里親へ行った子供の話。
4歳のこどもだった。
お母さんが一人で育てていたけれど、いろんな事情で育てられなくなった。
里親へ行くことが決まった。
マッチング。里親候補さんと子供の相性を、お互いにみてもらう。
何度も里親家庭へ、児童相談所の職員と子どもとで交流に行った。
顔合わせ、半日交流、一日交流、最後はお泊りもした。
里親さんは自分たちに合うか確認し、引き取るなら覚悟を固めていったんだろう。
子どもはとてもいい子だったし、育てやすい子だったから、案の定、マッチングはすぐに決まった。
子どもも、最初から、交流を楽しめていて、いつもご機嫌で保護所に帰ってきた。
里親という言葉や、いずれそのお家で暮らすことなど、たぶんギリギリまで知らされなかったと思う。4歳だから。
私達職員も、そういう大事なことは何も触れない。
ただ、「今日どうだった?」という会話だけ。
「おじちゃんと遊んだ」「おばちゃんのごはん食べた」とか、おしゃべりした。
だんだん「おじちゃんとまた遊びたい」「次はいつ?」という言葉が聞けたので、子供にとっても相性が良かったのだと思う。
そんな、日常会話みたいな会話しかしてないんだけれど、
子どもはやっぱり、自分の運命が動いているのを感じるものなのだろうか、
決まりかけた頃、妙におとなしい日々が続いて、「さみしい」と職員に甘えていた。
その子にとっては珍しい事だった。
親に甘えることができなかったため、他人に甘えることを遠慮している子だったのだ。
職員に抱っこされることが増えていた。
おとなしい日々を過ごした。
でも数日すると、いつもの様子に戻り、元気でやんちゃで、また交流に出かけ、元気いっぱいだった。
いよいよ里親委託の日が決まった。
「明日は、おじちゃんの家にいくんだよ」と本人もとても楽しみにしていた。
出発の日は、早めに準備を終えて、まだかなーとお迎えを待っていた。
迎えに来た児童相談所の職員と手をつないで、元気にうきうきと出て行った。
こちらを振り返ることなく、お別れを忘れるほどに、前を向いていた。
職員としては寂しかったけれど、とてもとてもうれしい別れだった。
未来に希望をもって、楽しそうに保護所を出ていく姿は、本当にうれしい。
不安いっぱいで、泣きそうな顔で帰る子もいるのだから・・・
4歳の心の中が、どんな気持ちだったのか、本当のところはわからない。
でも、会話に親の話が全然でてこない子だった。
甘えられずに育ったから、何か思う所もあったのだろう。
里親さんの所へ行くこと、もうママの所へ戻らないことを告げられた日も、
落ち込むことなく、荒れることなく、いつも通りの様子だった。
里親さんのところで、思いっきり甘えられるといいね。
たくさん遊んでもらえるといいね。
飽きるまで抱きしめて、あたまを撫でてもらえるといいね。
手をつないで眠れるといいね。
たくさん愛してもらえますように。
幸せそうに保護所を去って行ってくれた、うれしい思い出のひとつ。