私が勤めていた一時保護所は常に子供が3人以上はいて、
賑やかで、わいわいがやがや、ガチャガチャしている空気だったけれど、
子どもが家に帰るタイミングが重なって、
保護所にいる子どもが一人だけになるタイミングが、ごくたまにあった。
すぐに新規保護の子が来るので、本当にひとときの時間。
もうすぐ3歳になる子と、私と、二人だけの1日があった。
その子は、自閉症傾向が強くて、
全くおしゃべりしないし、かまってほしがらないし、
抱っこ要求もないし、それを寂しがってる様子もなく、
一人でいることが好きで、笑顔もほとんどなかった。
感情の起伏が全然なくても、生きているだけでかわいらしかった。
まんまるな目、まんまるなほっぺ。
赤ちゃんってなんて無垢なんだろう。
その子と二人になった午後、お散歩したことを時々ふと思い出す。
寒い寒い冬の日で、どんよりと曇った空は暗く重く、風が冷たかった。
二人ともしっかり防寒着を着こんで、
その子はつなぎのコートでまんまるくなって、
お互いしっかりと手をつないでいた。
一時保護所のまわりの田んぼ道を、ゆっくり1時間くらい歩いた。
2歳の歩幅に合わせて歩くのは、切るように冷たい北風を更に冷たく感じさせた。
子どもは隣で静かに私の手を握り返し、頬を真っ赤にして、前だけを見ていた。
世界が、二人だけになったような、不思議な感覚だった。
寒くて誰もいなかったし、田んぼもあぜ道も、遠くの山も、
見渡す限り、全て枯れた茶色の世界。
静まりかえって、寂しくて、暗くて、寒くて、でも、なぜか優しい。
自然の豊かさと、つないだ小さい手の生命力。
不思議な、穏やかな時間だった。