俺は覚醒剤の依存にさいなまれ続けてきた。
それはとても生易しいものではなかった。
売人生活を送りながら、どんどん覚醒剤の深みにはまりこんでいった。
先日、入院していた当時の話を少し聞く機会があった。
当時の看護師は、今まで見てきた中で一番使用量が多く、一番深みにはまっていた過去を持っていると話していたらしい。
ぱっと見はそうは見えずに自分でも何とかしようとしているので、普通に接してくれていたと聞いた。
全然気づかなかったが、当時の自分の見てきた世界はあまりにもすさまじく、刑務所を探しても同じような経験をしている人を見つけることが出来なかったから、少し納得した部分もあった。
すさまじい幻聴は一日中鳴りやむことはなく、鳴り続ける怒号のような怒鳴り声、急に聞こえる死ねという叫び声。常に俺には何者かが語りかけていた。
妄想と現実の狭間が次第になくなっていき、何が現実で何が妄想なのか境がなくなっていった。
時には幻覚を伴う日も増えていった。
使用量は月に20gを超えるようになり、自分の力では覚醒剤を止めることなど考えられなかった。
気づけば3カ月ほどが過ぎ、ふと一瞬我にかえる。
だがそれも一瞬。また覚醒剤を打ち続ける。
何度止めようと思ってもやめられない。
現実と妄想の狭間から抜け出せない。
鳴り響く幻聴が頭から離れない。
懲役を経験しても変わることはできなかった。
頭の中には常に覚醒剤が支配している。
何度も挫折をあじわいながら、頻度は徐々に減っていった。
入院したころには量も頻度も落ち、見た目にはあまりわからなくなっていた。
だがそれでも頭の中はシャブで支配され、妄想や幻聴が常につきまとい離れず、妄想の世界から抜け出せないでいた。
誰にも言えることなく、苦しんでいた。
入院生活、施設での暮らし、2度目の懲役。
それらを通して人とのつながり、関りの中で少しづつ自分を取り戻していった。
落ちるところまで落ちた俺を、それでも信用してくれた人達を裏切ることなどできなかった。
自分の力ではどうやっても止めることが出来なかった。
それが人の力を借りて、はじめて自分を止めることができた。
自分がほんの少し、変われた瞬間だった。
そんな過去を経験したからこそ出来ることがある。
そんな過去を経験したからこそ語れることがある。
できればそんな過去を経験してほしくない。
だから真剣に向き合える。
覚醒剤の依存症だった過去を通して伝えたい。
必ず変われる。
必ず自分を止めることができ、人生を変えることができるから諦めないでほしい。
俺はまだ伝え続ける。