筆者の本はお初でした。前々からお名前は知っていたのですが、読む機会がなくて今回ようやくチャレンジしてみた次第。辛口レビューは心が痛みますが、ちょっと私にはあわなかったですね。誤解がないように言うと、ストーリーは面白いです。文章も読みやすい。ただ、私にはあわなかっただけ。おそらくここが笑いどころなんだろうなぁーという部分が単にツボらなかっただけなんです。笑いのツボが違う‥こればかりは仕方ない。じいちゃんは面白いと思えたのですが、安藤さんが寒かった。でも安藤さんは重視キャラと言うか、多分読者人気がありそうな愛されキャラっぽい感じだったので登場シーンが多く「あーどうしよーユーモアタイム発動してるみたいだけどクスっとならないよー」の連続でお腹いっぱいになってしまいました。ごめんなさい。これは個人的な問題なので小説は悪くありません。私以外の人はふつうに楽しめると思われます。私はあくまでもじいちゃん推し。宇宙飛行士を目指して頑張っていたのに犯人にされてしまった内海君みたいな誠実で強い子も大好き。紺野星人の話とか大岡越前の話とか、ちょいちょい挟むエピソードも凄く良かったです。子供の頃それこそじいちゃんと一緒にテレビで見た『娘の母親だと名乗る二人の女性が登場し、腕を引っ張りあって勝ったほうが母親だと認められることになったけれど、片方の女性が腕が痛いと言って泣く娘を見て手を離してしまい負けてションボリするものの、最終ジャッジでは本当の母親なら痛がる娘の手を離すはず!それが親というものだ!となった』回を思い出して懐かしくなっちゃいました。ラストシーンの紺野君は、悠人が今では正義の側にいたことを知り、喜んでくれたってことでいいのかな?当時は子供だったから悪意なく間違った判断をしたけれど、やはり悠人は変わっていなかったと思ってくれたのかな。人を信じるって難しいけれど、大切ですね。あそこは感動しました。最後に私が考えさせられた文章のメモを紹介します。トリックのありそうな事件にすればCDになる。CDになればいいかげんなシナリオに沿って他の誰かが犯人になるかもしれないし、最悪、自分が犯人だとされても同情され、執行猶予が付き、社会的地位も保障される。(略)CDが殺人事件を誘発している。➖➖以前は報道倫理の問題として散々議論されたはずです。犯人の言い分をメディアが取り上げてはいけない。生い立ちや人となりを有名人でもあるかのように報道してはならない、と。事件を起こせば言い分を皆に聞いてもらえる、と考える者が出てくる。(P255)犯罪者が美男美女だとファンが出来たり、少しでも共感できるようなところがあると持ち上げたりするという現象は、既にリアル世界でも起きていますよね。国によっては国民感情に司法が振り回されていたりもする。自分が無実でも犯人にされちゃう確率はゼロとは言えない世の中かもしれないと思うと、改めて死刑制度は怖いなぁと思いました。補足ミステリ要素は控えめなため、そこを楽しみにしている方には少々物足りないかも。逆に司法に興味がある方にはウケるかも?本書のメインは同調圧力に汚染された社会。もし私のように途中でリタイアしそうになった方は、内海君が宇宙飛行士を目指すところ〜じいちゃん名探偵が弟子を論破する場面まで諦めずに読んでほしい!以上、レビューでした!みんなで決めた真実Amazon(アマゾン)